第五十八話『親御さんに、どんな顔して逢えばいいのだろうか。』
本日投稿の、
3話目になります!!
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「待って!
シャオ!
待って!!
そんなに速く走れないから!」
「ウフフフフ!」
「笑ってないで離してくれ! もう!」
スイは、
精一杯の力でなんとか手を振り解くと、
乱れた呼吸を整えるよりも先に、
驚いて、立ち止まったシャオの背中を押して、
人気の無さそうな路地へと連れて行った。
「シャオ!?
ちょっと落ち着いてくれないかな!?
ちょっと君、浮かれすぎだよ!
それにわたしは、
少しだけ、そっとしておいて欲しいって頼んでるのに、
全然聞いてくれないじゃないか!
ひどいよ!」
「ス……、スイ…?
ご……、ごめんなさい……。
私……。
はしゃぎ過ぎちゃいましたかね……?」
「そうだよ!!
どう考えても様子が変だよ!!
君のことは友達だと思っているし、
わたしを楽しませようとしてくれているのは有難いけど、
わたしにも少しくらい、
心の整理をさせる時間を、
くれたっていいじゃないか」
「心の整理って………。
あの……。
私と、スイが、
ちゅーしちゃったことでしょうか……?」
「く……。
そ……、そうだよ!?
頬を赤らめない!!
あんな事しておいて、
平常心でいられる程に……、
その……。
わたしは経験豊富じゃない!!」
「でもミナトとは、
ちゅーしたんでしょう?
私は、本当の本当に、
初めてだったのに……」
「そ……、その話は今はしなくていいんだ!
だ……、大体ね、
君は、初めてなのに、
あんなに舌をいやらしく……、
ああもう!
……あ……、あんなに激しくするなんて、
君の貞操観念はどうなっているんだ?!
明らかに上級者じゃないか?!」
「……昂ってしまって……」
「昂ってしまったにしても、ひどい!
無理やり抑えつけられて、
強引にあんな風にされたら、わたしだって驚くし、
少しは傷ついたんだ!」
「それはその……。
ごめんなさい……。
ミナトにスイを盗られたんだと思うと悔しくて……」
「わたしは物じゃない」
「はい……」
「まったく……。
おじさんとおばさんに、
どんな顔をして会えば良いんだろ……」
「それはその……。
私はありのままを言うつもりです……」
「正気かい?!
君はイファルの将軍の娘なんだよ?!」
「はい!
ですから。将軍の娘として迷う事無く、
自分の決めた道を誇りを持って、
歩んで行きたいと思っています!」
「将軍の娘の将来を、
わたしが棒に振ったと、
おじさん達に知られたらと考えると怖いよ……」
「スイ。怖がる事などありません。
私がきっと貴女を守りますから」
「ちがう……。なんだか話が噛み合わない……」
「それに私がスイの事を子供の時から、
ずっと大好きなのは父様も母様も既に知ってますよ?」
「………は?!」
「私、
父様と母様の前では、
気持ちを隠したりしてませんでしたから」
「ちょ!
ちょっと待ってくれないか?
……おじさんとおばさんが既に知っているって云う、
その、ずっと大好きっていうのは……、
友人として……、のだよね……?」
「え?違いますよ?
スイのお嫁さんになりたい。
そっちの方の、ずっと大好きです」
「わぁぁぁぁぁぁぁ?!?!
何をやっているんだ君は?!
一人娘が女を好きだなんて………。
おじさんとおばさんが、
わたしに逢いたいと言ってくれていたのは、
ひょっとして、
わたしに文句を言ってやろうと思ってるのかな?!」
「ふふ。まさか。
イファルに戻った時に、
スイの話をしたら本当に嬉しそうに聞いていましたよ?
言いませんでしたか?」
「ど……、どうなっているんだ君の家は?!
わたしはシャオの家には行けない!!」
「え!?
なんでですか!?
イファルに滞在の間は泊まって行ってください!!」
「どの面下げてお世話になれば良いんだ?!」
「スイは別に何も気にしなくていいんです!」
「気にするよ!
とにかく、わたしは宿を別に取るから!」
「ダメです!!」
「イヤだ!!
君のおじさんとおばさんには、
ずっと優しくしてもらっていたんだ!!
なのに……、
その好意を裏切ってしまっていたみたいじゃないか!!」
「そんな事はありません!!
大体、女性同士で、
恋愛をしてはいけないと誰が決めたんですか?
少なくとも私には、
その考えがひどく歪なものの様に思えます!
「歪でもなんでも、
そんな決まりがある国もあるだろう?!」
「それに。
スイがもし男の子だとしても。
私は、スイの事が変わらずに大好きだったと思いますよ?
女の子だからスイの事が好きな訳じゃないんです。
スイが、スイだから好きなんです!」
「そ……、それとこれとは話が別だと思う!」
「私にとっては同じです!」
「……シャオ。
なんだって君は、
そんなに頑固になったんだい?
昔はもう少し気弱で、素直じゃなかったかな…?」
「それは……。
きっと、スイに出逢って心を奪われてから……、
スイに釣り合う様に心身共に鍛えて行ったお陰かなと……。
私は、
ずっとスイの隣に居たかったから」
「……君を、
そんなにも夢中にさせてしまった、
子供の頃のわたしを恨むよ……」
「スイは子供の時から王子様みたいでしたからね……。
大人になったスイも本当に素敵……。
でも……。
今みたいに、困って少し泣きそうになっているスイも、
とっても可愛くて大好きです!!
なんだか少し意地悪したくなっちゃいます!!」
「泣きそうになんてなってない!!」
「いつもはクールで、凛としていてかっこいいですけど……。
あらあら?
眼がうるうるしていますよ?
我慢せずに泣いてもいいんですよ?
子供の頃は私の方が泣き虫でしたけど………。
逆転しちゃいましたね。ふふ」
「うるさいおっぱい!!!」
「ふふ。
この間はそれを言われて泣いちゃいましたけど、
今となっては、
妖精の羽の音くらいに優しく聞こえてしまいますね。
ああ……。
いじらしいです!
強がって生意気な事ばかり言う、
その可愛らしいお口を、また唇で塞いであげましょうか?」
シャオが意地悪そうに笑いながら、
スイに顔を近づけた。
「ダ……、ダメだよ!!今日は絶対にしないからな!!!」
「スイったら。
私にちゅーされて顔を真っ赤にして……。
可愛かったなぁ……。
私、多分初めてスイの事、泣かせちゃいましたよね?
また……。
あんなに可愛い顔で泣かれたら……。
私……。
我慢出来なくなっちゃいますよ?」
「………───ッッッッッッッッッ!!!!」
───ゴンッッッ!!!!
息を荒くしながら、
瞳を燃える様に爛々と輝かせながら、
興奮して顔を紅潮させて、
迫り来るシャオに、唇に触れられそうになり、
恥ずかしさが、
限界に達したスイが、眼に涙をいっぱい溜め、
シャオの頭に拳骨を振り落とした音がした。
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