第六十八話『クアイの屋敷にて。』
本日投稿の、
2話目になります!
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一向が訪れたシャオの自宅は、
とんでもない豪邸だった。
ルーファンの街並みと同じ、
白を基調としたデザインを、
更に格式高くした様な、
絢爛豪華でしか無いその屋敷は、
敷地の入り口から、屋敷の玄関までの距離が、
馬車を必要とするほどに離れていることから判る様に、
広大の敷地の中に建てられた、宮殿の様な佇まいだった。
シャオが入り口の呼び鈴を鳴らすと、何処からともなく、
馭者が馬車を引いて現れた。
「すげーー………」
「めっちゃでっかいお屋敷ッスね!!
シャオちゃんて、お嬢様なんスねー!!」
リクは圧倒され、
しばらく茫然としながら、立ち尽くしてしまった。
「こっちですよ?
馬車に乗って、玄関までお連れしますからね」
シャオに声をかけられ、慌ててリクは皆の後を追った。
「でっけーーーお屋敷だなーーー」
「あ、すごく綺麗な花が、たくさん咲いてるッスね!
庭園もすごく素敵ッス!!」
「ありがとうございます。
母様が、お花がとても好きなので」
「そう云えば、
お屋敷の中にも、花がたくさん飾ってあった憶えが有るね……」
「ふふ」
「なんだい?」
「随分前の事なのに、スイが憶えていてくれて嬉しいんです」
「忘れないよ」
「ふふ。
私も昔の事を、ずーーーっと憶えています」
「あれ?玄関に誰か立ってる」
スイは玄関に立っていた人物達が
誰だか解ると、嬉しさと一緒に、
少し緊張が走った。
「スイちゃん!!!
久しぶりだね!!
クアイおじさんだよ!!
ああ……!!
立派になったね……。ね、カヤ?」
「ええ、クアイ。
スイちゃん、本当に綺麗になって……。
子供の時からお人形さんみたいで、
とっても可愛かったから、
きっと美人になると思っていたのよ!!」
「や……やあ。
クアイおじさん、カヤおばさん。
今夜は招待してくれてありがとう……」
「うんうんうん……。
今夜と云わず、
ルーファンに滞在中は、ずっと居てくれていいんだからね!?
それと、
イファル王が無理を言って、
スイちゃんを調査隊に推挙してしまってすまないね……。
王宮の術師の仕事が忙しいんだから、
無理を言ったらダメだと言ったんだけど、
あの人、一度言い出すと本当に聞かなくて……。
ね、カヤ?」
「ええ、クアイ。
本当にごめんなさいねぇ……。
危ない目に遭ってない!?
もう、おばさん、心配で心配で……」
「おじさんもだよ!?
スイちゃんに何かあったら、
コトハちゃんになんて言えばいいんだ……。
やっぱり、
今からでもスイちゃんの推挙を取り消す様に、
王に言った方がいいかな!?
ね、カヤ!?」
「ええ、クアイ。
そうしましょ!?
やっぱりダメ!!
スイちゃんはダメ!!!
私もスイちゃんに何かあったらって……考えたくも無いです!!
だからダメ!!」
クアイとカヤはそう言って、
今にも王宮に向かいそうだったので、
スイが慌てて止めた。
「そんなに心配しないで?
わたし一人だと、とても旅になんて出られないけど、
シャオも皆も居てくれるし、
わたしは、とても安心していられるよ?」
「そ……、そうなのかい?
でも……、
辛くなったらいつでもおじさんとおばさんに言うんだよ……?
スイちゃんは……、スイちゃんの事は、
僕たちが守るからね!!!?
ね、カヤ!?」
「ええ、クアイ。
もう私なんて、
スイちゃんが来るのを、
今か今かとずっとずっとずーーーっと!
待っていたんだから!!
もう、ずっと家にいてくれないと、おばさんはイヤ!!!」
カヤは耳が少し尖っている事以外、
シャオと本当に瓜二つで、
余り歳も変わらない様に見えた。
娘のように若々しい姿をしているのは、
ハーフエルフだからだろうが、
クアイの方も、
凛とした佇まいの、
美しい青年の様な見た目で、
本当に、
シャオの父親と云う年齢なのか疑ってしまうくらいであった。
「ありがとう。
おじさんとおばさんが、
いつも優しくしてれて、わたしは本当に幸せ者だよ」
(怖いくらいに、いつもと同じだ……。
無理をして明るく振る舞ってくれてるのかな……)
「なんて、いじらしい事を言ってくれるんだろう!
おじさんとおばさんはね!
スイちゃんの事を、
シャオと同じくらいに大切に思ってるからね!!
ね!カヤ!」
「ええ、クアイ。
クアイの仕事が忙しいもんだから、
近頃はなかなかウクルクに行けなくて……。
ずっと、心にポッカリ穴が空いたみたいだったのよ……!
私、スイちゃんに逢いたかった!!!」
「おじさんとおばさんは、
いつもウィソに来た時に、
わたしのところに寄ってくれるのに、
わたしはイファルには余り来れなくて、
ごめんなさい」
(色々な意味で本当に申し訳無いよ……)
「良いんだよ!!
スイちゃんに逢えるなら、
おじさん達がどこまでだって行くから!!!
ね!カヤ!」
「ええ、クアイ。行かないっていう選択肢がないの!!」
「にゃはは。
クアイ君もカヤちゃんも相変わらず情熱的ーー。
シャオちんは、二人によく似てんね?」
「え!?
私ってこんな感じなんですか!?」
「まんまじゃん?笑」
「少しやだなぁ……。
父様! 母様! ただいま戻りました!
ちょっと落ち着いてください!!」
「シャオ!! お帰り!!
皆さんにルーファンの案内は出来たかな?
遅かったから、少し心配したんだよ?
ね、カヤ?」
「そ……、それがその……。
私の悪い癖のせいで……、
皆を迷子にさせてしまって……、
全然出来てないんです……」
「ええ、クアイ。
あら。あんなに張り切って楽しみにしてたのに。
ダメよー?シャオ?皆さんにきちんと謝った?」
「はい……。でも改めて……、
皆さん本当にご迷惑をおかけしました!」
「ウチら田舎者だからね笑
こんなに広い街なんだからそりゃ迷うよーーー」
「ユンタさん!!!
本当に昔のままのお若い姿で安心します!!
ね!カヤ!」
「やほ。
クアイ君も、カヤちゃんもお久しぶりーーー。
二人とも元気してた?」
「ええ、クアイ。
ユンタさん、ようこそいらっしゃいました!!
私たちはお陰様で……。
シャオが大変お世話になっているみたいで、
ありがとうございます。
ユンタさんがいらっしゃってくれて、
私たち本当に安心しております。
それに、変わらず本当に可愛らしいお姿で……。
ああ……。今日はなんて素敵な日なんでしょうか」
「本当にいつまでも若々しくお綺麗です。
そちらの可愛らしい方はグラスランナーかな?
ね?カヤ?」
「ええ、クアイ。
とても可愛らしい方!
小さくて、なんて愛くるしいんでしょう……」
「きょ……、恐縮ッス!!
自分はロロって言うッス
えーーと……、将軍さま!!
この度は、お招きしていただいて……、
えーと……不束者では有るッスけど……」
「ははは。ロロさん。
そんなに畏まらないでください。
クアイと呼んでください。
とてもチャーミングな方だ。
ね?カヤ」
「ええ、クアイ。
ロロさん。ようこそいらっしゃいました。
私の事も、カヤと呼んでくださいね?
可愛いお客様がいらっしゃって、
とっても嬉しいです!
どうか遠慮無く寛いで行ってくださいね?」
「こ……、光栄ッス!!
美男美女ッスね……!!
遺伝子の優勢加減が半端無いッス……!!」
「そして……そちらの男性の方は……?」
クアイが、リクの方を見て言った。
「おじさん。彼はニホンからやって来たんだ」
「こちらの方がウクルクに来られた転移者の方なんだね!!
初めまして、ご紹介が遅れました。
僕はクアイと申します。
そして、僕の妻、カヤです」
「初めまして。カヤと申します。
ニホンから来られたんですね?
コトハちゃんと同じ国の人なのね」
「は……初めまして!!
ナツメリクといいます!!
そうです、自分は日本からこの世界へ来ました!
この度はお世話になります!」
「ニホンからの転移者の方も、
パーティーに同行しているとは聞いていたけど、
もっと屈強な人をイメージしていました。
とても若い方だったんですね。
ね、カヤ」
「ええ、クアイ。
スイちゃんやシャオよりも、少し年下かしら?
ニホンには長命の種族の方は、
確かいないのよね?
見た目通りにお若いのね、きっと」
「父様、それよりも食事の用意は出来てますか?
スイが、もうお腹が空いてしまって倒れそうだったんです」
「勿論さ!
スイちゃんが来ると思って、
沢山料理を用意させておいたから。
スイちゃんの、
好きな食べ物の好みが変わってないと良いんだけど。
ね、カヤ」
「ええ、クアイ。
おばさんも頑張ったから!!
お菓子も沢山作ったからいっぱい食べてね?」
「ありがとう。
好きな食べ物を、憶えていてくれて嬉しい。
おばさんの作ってくれるお菓子も懐かしいな」
「うんうんうん……。
そういえば、
コトハちゃんがスイちゃんを最初に連れて来た時には、
本当に驚いたなぁ」
「そうよね。
あんなに小さくて可愛いのに、
大人の男の人よりも、
沢山の料理をペロリと食べちゃって」
カヤは嬉しそうに笑いながら言った。
「スイちゃんはお菓子が大好きで、
いくらでも喜んで食べてくれるものだから……。
私、お菓子のレシピのレパートリーが増えたものね」
「本当に懐かしいなぁ……。
スイちゃんの後ろを、
シャオが泣きながら、ずっとくっついて歩いて行って……。
スイちゃん。
シャオはワガママを言って君を困らせてないかな?」
「父様!」
シャオが顔を赤くして抗議する様に言った。
「そ……、そんな事は無いよ。
それよりもおじさん!
シャオを転移魔法で送ってくれたでしょ?
とても助かったんだよ?」
(おじさん……。わたしは今現在、とても困ってるよ……)
「ふふ。
気にすることなんてないよ。
シャオが、どうしても!
と駄々をこねるものだからね。
僕はついついシャオを甘やかしてしまうから」
「だ……、駄々をこねた訳じゃないですけど!?」
「ほらね。
シャオ。わたしの言う通りだ。
おじさんを困らせてはダメだよ?」
「ス……、スイ!」
「ふふ。スイちゃんが居ると、
私、本当に娘がもう一人出来たみたいで、
すごく嬉しい……」
カヤは、愛おしそうにスイの髪の毛を撫でた。
「……そんな風に思っていてくれてありがとう」
カヤを慈しむ様に、スイは優しい声でそう言った。
(こんなにも優しい二人を……。
わたしは傷つけて困らせてしまう……)
スイは、フツフツと沸き上がる罪悪感で、
声が少し震えているのが、
自分でもわかっていた。
(駄目だ……。何だか、重圧に押し潰されてしまいそうだ……)
誰一人として、その事に気づいてはいなかったが。
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