第八十八話『迎撃と追撃。』
本日投稿の、
3話目になります!
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ガコゼは使鬼尸を解くと、
殭尸との接続を切り、
隠れ家に潜んでいる、自らの本体に意識を戻していた。
隠れ家は、
都からそう遠くは離れていない。
が、自分の魔法の効果領域の限界の距離、
逃げ切る事は出来ないかも知れないが、
まだすぐに追いつかれる訳では無い。
(切り札を切るんなら、充分な時間や)
ガコゼは棺の前で詠唱をし、
蓋を外すと、
中に横たわる死体に向かって魔力を込めた声で命じた。
──『起きろ』
棺の中の死体は、生者がそうする様に、
瞼をゆっくりと開いて、
狭い棺の中で身を捩りながら、
面倒そうに起き上がると、
棺から這い出て来た。
「ロウウェン。出番や。ワイの事を守れ」
死体は、術者の方を、
チラリと見て、大きな欠伸をわざとらしくすると、
ガコゼに向かって口を開いた。
「お前かや。
窮地に立たされりゃ、再々呼び出しおってから、
ちったぁ、
手前でどうにかしちゃろとか思わんのかいな?」
「やかましいわい」
「よいよつまらん奴じゃの」
「お前に言われた無いわ。死人の癖に」
「お前の能力の所為で死にきっとらんのじゃけの。
死体使うて、
いつまでも餓鬼みたいな遊びしよってから」
「黙らんかい」
「良え死に方はせんろうの」
「お前みたいなアホほど強い奴、
勝手に成仏させて堪るかいな。
ワイを守る駒にせな、何の為の能力や」
「そげか。
どのみちワシゃ、もう死んどるけ。
お前の能力にゃ逆らえん。
好きにしんさい」
「その為に、このクソ重たい棺桶をわざわざ、
こんな所にまで持ち込んだんや。
しっかり元取らせてもらうで」
「どんなんが相手じゃ?」
「お前んとこの、イカれた妹や。
仲間引き連れて、未だワイの事を殺そうとしよるんや」
「ヤエファか。戦りとうないの。
誰か別の者と代えてくれや」
「アホか。
あんな、べらぼうに強い奴、
お前くらいしか抑え効く訳無いやないか。
兄貴やろ」
「やれんの。
お前は変わらんのう。性根が座らんと云うか、
腐っとると云うか」
「じゃかあしいわ。
お前の方がよっぽど腐っとるわ。
死体やないか」
「ほいで?
ヤエファの他にいなげなんが、
何人か居るけど、
皆、お前の敵で良えんかいの?」
「近づいて来とんか?」
「死体くらいしか友達がおらんのじゃけ、
感知くらい出来た方が良えと思うがのう」
◆◆
「……居た。見つけた……」
「北の方のぉ、城門だねぇ」
「……魔法の効果領域が広い。
かなり此処より遠くから操ってる……」
「でもぉ、もう私とハツの探知で捉えれたからぁ、
どうなる事かと思ったけどぉ、逃げられないねぇ」
「二人とも凄いね」
「……まだ安心出来ないよ。
かなり距離が有るから、少しでも縮めないと……」
「ユンタ。聞こえる?
ガコゼの場所が特定出来た。
位置情報を送るから確認してみて」
「“おっけーー”」
「“おい猫娘ー、あたしも乗せてヨ”」
「“やだよバカ!
おめーら足速いんだから、自分で走れ!!”」
「“ケチくせーし! 知らんけど!”」
既に都の城壁の外に待機していた、
ユンタ、レイフォン、メイ、ミンシュ、
シャオの五人は、
スイから精霊を通して送られて来た位置情報を、
それぞれが確認すると
各自、機動力を生かし、
突き止められたガコゼの隠れ家へと急いだ。
「よし。わたし達も行こうか」
残った面々は、
ユンタが召喚しておいた巨大な魔獣の背に乗り、
先頭に乗せたスイに魔獣が声を掛けた。
「久しぶりだぜ、スイ」
「やあ。ブルータルファング」
「しっかり掴まっとくぜ、俺足速いぜ」
「知ってる。よろしくね」
「ほえー! でっかいライオンさんッスね!
ユンタちゃんって、
一体どれだけの人達と契約してんスか?」
「ユン姉は先天的に魔獣に好かれるからの」
「ヤエファだぜ。懐かしいぜ」
「久しぶりじゃの。世話んなるけ、宜しくの」
「魔獣に好かれるって、召喚術のスキルなんスか?」
「スキルとは少し違うんじゃがの。
召喚術師なら、誰もが欲しがるじゃろな」
「へー! ユンタちゃんってやっぱり凄いッスねー!」
「普通なら、倒して力ずくで調伏させるか、
相応の対価を支払って、従えたりさせるものだもんね」
「ユンタはそんな事しないぜ。
俺達も誰一人だって、そんな事要求しないぜ」
「知ってる」
「獣巫女と呼ばれる所以じゃの」
「ほんとにぃ、本物のクラウドナインだったんだねぇ」
「信じとらんかったんかの」
「……ねえ、ちょっと。私、動物少し怖いんだけど……」
「クラウドナインって、一体何なんスか?」
「わっちら、魔物と人間の混血の、
普通の亜人とは違うての、
女神の造り出した、
始祖の魔物に、より近くて、
魔物の血を濃く受け継いどる眷属がおるんじゃ。
クラウドナインは、その眷属の名じゃ」
「へえ。知らなかったな」
「魔物の血が濃いもんじゃけ、
魔獣に親近感を抱かれ易いんじゃ。
召喚術のスキルを持って産まれたのは、必然かもの」
「そうだぜ。
俺達、魔獣は主従関係じゃ無くて、
ユンタとはダチなんだぜ」
「やっぱユンタちゃんかっけーッス!
何か、こんだけ強い人達が揃ってたら、
負ける気がしないッスね!」
「ロロちゃん可愛えの。
ミンシュじゃ無うても、惚れてしまうかも知れんの。
ところが、向こうにゃ、
まだ奥の手が残っとる」
「ロウウェンの事?」
「そうじゃ。
ロウ兄を相手にするにゃ、
まだ厳しいもんがあるからの」
「鬼火のロウウェンはそんなに強いんだ」
「そりゃ半端じゃないけ」
ヤエファは難しそうな顔をして、
溜め息を吐いた。
「ロウ兄は天恵者じゃ」
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