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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第三章 『指切り姫と西方と忘れられた古い唄』
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第六十五話『思えばコトハはワガママだった。』

本日投稿の、

3話目になります!!




亜人の起源は古い。


女神が魔力で造り出した魔物達が、

人間と交わり、

その間に産まれた子供達が、

亜人の始祖となったと云われる。


魔物と人間の混血である亜人は、

魔物由来の、

強靭な肉体と、獣の様な身体能力を持ち、

人間と同様に、

高い知力に()る、高度な魔法のスキルを持つ者が多い。


その後の鍛練や、

スキルの熟練度によって差がつく事も有るが、

大体において、

能力で人間に劣るということは殆ど無い。


亜人が、

今も尚、人間に畏れられ、

(うと)まれるのは、その為だ。


◆◆


未だ、(あどけな)い顔つきをした少女だったが、

ヤエファはコトハに油断(など)していなかった。


見かけに()らず、

高い魔力を持っているのは明白で、

何よりも、

威嚇の為に殺気を滲ませていた自分と対峙しながら、

怯える様子も無く、

余りにも堂々としているコトハを、

ヤエファは決して(あなど)っていなかった。


それにも関わらずヤエファはコトハに、

まるで歯が立たなかった。


「そろそろ、

お終いにしておかないかい?」


「ゼェ……、

ゼェ……、よく喋る餓鬼じゃの……。

まだ終わって無いと思うがの……?

ゼェ……、

二度と喋れん様に、喉を切り裂いちゃろかの……?」


「うーん……。

それは多分無理だと思うな。

戦ってみてわかったけど、

君が得意とする攻撃と、

僕のスキルじゃ相性が悪すぎるんだよ。

これ以上戦っても、

君は僕に勝てないと思う」


「ゼェ……、

妙なスキル使いよって……。

仕掛け(タネ)さえ知れりゃ、

死ぬんはお前の方じゃけ」


「確かに。

君の能力は驚異的だ」


「ゼェ……。ゼェ……。

いっそも(少しも)、喰らっとらん癖に……」


「コトハ……。ごめんありがとう。

ウチがチンタラやってるから無理させちゃったねーー……。

でもヤエファは、

身内だったウチが、ちゃんとケリつけるから」


「ハッ!

光栄じゃの……。

ゲホッ……ゲホッ……」


「まあ待ちなよ、ユンタ。

僕は、君が人殺しをするところなんて、

見たくはないし、させるつもりも無いんだけど?

そして、ヤエファ。

僕は君を死なせるつもりも無い」


「待ってよコトハーー!

駄目だって! 国から依頼受けたんだよ!?

わざと逃がしたりしたら、問題!!

責任を取らされて、

(とが)め有るに決まってんでしょーー!?」


「問題?お咎め?それはまた一体どうしてだい?」


「国の依頼を、

反古(ほご)しちゃうって事になるだろーー!?」


「今日まで亜人という存在を、

僕はユンタしか殆ど知らなかった。

ユンタは優しい人だ」


「は……、はぁ!?」


「この世界に来たばかりで、

世間知らずの僕に、

あれこれとたくさん教えてくれて、

支えになってくれている。

初めての大切な友人だし、

姉の様にも思っている。

ところが今回、

そのユンタと同じ種族の人の討伐をしろ、と言われた。

こんなにも優しいユンタと違って、

討伐しなければならない程の存在だなんて、

どんなに凶悪で恐ろしい人なのだろうと思っていたんだよ」


「コトハ?」


「僕の頭の中のイメージでは、そうだな……。

もう冷酷無比の、

鋼鉄で出来ている怪獣みたいなものを想像していたんだよ?

ところが、

実際に対面してみたらどうだい?

綺麗な人だなと僕は心底思ったし、

違う形で会えたなら友人にだってなれたと思う。

彼女と君が、僕と、

何の違いが有るって言うんだい?

君はそれを、

僕が理解して、納得出来るように説明してくれる?」


「今はそういう話してんじゃねーーだろ!?」


「たかが獣の耳と尻尾がついているだけの人を、

僕は魔物だなんて到底思えないし、

これから先も、きっと思わないね」


「コトハーー!

あんたは、まだ知らないもだけどーー、

いろんな確執が世界にはあんだよ?

違う世界から来たコトハにゃ、わかんないかもだけど……」


「わかんないね。

この世界の事を僕は気に入っているけど、

くだらない風習だの、

まやかしの様な道理だのなんて、

他所(よそ)者の僕には知った事では無いよ。

お咎めだろうと、お裁きだろうと、

好きにすれば良い。

僕は甘んじて受けよう。

──その代わり。

ユンタに、もし国が何かをしようものなら、

僕はただじゃおかない。

相手が国だろうが何だろうが容赦しない。

それ相応の被害は覚悟してもらう。

……と、帰ったら国王様に言おう」


コトハはケロッとした顔でそう言った。


「ヤエファ。

悪い事をしなければ生きていけない訳じゃ無いんだろう?

それに少なくとも。

僕には君が、もう何かを憎んで、

ただ暴れ回る様な人には思えないんだけれどね?」


「……随分と勝手に決めつけるんじゃの?

わっちは『指切り姫』じゃ。

大勢のアホな人間の、

指を一本ずつ切り落として苦しめてから殺したけ、

そう呼ばれとる。

この名前だけで、人間共が震えがる程に悪さをしたんじゃ。

ここで、わっちを見逃して、

後悔するのは、お前の方じゃ」


「それを決めるのは、

僕であって、君では無いと思うな」


「同じ人間を大勢殺した、

わっちが憎くは無いんかの?」


「うーん。

その中に、

もし友人がいたら、許す事は出来ないと思うけど、

生憎(あいにく)、僕の交友関係は、

この場にいるユンタで、

ほぼ完結してしまっているからね。

僕は正義の味方では無いから」


「人間なんて身勝手なもんじゃの?」


「まあ……、そうかな。

何かに縛られずに居られるなら、

その事で口汚く罵倒されたとしても、

僕は君の言う、身勝手でいたいかな?

君は違うのかな?」


「ははは……。

なんだかもう気が抜けたの。

()えよ。

もう抵抗せんから、好きにしてくれや。

お前が殺せんのなら、軍でも何でも呼んで、

突き出して、おしまいじゃ」


「いいのかい?」


「ああ。構わん」


「僕は正義の味方では無いけど、

自分の中の倫理には、忠実でありたいと心がけているんだ。

降伏してくれた無抵抗の君を、

軍に捕らえさせるなんて、そんな事を僕はしないよ」


「何でじゃ?恥かかせるんかの」


「恥?

僕が勝手にやった事で、

君たちが何か恥じる必要が有るのかな?」


「生き恥を晒すくらいなら、

死なせろと言うとるんじゃ」


「貸しだとは思わなくて構わない。

(ちな)みに、僕も貸し借りは苦手だ。

だから宣言しよう。

君を逃がす事は、

僕の勝手で突飛な、脈絡の無い行動だと思ってもらって、

貸し借りの概念に囚われる事無く、

カウントをしてもらわなくて結構」


いっそ(少しも)、話を聞いとらんの」


「君にはすまないけど。

僕は、そろそろ家に帰りたいんだ」


「は?」


「最近、僕には娘が出来てね」


「……それがどうしたんじゃ」


「娘であり、妹であり、

友人の様でもある。

とにかく大切な存在だ。

その幼い愛娘が家で待っている。

信頼の置ける人に、

面倒を見てもらっているから安心なんだけれど、

正直今すぐにでも帰って、彼女に逢いに行きたい。

だから早く帰りたい」


「お前、ワガママじゃの」


「うん。僕自身そう思っているよ。

しかしながら。

こんなに身勝手な理屈を、

見ず知らずの君に押し付けてしまう程に、

僕の娘は圧倒的に可愛いんだ」


コトハの顔は、冗談を言っている様にはとても思えなかった。


「この世界に、写真という技術が無い事が悔やまれる。

生憎、僕は元々スマホを持っていなかったから、

娘の肖像を収めたものも持ち歩いていない。

悔しい。

君にも見せて自慢したかったな」


「スマホ……?

……娘が居るって、何歳(いくつ)かの?

人間じゃけ、見てくれ(外見)とそんなに、

変わりゃせんじゃろ?まだ若いじゃろ?」


「僕は十五になったばかりだ」


「十五で、もう子供を産んだんかの?」


「いや。

正確には、僕と血の繋がった娘では無いんだ」


「一人で育てとるんかの?」


「僕一人では到底無理だよ。

ユンタに助けられながら、なんとか生活してる。

僕と、僕の娘はとても恵まれている」


先程まで、命のやり取りしていた相手とする会話では、

到底無いように思えた。


不思議な女だった。

ヤエファは今もそう思っている。


◆◆

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