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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第三章 『指切り姫と西方と忘れられた古い唄』
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第五十九話『路地裏の落涙とモノローグ。』

本日投稿の、

4話目になります!


今日も読んでくれた皆さん、

ありがとうございましたー!!


「びぇぇぇぇえええええええんッッッ!!!!

スイがぁ……!!

スイがぶったぁぁぁぁぁぁぁ!!!!

思いっ切りぶったぁぁぁぁぁ!!!!

びぇぇぇぇえええええええん!!!!」


大声で泣きじゃくるシャオの手を引っ張って、

スイは、人気(ひとけ)の無い路地を歩いていた。


「まったく……。

君が調子に乗るからいけないんだよ?」


「ごべんなざぃぃぃぃいい!!!

びぃえええぇぇぇ!!!」


「やれやれ……。

何事かと思われるから……。

そんなに大きな声で泣かないで?」


「だってぇぇぇぇぇ!!

スイが怒ったぁぁぁぁあ!!」


「もう怒ってないから」


ルーファンで、シャオは有名人だ。

白銀(しろがね)』が泣きながら、

女と手を繋いでいた。

って、噂になるぞ。

と、スイは思っていた。


スイが溜め息をついて、背伸びをした。


少し休みたかったが、

シャオがこの調子では、

何処か店に入る事も出来ないので、

座れて、シャオを落ち着かせる事の出来る場所を探していた。


「ううう………。えぐっ……。えぐっ……」


「落ち着いた?」


「うううううう………。ひっく……。ひっく………」


「リクたちは何処へ行ったんだろう?

迷っているのかな。

この都は広いし、人も多い」


シャオは返事をせずに、まだ泣き続けていた。


「はぁ………。

行儀が悪いけど、そこの辺りで、

適当に座って休んでもいいかな?」


「ううう……。

えぐっ……。

えぐっ……。うん……。

スイ……。ごめんなさい……。

私が泣き止まないから……。でも……。

涙が……、どうしても止まらなくて……。ううううう」


「いいよ。

もう少し落ち着いたら、何処か、お店に入ろう」 


「うん……。ひっく……。ひっく……」


スイはシャオと一緒に、

建物を背にして地べたに座り込んだ。

冷たくて固い地面だったが、

座る瞬間にスイは心地よさを感じて少しホッとした。



(やれやれ。

やっぱりルーファンは都会だな。

少し疲れちゃったな)



リクとロロは、

ユンタも一緒に居るし、

心配はしなくてもいいだろう。


スイはそう思って、少しだけ(まぶた)を閉じた。



◆◆



「誰?その子」


猫の耳を頭からちょこんと生やした、

赤い髪の女の子がそう言っている。


とても綺麗な、

瑠璃(るり)色の瞳を、

幼いわたしに向けて。


今よりも髪が長い。

わたしが、初めて出逢った時のユンタだ。


「僕の娘だよ」


得意気に、

ユンタにそう言ったのはコトハさんだ。


わたしと手を繋いでいるコトハさんは、

未だ、出逢ったばかりの頃で、

今の私よりも年下の女の子だった。


「はぁ?

娘ー?コトハ結婚してたん?いつ?

てか妊娠なんてしてなかったじゃん?」


「冗談だよ。

結婚もしていない。

まだ僕は十五になったばかりだよ?

彼女はね、スイというんだ。

僕がつけた名前だ。

いい名前だろう?

僕と血の繋がりは無いけれど、僕の家族になったんだよ」


「あんたが名前つけたって……。

孤児の子を引き取ったってこと?」


「そうだよ」


「はぁー……。

コトハ。

あんた、ちゃんと育てれんの?

ウチに、相談くらいしてくれても良かったじゃん」


「スイが(うち)に来た日に、

ユンタはウィソにいなかったから」


「はぁー……。

まーーそーなんだけど」


「スイはね、

すごく頭の良い子だし、おりこうさんだ」


「そーなん?

てか。

この子全然喋んないね?」


「恥ずかしがり屋さんなんだよ。

スイ。この子はね、ユンタって言うんだよ。

僕の一番の友達だ」


「やほ。ユンタだよ。よろしくね」


わたしは、何も言わずにじっとユンタを見ている。


「怖がってるんかな?」


「スイ?

挨拶はしなくちゃいけないよ?」


年齢(とし)はいくつ?」


ユンタが腰を(かが)めて、

わたしと目線を合わせてくれた。


指を伸ばして、

手のひらをユンタに突き出して、

わたしは言った。


「五歳」


「おーえらい。

ちゃんと言えたねー」


ユンタが優しく頭を撫でてくれた。


「よく見たらすげー可愛い顔してるね?この子」


「そうだろう?

瞳の色もすごく綺麗だ。

君たちの世界の人は美男美女が多いね」


「この子、何処にいたん?」


「僕の家の近くに、

老夫婦がやっている小さな商店があるだろう?

あそこの店先で、林檎を(かじ)っていたんだ」


「はぁ?林檎?」


「お腹が空いていたらしくてね。

店の前に突っ立っていて、

あんまりにもお腹の虫を鳴らすものだから、

見かねた老夫婦が、

この子に食べさせてやったんだ。

でも、

渡せばいくらでも食べてしまうから、

放っておくことも出来ずに困った老夫婦が、

通りがかった僕に声をかけてきたんだ」


「なんだよそりゃ。孤児院から抜け出して来ちゃったのかね?」


「さあね。スイに聞いても教えてくれないから」


「問い合わせてみよーか?」


「いや。いいよ、ありがとう。

きっと戻りたくない理由があるんだろう。

もう一緒に暮らしているし、僕の家に居たら良いと思う」


「えー。なんか心配だな……。

えーと…スイ?

スイはどっから来たの?」


「………」


「ほらね。教えたくないのさ」


「……わからない」


「ん?」


「教えたくないんじゃ無くて、

わからないから答えられない」


「ほう」


「急にどっかから現れて、林檎を食べてたのかよ?

まさかこの子、転移者か?」


「うーん。

こんなに綺麗な金色の瞳をした日本人は、

いないと思うんだがねぇ。

この世界の、何処かから転移してきたんだろうか?」


「ここに来る前の事は憶えてない。

精霊と一緒にいたのは憶えてるけど……」


「精霊と?」


「ああ。

スイにはおそらく、

強い精霊魔法のスキルが有るんだろうね。

四六時中、この子の周りを精霊たちがうろうろしている」


わたしは同意するように頷いていた。


「それ、ほんとに大丈夫なのかよ?

この歳で、スキル付与もしてなくて、

精霊の声が聞こえてるとしたら相当なもんだよ?

早いとこスキル鑑定に行ったほうが良くない?」


「そうだね。その事も相談に来たんだ」


「他にもあんの?」


「うん。

スイの服を選ぶのについてきて欲しい。

僕の服を着せてはいるんだけれど、

どう考えても大きすぎるんだ。

僕はファッションの事はさっぱりだから、

おしゃれなユンタが選んであげてほしい」


「どーりで服ブカブカなのか。

そりゃいーけど……」


「とびきり可愛いやつにしてくれよ?」


「あんた……。

いっつも同じような服着てるくせに」


「だって見てごらん?

スイはこんなにも可愛いんだよ?

僕の野暮ったいセンスの服を、いつまでも着せてられないよ」


「はいはい。

それとさ……。

コトハ、『スイ』って、意味わかっててつけたの?」


「ああ、ヤンマにも言われた。

僕は、その意味を知らなかったからヤンマに教えてもらったよ。でも、僕がつけた理由はその意味とは全然違う。

だから良いんだ」


「なに?その理由って?」


「だって、『スイ』って、響きがとても素敵じゃないか。

この子にぴったりだ」


「………あんた、やっぱり変わってるねーーー」


「そうかな?

それよりも早く服屋さんに行こう。

それと悪いんだけれど、少しお金を貸してもらえるかな?」


「行く末がすげーーー心配になるんだけど!!」


「仕方ないじゃないか。

二人で眠れる大きさのベッドや、

その他の日用品をいろいろ買ったりしていたら、

お金が無くなってしまったんだ」


「ほんとに、これから二人で暮らしてけるんか……?」 


「なんとかなるさ。

ユンタとヤンマがいるし」


「めっちゃ他力本願じゃんーー……!」


「よし、行こうスイ。

君もユンタにお礼をちゃんと言うんだよ?」


「わかった。ユンタ。ありがとう」


「…………………どーいたしまして」


短くぶっきらぼうな言葉だったが、

ユンタは、

わたしの頭を愛おしそうに優しく撫でてくれていた。


わたしは自分で思っているよりも、

記憶力が良いのかも知れない。

幼い頃に(そば)で聞いていた、

コトハさんとユンタの会話を、

こんなにも鮮明に思い出すことが出来る。


そうだ。

それからユンタはよく遊びに来てくれたんだ。

色々なところへ連れて行ってくれたり、

美味しいものを食べさせてくれたりもした。


幼いわたしを、

ユンタはものすごく可愛がってくれていた。


わたしは、

その事を全部思い出す事が出来る。


ユンタが、

わたしを褒めたり慰めてくれたりする時に、

優しく頭を撫でてくれた感触も。

その時の、ユンタの優しい表情を。



そして、

今見ている光景が夢だということに、

わたしは気づいていた。


夢の中で、

昔の記憶が再生される事は、

こんなによ頻発して起こることなのだろうか?

わたしは、

こんなにも夢をよく見る方だっただろうか?


これは、

何かの前触れなのかも知れない。


良いものか悪いものかは、

わたしには判別がつけられないけど、

コトハさんの姿を見る事が出来るのは、とても嬉しい。

たとえ夢の中だとしても。


この時のコトハさんはまだ十五歳。

この世界とは異なる世界から来た女の子が、

突然、目の前に現れた、

わたしを育てると決めてくれたんだ。

たったの十五歳で。


わたしは、

コトハさんと、ユンタの昔の姿を見ていると、

懐かしい気持ちで一杯になって、

ぶわっと、

こみ上げてくるものあったけど、

それを我慢すると、

今度は自然と口元が弛んでしまった。


数えきれないくらいの、

たくさんの思い出を私はもらっている。

まだまだ幾らでも思い出せる。


わたしは確かに幸せだったんだ。


◆◆◆

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