第八十三話『断片に触れるという事。』
本日投稿の、
2話目になります!
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「それはつまり、協力していただけると云う事ですか?」
スイは、ラオにそう尋ねた。
「そうだよ」
「ありがとうございます」
「おいおいおーーい!展開早すぎじゃね?
大丈夫なん?」
「ユンタ。僕は聖域教会って云うものは、
この世界にとっての、
害悪にしかなら無いと思ってんだよね。
女神の力に畏怖し、その強大な力に憧れを抱き、
肖ろうとして、醜く群がっている。
この世界は千年も前から、
何も変わろうとしてないんだよね」
「結構な問題発言に聞こえるんだけどーー」
「イファルの国教は、
建国神話に則った土着の宗教だ。
それでも、此処に聖域教会を建ててやったのは、
僕が女神と旧知の仲だった故のお情けからさ」
「それも適当に言ってんのー?」
「女神との仲の事?
僕は二千年くらいは生きてるんだぜ?
知らない訳ないじゃん」
「嘘くせーー」
「ははは。
まあ、どう思ってもらっても構わないよ。
でも事実は事実。
彼女は僕の友人だったから、
彼女を慕う連中を可愛げが有るとも感じていたけどさ、
その考え自体が、
間違っていたのかも知れないね」
「ラオ陛下……」
「聞き分けの良くない餓鬼に教えてやるのも、
年長者の役目さ」
「しかし、戦となるとすれば……」
「まだゴチャゴチャ言ってんの?
お前にカヤを嫁がせたのは、
僕の見立て違いだったかな」
「父様。もう覚悟を決める時だと、私は思います」
「ほら。娘の方が、
よっぽど肝が座ってるだろ。
まあ、お前がゴネたとしても、
僕はやるべき時には、やるべき事をやるからな。
もう後悔はしたくないんだ。
後、どのくらいの時間、
僕が生きて行くと思ってるんだ?
少しは気持ちを汲め」
「……申し訳ありません」
「僕はイファルの王であり、守護者ラオだ。
お前が心配する様な出来事は、
きっと起こらない」
「実際のところ、聖域教会と戦うとなったら、
戦力差はどのくらいのものになりますか?」
「スイ。それは当然、向こうの方が多いだろうな。
量より質だ、と云う考え方を持って臨むべきか否か」
「もう少し戦力が増えたとしたら?」
「まあ、喜ぶべきだな。
ウクルクにも出兵を依頼するつもりかな?
弱腰のリンガレイを説得するのには、
きっと骨が折れるぞ?」
「それよりも先に、
わたしの友達が用意をしてくれるかも知れません」
「友達ね。一緒には来なかったんだ?
どんな子なの?」
「楽しい人です」
「ははは」
「ウチと同じ亜人だよ」
「亜人。聖域教会に恨みを持つ子は多いだろうな」
「それと、もうひとつ。
具現派魔術師と云う、
組織を知ってますか?」
「いや、僕は知らないな」
「女神の痕跡を、独自に手に入れ様としている組織で、
わたしも全てを把握している訳じゃないけど、
物凄く強い魔法使いが揃っていて、
戦力としては、うってつけだと思います。
彼らも、こちら側につける」
「そんな連中が居るんだ?
味方に付いてくれそうなのかな?」
「やーー、流石にソレは厳しいんじゃないかーー?」
「イェンなら聞いてくれそうじゃない?
彼に頼みたい。
それに、
ハツが居るから連絡を取ってくれるかも知れないよ?」
「それはそーかもだけどーー」
「何て言って協力する様に頼むんだよ?」
「女神の痕跡を欲しがってるんだよ?
聖域教会なんて目の上のたんこぶに違いないよ」
「そのイェンとか云う男は知り合いなのか?」
「転移者です。以前、ウクルクに居た」
「転移者……。僕の知らない奴かな?
といっても、女の子以外はあまり記憶に無くてさ」
「ウクルクに居た頃には、ミナトと名乗ってました。
何の事情があるかは知りませんが、
今はイェンと云う男に成り済ましています」
「ミナト……。あの天恵者の餓鬼か。
噂を聞かなくなったと思っていたけど、
ウクルクから出ていたんだね」
「一度、イェンと戦った時、
彼が力を抑えていたにも関わらず、
おそろしく手強かった、
チート、若しくは、
それに相当する力量が有ると思います。
仮に、イェンがミナトで無かったにしても、
相当な戦力になります」
「流石にスイも、チートには苦戦したか」
「それに、独自の魔法技術を研究しています。
痕跡を仲間に投与して、見た事の無い術式を施して、
魔力を上昇させていた」
「痕跡を喰わす……。
あんな高魔力の物、生物の体内に入ってしまったら、
間違い無く死ぬと思うけどね」
「女神の魔法技術には、そういったものがありますか?」
「有るかもね。
魔物を造り出した装置なんて、
おそらく同じ原理だろう。
魔力を増幅するスキルや魔法は有るだろうけど、
魔力を持って産まれていない者に、
魔力を付与する魔法なんて、
彼女くらいしか使えなかっただろうね」
「だとしたら、ソーサリースフィアは、
それに近いものを既に編み出している。
どうですか?彼らを味方に付けると云うのは?」
「良いと思う。
スイ。出来るか?」
「はい」
「もし、交渉が拗れたら、
僕のところへ連れて来ると良い」
「マジーー?あんなの味方にして、裏切られない?」
「イェンがミナトなら、それはしない気がするな。
それに、彼は何だかんだ、
わたし達に協力してくれたじゃないか?」
スイはそう言って、
もし本当にミナトならば、
彼に聞かなければならない事がたくさん有る、
と考えていた。
そして、
長い間、遠くで蜃気楼の様に靄がかった物に、
ようやく少しだけ触れる事の出来た様な気がしていた。
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