第九十話『ロウウェンは気がかり。』
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「おーい」
スイは魔獣の背から、
ユンタ達に声をかけた。
イファル国内の最北端に近い、
広々とした平原で、
スイ達の他の五人は立ち尽くしていた。
「見たところ何もねーんだヨ。
ラクシェー、ハツー、ほんとに此処で合ってんのかヨ」
「えぇぇ、間違い無いよぉ?
確かにぃ、
来る途中から何にもないなぁとはぁ、思ってたけどぉ」
「……さっきの凄い魔力の反応が薄い。
逃げられたのかな……?」
「マジかよーー」
「虚仮威しで、
わざわざロウ兄を出さんじゃろ。
何か企んどるんか、
皆、気をつけた方が良えの」
その時だった。
だだっ広い平原の、地中から、
無数の腕が地面を突き破って飛び出し、
這い出る様にして、
大量の殭尸が一向に襲いかかろうと、
唸り声を上げながら出現した。
「出しよったわ。
シャオちゃん、ここらは昔、戦場だったかの?」
「確かそうです!
埋葬された兵士達を操ってるのでしょうか!?」
シャオはヤエファに返事をしながら、
頸を目掛けて飛び掛かろうとしてきた、
殭尸の頭を蹴りで打ち砕いた。
「おそらくそうじゃの。
こげいっぺんに出してきよってから、
目眩ましのつもりかの」
「殭尸より、だいぶ腐ってるし!?
てかほぼ骨だし!! 知らんけど!」
「ガコゼーーーッッ!!
セコい事してんじゃねーーー!!
つーか、くっせーーー!!」
取り囲もうと群がって来た殭尸を、
ユンタが武器で次々打ちのめすと、
辺りには酷い腐敗臭が漂った。
「鼻が曲がりそうッスー!!」
倒しても倒しても、
湧いて出るのか、アンデッド系の魔物の為なのか、
殭尸の大軍は一向に減る様子が無かった。
「参ったな。消耗する事は無いけど、
ガコゼが時間を稼ごうとしているなら、
相手の思う壺だね」
「ハツ。まだロウ兄の魔力は探知出来るかの?
微量でも残っとらんか?」
「……完全には消えて無い。
でも場所が特定出来なくなった……」
「ユン姉! 急いでトナちゃん出してくれんか!」
───『牢獄の蛍火』
平原の上、
一向と殭尸の大軍を一斉に囲む様にして、
炎が噴出する様に舞い上がり、
ドーム状に火の手が宙に向かって伸びると、
腐乱した一部の殭尸の、残留したガスに引火し、
様々な破裂音を立てて、
次々に爆発が巻き起こった。
爆発が収まると、
意思を持った様にして、炎は揺らいだ後に消え去り、
焼き払われた平原には、
真っ黒に焼け焦げた無惨な殭尸達と、
ユンタの召喚したクラウンレインディアの姿があった。
「やれんの。
ユンタも居るんかや。
こりゃ相当やる気出さんといたしいのう」
男の声がした。
肌の色の悪さから、普通の人間では無いことは確かで。
ガコゼの操る殭尸である事も明白だったが、
意思を持って、ハッキリとした声で喋っている。
その殭尸の姿を見て、ユンタは舌打ちをした。
「マジでロウウェンじゃーーーん……」
「ユンタ。久しいのう。
お前は、いっそも見た目変わらんのう」
「あんたもじゃん」
「何せ死んどるけの。
しかしお前、いつまでも餓鬼みたいな格好してから」
「ウチの勝手じゃーーん。つーか化けて出てきて、
いきなり説教?」
「当たり前じゃ。死人に心配かけとったらいけんのう」
「うーーーわ、マジロウウェンじゃん。
あんた自分が死んでから、
どんだけ経ったと思ってんだよ?
昨日別れたみたいに普通に出てくんじゃねーよ」
「相変わらず口が悪いのう。
それに乳も、いっそ大きうならんのう」
「てめーー、化けて出れねーよーにしたろか!!?」
◆◆
「あの人が鬼火のロウウェン」
痩身長躯、
それにヤエファと同じ赤い瞳をしており、
殭尸となった今でも、生前の姿と殆ど変わらずにいる、
非常に整った顔つきの黒髪の若い亜人の男だった。
ロウウェンは、
太い尾を、ゆらゆらとさせながら、
ユンタとの会話を楽しみ、時折笑顔を浮かべながら、
懐かしんでいる様子だった。
「めっちゃイケメンッスね……!」
「……ロウウェンが死んだのって、百年くらい前だよね?
ちょっとも腐ってたりしてない……」
「ひょっとしたら、
死んだ直後に殭尸にされとったんかも知れんの。
殭尸にしてしまえば、腐るんも遅うなるけ」
ヤエファは舌打ちをした。
「百年もロウ兄はガコゼに、こき使われとったんじゃ。
あの外道だけは、よいよ許せんの」
「ヤエファ。
久しいのう。お前は……、えらい別嬪になったのう。
そげ色っぽい格好をしてから、
兄貴としちゃ、複雑じゃ。
おかしげな男が寄って来とりゃせんか?」
「ロウ兄。
わっちは、どっちかと云えば女が好きじゃけ」
「わはは。
そうじゃったか。それなら良えか。
悪いんが寄ってきたら、ワシが何とかしちゃるけの」
「適当な事言うちゃいけんの。
ロウ兄はもう、この世におらんのじゃからの。
姿形も中身もロウ兄じゃが、
ガコゼの造り出したまやかしじゃ。
よいよ、せんない事をしよる」
「アイツは、
よいよ、つまらんのう。
情け無いが、ワシゃ、どうにもしちゃれんけ、
お前らで、張り倒してやってくれのう?」
「ロウ兄、ほんとに情け無いの」
「ああ」
「ほじゃけど、安心して大丈夫じゃ。
ロウ兄が、もう起きんで良え様に、
わっちが楽にしちゃるけ」
「頼んだけの。ヤエファ」
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