第八十九話『完全無欠では無いけれども。』
本日投稿の最終話です!
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「天恵者」
「コトハさん達とおんなじ、
滅茶苦茶に強いって云う人達なんスか!」
「……聞いてないんだけど。
能力にも依るけど、
その場しのぎのパーティーじゃ、勝ち目無いじゃん……」
「ロウウェンはどんな能力なの?」
「炎じゃ」
「絵本と同じだ」
「そうじゃ。ただ、ロウ兄が操るんは、
火炎魔法の類いじゃ無いけ、詠唱が要らん。
身に宿したスキルで、
身体から発火する能力と、
その温度を魔力で操作し、
極めて低温の炎から、天体に近い超高温の炎まで、
自由自在じゃ」
「な……! なんスかそれ!?
めっちゃ怖いんスけど!?」
「チートじゃけの。
三要素を必要とせんし、炎に関する耐性、
炎に魔力を通して魔法効果の付与、あと……、
何があったかの。
とにかく、炎の化身の様なもんじゃ」
「そ……、そんな恐ろしい方を相手に勝てるんスか……?」
「気休めにゃならんかもじゃが、
今のは生前の話で、もう故人じゃ。
現在のロウ兄は、
ガコゼの操る殭尸じゃからの。
幾らチートと云うても、
多少は半減しとる筈じゃ」
「ヤエファの見立てではぁ、どのくらいなのぉ?」
「ま。八割くらいかの」
「いや、未だ全然強そうなんスけど……!」
「そげ怖がらんでも大丈夫じゃ」
「そうだよロロ。
そんなに強いロウウェンとは、
無理に戦わなくていいんだよ。
わたし達の狙いはガコゼなんだから」
「その通りじゃ」
「ぐ……、具体的にどうするんスか?」
「そうじゃの。とにかくロウ兄は、
猛攻でブッ放し続けてくるじゃろから、
逃げて逃げて逃げ回る」
「何だか以外と消極的ッスね……」
「まともにやり合いたいかの?
それにガコゼは殭尸を操っとる内は大して動けん。
ロウ兄が暴れとる間、
奴は弱点を丸出しにしとると云う事じゃの」
「な……、なるほど!」
「……何か信用出来ない。
本当にそんなので大丈夫なのかな……?」
「どうじゃろの?
わっちに言えるんは、チートと云うても、
完全無欠じゃないと云う事じゃ。
属性の相性も無視出来る訳じゃないしの。
種族の違いは在れど、
スキルを操っとるのは生き物じゃ」
「おお……! ヤエファさん……、かっこいいッス!」
「ま。
理みたいなもんを、
超越しとる者が、
全くおらん訳じゃ無いとは思うがの。
ロウ兄はそれにゃ当てはまらん。
倒せん相手じゃ無い」
「コトハさんはどうだったの?」
スイは風で乱れる髪を、
手で抑えながらヤエファに聞いた。
「超越しとる側じゃの」
「そうだったんだ」
「スイちゃんは知らんかったかの?」
「うん。詳しくは知らない」
「魔法はコトハに教わったんかの?」
「ううん。習ってない」
「あげ強かったが、
娘に伝授しとる訳じゃ無いんじゃの。
らしいと云えば、コトハらしいの」
「そうなの? ヤエファが会った時のコトハさんは、
どんな感じだった?」
「顔が良かった」
「それ以外で」
「未だ幼い子供にしか見えんかったがの、
何処か達観しよって、冷静じゃったの。
十五になったばかりと言いよったけど、
もう自分の役目みたいなもんを、
きっちりと把握しとったの」
「へえ」
「ところがわっちにゃ、小娘が背伸びをしとる、
その姿がいじらしくての。顔が好みじゃった事もあって、
即座に惚れてしもうたけ」
「ふーん……」
「それで、
一遍で良えからデートをしてくれ、
なんなら嫁になってくれと、
なりふり構わずに懇願し狂ったんじゃけど、
娘が待っとる言うて、帰ってしもうて、
叶わんかった。
その娘が、スイちゃんじゃ」
「へー……。
何て言って、反応したら良いのかわからない」
「わっちは思い出したら疼いてしまう」
「やめてよ」
「さっさとガコゼを締め上げて吐かせて、
もう一度、コトハに逢いとうなってきたの。
今度こそ口説き倒して、嫁にせんといけん」
「わたしの居ないところでしてね」
「……話が脱線してるよ」
「何じゃ。ハツ?妬いとるんかの?」
「……違うよ。そろそろ着くんじゃない……?
戦闘が始まったら、しっかりしてね……?」
ハツの言う通り、
既に都から随分離れた場所に来ていた。
ハツとラクシェの探知は、
ガコゼの居場所を正確に捉えており、
もはや目前に迫っていた。
そして、ガコゼの傍らから放たれる、
凄まじい魔力も、直ぐ様に探知をしていた。
「……あんなのと本当に戦うの?」
ハツが不安そうにヤエファに訊いた。
「侮ったらいけんの。
曲がりなりにも、鬼火のロウウェン相手じゃ、
出し惜しみ無しで、逃げ回ろうかの」
「まるちゃん、ありがとう。
そろそろ降ろして大丈夫だよ」
「ユンタのいる所まで連れてくぜ。
ロウウェンは怖いから、
俺もめっちゃビビッてるけど、心配はいらないぜ」
「めっちゃ健気ッス!」
「よし、わたしも頑張らないといけないね」
スイは詠唱を始め、精霊に呼び掛けた。
精霊は、スイにしか聴こえない声で呼び掛けに応え、
少し言葉を交わした。
(君はとても乱暴だけど、頼りにしてるよ)
それを聞いて、
精霊は再び、スイにしか聴こえない声で応えていた。
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