第六十九話『温泉の施設は思っていたより広かった。』
本日投稿分の、
最終話になります!!
◆
「シャオ……! シャオ……!」
スイが小声でこっそりと、シャオの事を呼んでいる。
「え? どうしたんですか?」
「どうしたもこうしたも無いよ……。
何で君は、そんなにもいつも通りでいられるんだ、
わたしは屋敷に着いてから、
落ち着かなくて仕方が無い……。
おじさんとおばさんに、変に思われなかったかな!?」
「ふふ。
父様も母様も、
スイが来てくれた事をとても喜んでたじゃないですか?」
「でも……。アレだろう……。
君はもう、
おじさんとおばさんにカミングアウトしてるんでしょ……?」
「はい! それはもうバッチリです!!」
「……。この際、それはもう良い!
でも、おじさんとおばさんは、
一体どんな心境で、
わたしが来た事を喜んでくれてるんだ!?
想像したら怖い!!」
「あはは。そんなに気にしないでください」
「気にするよ!?」
「もしも仮に」
「もしも仮に……?」
「父様と母様が、怒っていたとしたら。
それを心配してるんですよね?
あの二人は、思っている事を伏せて、
何事も無く振る舞うなんて、器用な事は出来ません」
「そ……そうなの?」
「はい。娘の私が断言します」
「……」
「だから、心配しなくても大丈夫です!」
「いや……、でも、もう言っちゃってるんだよね?
どうしよう……。今からでも、わたしだけ、
他の宿を取った方が良いのかな……?」
「な!? 何を言ってるんですか!?
駄目です!!」
「だって……」
「気にし過ぎですよ!
それに私、
スイが思ってるより、
父様と母様に、
スイの事好き好き言ってますから!」
「やめてよ!?」
「だから多分、我が家では、
もう周知の事実っていうか」
「……。昔からね。
クアイおじさんと、カヤおばさんは、
優しい人だと思っていたけど……、
そんなに心が広いとは知らなかったな……」
「案ずるなかれです」
「……なんか、もういいや……。
わたしだけ、ソワソワしてても、変だもんね……」
「ふふ。だから私は初めから、
そう言ってましたよ?
それに。
私はスイのお嫁さんになるのが将来の夢ですけど、
それを実現させるのは、
コトハさんにも、結婚の承諾を得てからだと思ってますから」
「……。そういうとこは、妙に律儀なんだね……」
「当然です。
だから。スイは気にせずに、
ゆっくり寛いでください。
私はスイと過ごせて、今がとても幸せです」
「……。なんだか嫌な予感がするよ……」
◆◆
夜が明けて。
一向は、当初の目的だった温泉施設へと向かった。
クアイの屋敷のある高級住宅地から、
さほど離れていない区画にある、
大きな庭園とカフェを併設した巨大な建物だった。
ルーファンの街並みの景観を損なわない、
白い建物の施設には、
大浴場とサウナに加えて、温水のプール、
レストラン、エステ、化粧品や衣料品を扱う店など、
数多くの店舗が入っており、
大勢の人が訪れる大型のショッピングモールの様な賑わいをみせていた。
「すごい。
まさか、こんなにも大きな建物だなんて思わなかったよ」
スイがキョロキョロと周りを見ながら驚いた様子でそう言った。
「めっちゃ人がいるッスね!!」
「スゲー数の店だねーーー?さすがイファルは都会だわ」
大浴場は非常に混雑していた。
見上げる程に高い、天井に届くアーチ状の門が二つ有り、
その門がそれぞれ、男湯と女湯に別れている。
門までの通路を、無数の人々が行き交い、
まるでテーマパークの様にも見えた。
門は神殿の様な荘厳なデザインをしており、
入り口あたりに巨鳥の像と、
イファルの王国の紋章が刻まれた、
巨大なレリーフが飾られてあった。
一向は男湯と女湯にそれぞれ別れて、
一人で男湯へと向かうリクを、
スイは横目で眺めていた。
◆◆◆
「リクは一人で寂しく無いかな」
脱衣所で羽織を畳みながら、スイがそう言った。
「パーティーで男性が一人だけですし、
少しはそう思うかも知れませんね」
「ハーレムが過ぎるッスもんねー」
既に服を脱いで、
身体にタオルを巻いているシャオとロロが言った。
「混浴じゃなくて残念がってんじゃね?」
一糸纏わない姿を、
隠しもせずに仁王立ちしているユンタが言った。
「そうなのかな?
リクはやっぱり、皆の裸を見たいとか思ってるのかな?」
「男なんだからそりゃそーでしょーー?」
「そうなんだ。彼はやっぱりエッチだな」
「スケベじゃない要素が少なくない?笑」
「健全な男子だなーって自分は思うッスけどねー」
「スケベじゃない方が不健全なの?」
「まーー俗に言うムッツリってやつだね」
「ゼンもリクさんと同じ年齢の頃は、
あんな感じでしたっけ?」
「うーん。どうだったかなぁ。
彼は基本的に、何かに怒っている印象しかないからなぁ」
「私も似たような印象ですね…。
というよりも、そもそもゼンに興味が無いと云うか……」
「かわいそーー笑」
「男の子は、大体あんな感じだと思うんスけどねー?」
「まー。心配しなくても……、
つーか!
二人とも乳デカすぎじゃね!?
何食ってんの!?」
ユンタが、おもむろにロロの胸を鷲掴みにして叫んだ。
「わわわ……! ユ……、ユンタちゃん!?!!」
「いやーー……。
デカイな、デカイなー、とは思ってたけど……。
まさかこんなデカイとは……」
「ちょ……!?
ユンタちゃん!!
そ……、そんなに揉んじゃダメッスよ!!?」
「確かに……。何か特別な事をしてるの?」
スイが、まじまじと顔を近づけて、
シャオの胸を観察しながらそう聞いた。
「な……、なにもしてないです!」
「子供の時には、一緒にお風呂に入った事もあったけど、
こんなに大きくなかったものね?
カヤおばさんも凄く大きいから遺伝なのかな?」
「いいなーーー」
「そんなに良いものでも無いですよ……?
肩も凝るし……、服も似合わないのが有るし……、
太って見えちゃうし……」
「下着も困るッスよねー」
「そうですよね!?
可愛くてもサイズが無かったりして……」
「あと、おじさんとかに、
じろじろ見られるのも結構キツいッスよね」
「わかります。
私も胸当てを着けたりして、隠してはいるんですけど……」
「巨乳トーク」
「わたしたちには、縁がない話だね……」
◆◆◆◆
中に入ると、
高い天井が吹き抜けになっている、
とんでもなく巨大な空間の中に、
石で出来た長方形の湯船に張られた八つの温泉があった。
それぞれに効能の書いてある看板が据えられており、
どの温泉にも、人が溢れるように浸かっている。
四人は先に身体を丁寧に洗って、
様々な効能毎に別れた温泉を順番に堪能していき、
最後に白濁としたミルクの様な湯に並んで浸かった。
「わーー……、気持ちいいッスねーー……」
「すごくトロッとしたお湯だね。不思議」
「お肌にとっても良い効果があるみたいですよ」
「いやーーー温泉最高じゃんーーー……」
四人がしばらく湯船に浸かっていると、
他の賑やかな団体客の声か聞こえてきた。
「昨夜は楽しかったかの?」
「げ」
「げ。
とは、ご挨拶じゃの」
「何でヤエファが来るんだよーー。
せっかくまったりしてんのにーー」
「此処は大衆浴場じゃけ」
「ヤエファの知り合い?誰ヨ?」
団体客は、ヤエファが連れた亜人の女達だった。
「レイフォン。餓鬼の頃からの、わっちの姉貴分じゃ」
「妹って言わんくなったーー」
「ユン姉が、いちいち訂正するからの」
「ヤエファが子供の時って、まだ西方に居た頃?
知らんけど」
別の女がそう聞いた。
「そうじゃの。あんた達が産まれる前じゃの。
メイは知らんかの?」
「有名な人なのかヨ?」
「昨日言うたじゃろ。
獣巫女に逢うたって」
「え!? この人が!? マジ!? 知らんけど!」
「何か思ってたより小さいんだヨ!?」
「はーー!? めっちゃ失礼じゃんーー!!」
「どんなんを想像しとったんかの」
ヤエファは、そう言って可笑しそうにクスクスと笑っていた。
「きゃわわわわわわーーー!!」
「やっぱりの。
ミンシュは絶対に気に入ると思っとったけ」
「ヤ……ヤエちゃん!! か……可愛すぎるです!!
ミンシュ、この子連れて帰っても良いです!?」
「へ……? じ……、自分ッスか?」
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