第五十七話『都。』
本日投稿の、
2話目になります!
◆
友好条約を提携している、ウクルクの隣国。
中央諸国の中でも随一である、
国土の面積と人口を有し、
世界でも有数の強大な軍事力を保有する、
魔法国家イファル。
その、イファルの首都である、
ルーファンに、スイ達は無事に到着する事が出来た。
シャオの先導で、塔の様な高さの大きな城門を通り、
市街地に入ると、
イファルの建国神話に記載の有る、
神の遣いとしてイファルの地に降臨した、
白い巨鳥の叙事詩に因み、
巨鳥をモチーフとした、
建造物が多く見受けられた。
そして、
白を基調とした、
大きな建物が、
無数に建ち並んでおり、
東西南北の分けられた区画には、
碁盤上に敷かれた道路が、
隅々の至るところまでに、張り巡らされて、
全てが規則的で、
均一に整えられている。
シャオ曰く、
現在、パーティーが居る辺りは、
飲食店や商業施設が多く並ぶ区域だと云う。
「で……、でっけぇ街だな……。
マジで!!」
リクが、
荘厳で清潔な街並みと、
そこを往来する人々の多さと、
その華やかさと、
賑やかさに、
圧倒された様子で、
キョロキョロと辺りを見渡しながらそう言った。
「東京とかより、人が多いんじゃないのか?」
「ウィソよりも、都会だと言ったでしょ?」
スイが隣を歩きながら答えた。
「にゃは。なんだーーリクっち田舎もんなん?」
「自分もルーファンは初めてッス!!
噂には聞いてたけど、本当に大きなとこッスねーーー!!」
「ふふ。皆さん。
迷ったらいけませんから、
私に、ちゃんとついて来てくださいね?」
シャオは、
ルーファンに着いてからというものの、
ずっと機嫌が良かった。
と云うより、
洞窟での一件から、
どこか地に足がつかないような心地でいる様に見えた。
「迷っても、わたしの精霊が教えてくれる」
スイが、
少しだけ棘のある言い方でそう言った。
シャオがスイの顔を覗き込むと、
スイは眼を反らした。
昨夜、
ユンタに話を聞いてもらったものの、
シャオを見ると、
まだ少しだけ、
心にしこりの様なものがある事が、
自分にはよくわかっていた。
「まだ怒ってるんですか?」
「別に。怒ってなんかないよ」
「ふふ。
そんなにふてくされてたら、
隠してもすぐにわかっちゃいますけど?」
「隠し事なんてしてない」
「それに、
昨夜はひどいじゃないですか?
いつの間にか居なくなっちゃって」
「君がベッドを占領するから、眠る場所が無くなったんだ」
「ひゃぁぁぁぁぁ……!!!!
昨日の夜、何があったんスか!!?
別々の部屋だったじゃないスか!!?
一緒に寝てたんスか!!!?」
「違うよ。
シャオが勝手に、
わたしのベッドに潜り込んできただけだよ」
「なんだか、昨夜は冷えましたからねぇ……」
「もういい。
機嫌が悪く見えたなら謝るよ。
でも、
わたしだって機嫌の悪い時だってあるし、
気持ちの整理をつけたくて、
そっとしておいて欲しい時もある」
「そうですか………。わかりました……」
「まーまー。
無事に着いたんだしーーー。
休養しに来たんだからなーーー?
とりあえずパーーーッと遊ぼうよ」
「そうですね!
皆さんは、どういうお店が好きでしょうか?
食べ物屋さんもたくさんありますし、
温泉も、
夜中まで営業していますから、
他にも色々と見てまわりましょう!」
「楽器屋さんとかもあるんスかね!?」
「はい!
大きなお店があります!!
職人さんが常駐している店なので、
そこに行ってみましょう!!」
「やったッス!
リュートの調律が最近ズレやすくて……」
「ウチは、甘いもの食べながらウロウロしたいなーーー」
「あります!!
スイーツ屋さんが密集した通りがあるので、
そこに寄っていきましょう!!」
「うぇーーい。楽しみーーー」
「俺はどうしよう!?」
「リクさんは大きな都が初めてですし、
とにかく色々見てみましょう!!
ニホンには無い物もあるでしょうから、
きっと楽しいと思います!!」
「わかった!!」
「…………………」
「スイはどこか行きたい所はありませんか?」
「私は……、別に……。
皆の行きたい所に着いて行くからいいよ」
───(こんなに、子供みたいな事を言いたくないのに)
とにかく、明るく接して来るシャオを、
羨ましく思い、
少しだけ、恨めしくも思った。
「新しく出来たアクセサリー屋さんとかも、
たくさん有りますよ?」
「うん……」
「あ!
あと!
スイってチョコレートが大好きでしたよね?
スイーツ屋さんの通りに、
チョコレートを取り扱うお店が出来たんですよ?
生チョコ?とかって名前の、
美味しいチョコレートが有るそうですよ!
一緒に行ってみませんか?」
「……うん……。行く……」
「チョコレートって、
確か、ニホンから伝わって来たお菓子ですよね?
そこのお店のパティシエの方が、
転移してきたお菓子作りの職人さんに、
直接、作り方を教えてもらったらしいです!
母様が一度だけ、
食べた事が有ると言ってましたけど、
本当に蕩ける程に、
甘くて美味しかったそうですよ!
食べたくありませよか?」
「……食べてみたい」
スイは渋々に、
と云う感じだったが、
チョコレート、
という言葉に、
惹かれていることは明らかだった。
「良かった」
シャオが、ニコリと微笑んで嬉しそうにそう言った。
「たくさん買って、
あとで私の家に届けてもらいましょう!
確か、たくさん種類があったので、
スイが食べたいものを、
どれでも好きなだけ選んでくださいね!
それに!
母様もお菓子をたくさん作ると思うので、
いっぱい食べてくださいね!!」
シャオはスイの手を握り、
飛び跳ねる様に歩き出した。
嬉しさが頂点に達した様に、
とても浮かれた表情で。
「そんなに引っ張ったら痛いよ」
「スイ!
私嬉しいんです!
スイが、この都に来るのは久しぶりでしょう?
それに……。
スイと一緒に、こうやって手を繋いで歩けるなんて……。
まるでデートみたいで……」
「皆が居るじゃないか」
「ふふ。照れちゃって」
「照れてないよ!
ちょっとシャオ……。いい加減、
手を離してくれるかな?」
「それにですね……。
スイがふてくされてツンツンしているのも……。
私、好きです!」
「ねぇ……。少し話を聞いてくれないかな?」
「聞いてます!
私……。
何だか今日は、
スイと手を繋いで、
街中を、駆け回りたい気分です!!」
「全然聞いてないじゃないか!?」
シャオはスイの手を握ったまま、
嬉しそうに駆け出した。
固く握られた手のおかげで、
スイは必死になって、
シャオを追って、
走って行く事しか出来ない様子だった。
スイは、
無理矢理にでも、
振り解いておかなかった事を後悔した。
シャオの脚は、とても速いのだ。
「スイちゃん元気無かったッスけど、
シャオちゃんに圧倒されてるッスねー」
「ちょっと強引だけど、
仲直り出来そーーで良かったわー」
「追いかけなくていーのかよ?
二人とも行き先の店、知ってんのか?」
「わかんないーーー」「知らないッス!」
「…………追いかけるぞ!?!?」
◆◆




