第六十一話『亜人の女。』
本日投稿の、
2話目です!!
◆
シャオがスイを連れ去る様にして、
忽然と姿を消してしまった後、
リク達は二人の事を探し続けていた。
「あいつら足速すぎないかな!?
全然追いつけないし、ここ何処だよ!?
完全に見失ったわ!!」
どれも似たような白の建物が綺麗に並んで、
ウィソよりも、
遥かに大勢の人が行き交うルーファンの都は、
土地の地理に明るく無い者にとっては、
巨大な迷路のように感じられた。
リクは辺りを注意して何度も見回したが、
スイとシャオの姿を見つけることは出来なかった。
「だーーーいじょぶだって?
いざとなったらスイが精霊で見つけてくれると思うよーーー?」
「でも……。
アイツいつもと様子が違っただろ?シャオも浮かれてるし……。
なんか心配にならないか?」
「たしかにそーーーだけどさーーー。
ウチらでどーにかできると思う?
幼なじみなんだから、いつかは仲直りするって」
「すっごい余裕!!」
「自分もあまり動かない方が良いかと思うッス!
あんまりウロウロしてると、
スイちゃんも精霊で探すのが大変になっちゃうと思うし」
「そ……、そうかな?」
「そそそ。まーーーリクっち慌てんなって?
お腹空かね?
どっか適当に入って、ご飯食べて待ってよーーーよ?」
「賛成ッス!あそこのお店なんか良さそうじゃないスか?」
「どれどれーーー?」
「あそこッス!
あそこ!
あの人がいっぱい並んでるとこッス!」
「お前ら余裕だよな……。
俺ばっかり焦って少し恥ずかしいわ」
「にゃはは。
ウチら、リクっちより軽く倍以上は、
長く生きてるからねーーー」
「え!?ロロも!?」
「そうっスよー!
グラスランナーも、
人間に比べて老化する速度が遅くて、
寿命が長いんス。
……もしかして年下だと思ってたッスか?」
「いや!
どう見ても年下にしか見えなかったんだが!?」
「にゃははーーー。
忘れんなよーーー?
ウチら普通の人間じゃないんだぜ?」
「お……、おう。
すごい衝撃的だったわ……」
「よーーし。
とりあえず。
あそこの店行ってみよーーー!
腹減ったーーー」
「行きましょ行きましょ!!」
ユンタとロロが並んで歩き出し、
リクは慌ててその後を追って行った。
お目当ての店の看板を見て、
文字の読めないリクが、
ユンタに書いてある内容を聞いてみると、
飲食店で間違い無いと返事があった。
そして三人は行列に並んだ。
昼時なのか、
あまり行列は進まなかったが、
三人で色々と会話をしながら待っていると、
然程、苦でも無かった。
「ユンタとロロって一体何歳なんだ?」
「リク君……。
女の子に、そうやって年齢聞くの絶対良くないッスよー!?
世界には色んな種族の人がいるんスから、
見た目と違って、
びっくりするような歳の人もいるんスよ?」
「え?そうなんだ?」
「いくら長生きするって云っても、
異性に教えたくない女性は、
聞かれたくないッスから!」
「そ……そうなんだ……。気をつけようかな……」
「そんなに年齢って気になるかねーーー?
知ったところで、
別にどーでも良くね?笑」
「それはそうなんだけど……」
「どーーするよ?
ウチらがホントは五百歳でーーーす。
とかって言ったら?
聞いてもどーしていいか、わかんなくない?」
「うん……。たしかに……」
「ま。
リクのいた世界じゃ、
こーーゆーーー種族はいなかっただろーから、
物珍しいのはわかるよ。
ウチら別に気にしてないから、
リクっちも、
ロロ子に叱られたからって、そんな凹むな?笑」
「そうッスよー。
あ。でも自分も別に怒ったんじゃないッスからね?」
「う……、うん!
なんかありがとう二人とも!
俺さ、元々居た世界であんまり友達もいなかったからさ……。
人付き合いとか下手ですまん……」
「今さら笑 見りゃわかるよーーー笑」
「そうッスよーーー!
リク君ってちょっとアレかな?って思って、
おせっかいしたくなっただけッスから!」
「アレって?!」
──ガシャァァァァッッン!!!
何かが倒れて、
派手に食器が割れる様な音がした後、
混んでいる店内からは、
悲鳴がチラホラと聞こえてきた。
人相の悪い大柄な男が、
叩きつけられる様にテーブルに突っ込んで、
白目を剥いたまま動けなくなっている。
その男の仲間と思わしき、
数人の男達が、
一人の女を取り囲んでいる。
「この女何しやがんだ!?
タダじゃ済まさねえぞ!?」
ドスの効いた声で威嚇された女は、
つまらなさそうに鼻で嗤い、
腰が抜けた様に座り込んで、狼狽ている、
女給に声をかけた。
「店員さん。すまんの。
きちんと弁償するけ」
「笑ってんじゃねえ!!」
「五月蝿いの。
お前らみたいな、
しょんべん臭い餓鬼に絡まられたけ、
ちゃんちゃら可笑しくて笑ったんじゃ」
光を放って輝く様な、
ツヤの有る金色の長い髪をした、
美しい女だった。
上がった目尻に、
丁寧に紅を引いて、
美術品の細工の様に、
艶やかな化粧がされている。
妖しく濡れた様に光る赤い瞳は、
色気の有る女の顔立ちを、
殊更に引き立てていた。
そして、女の頭には、
獣の耳が生えている。
女は亜人だった。
黄金色の、太い尾を、
ゆらゆらとさせながら、
女は退屈そうに、
男達に向けて笑みを浮かべた。
その気怠げな、美しい表情は、
店内に居た老若男女を問わず、
人々の心を虜にして奪い去ってしまう様な、
蠱惑的な妖艶さが有った。
それを見て、
男達は身体の裏側を撫でられる様な、
ゾクリとした疼痛を感じて、
下品な欲望が頭の中を過り、
いやらしそうな顔をして、女に言った。
「今なら許してやらねえ事も無え。
お前が今晩、俺達の相手をするならな」
肌蹴た上着から覗く、
白粉の塗られた胸元を凝視して、
男がニヤニヤと嬉しそうにしていたが、
女は襟元を直す様子も無く、
何も言わずに黙っていた。
「へへへ。
亜人の女ってのは、具合が良いって聞いた事があるぜ?
お前で試させてもらうとするか」
「こんな人数相手じゃ、どうしようも無えだろ?」
「大人しくしてりゃ、悪い様にゃしねえからよ」
男達は、そう言いながら、
ジリジリと女に近寄って行った。
「けっ。
店に入った時から、
餓鬼が騒いどると思うとったけど、
よいよ、つまらん連中じゃの。
お前らの粗末なモンで、
わっちが満足すると思うたかの?」
「な!?もう一遍言ってみやがれ!?」
「アホじゃの。
難しくて聞き取れんかったか?
顔も悪いが、耳と頭まで悪いんじゃの」
「てめえ!?」
一人の男が、女に掴みかかろうとしたが、
女は、その男の手を逆に掴み返すと、
目にも止まらない速さで、
親指を勢い良く折った。
「ッッッッがァァァァァアッッ?!」
「どうしたんじゃ?
指折られたんは初めてかの?」
「痛ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「あはは。
そげ可愛い声出すなや」
「女!!!そいつから離れろ!!」
男達がそう言って、
武器を抜こうとした瞬間に、
女は掴んでいた男の指を離して、
解放してやった。
「先に手を出したんは確かに、わっちじゃがの。
こげ所でそんなモン振り回したら、
危なかろう?
続きは表に出てからじゃ」
緊迫した状況にも関わらず、
あっけらかんとした口調で、女はそう言うと、
手のひらを蝶の様に、ひらひらとさせながら、
鼻唄でも歌い出しそうな雰囲気で、
軽やかに歩いて、店を出て行った。
「騒ぎを起こして、
すまんかったの。
怪我は無かったかいの?」
女は店を出る途中で、
先程の女給に声をかけた。
「い……、いえ!大丈夫です、
あの……、お客様、私のせいで……」
女給にそう言われて、
女は返事をしなかったが、
口元は柔らかく微笑んでおり、
女給はその笑顔に、見惚れる様子で、
店から出て行く女の後ろ姿を見送った。
◆◆
その様子を窓の外から、
リク達は食い入る様に覗き込んでいた。
「加勢しようぜ!
あんなゴツい連中がよってたかって、
胸糞悪いわ!」
「そッスね!!
多勢に無勢とか、卑怯ッス!!
どー見ても、あっちが悪人面ッス!!」
リクとロロがそう言って、
店の中へ入ろうとしていたのを、
ユンタが止めた。
「ダメダメ。そっとしとこーー」
「は!?
何でだよ!?」
「いいからいいから。
心配せんでも、あんな連中じゃ、
相手になんねーーから」
「え?」
男の一人が、
不意打ちを仕掛けようと、
女の背後から斬りかかった。
その刹那、
女は素早く身体を翻して、
男が手にしていた大振りの剣を
指先でそっと摘まんだ。
まるで飴細工の様に、
鉄で出来た剣はぐにゃぐにゃと曲がり、
不意打ちを仕掛けた男は、
声を上げて驚き、
剣の柄を咄嗟に手離した。
「ほいじゃけ、
此処で物騒な物を出すなって言うたのに」
「クソッタレ!! もういい!!
殺せ!!」
男達は狂った様な雄叫びを上げながら、
次々に女に斬りかかっていった。
「喧嘩売る相手を間違えたの。後で泣いても知らんで」
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