第五十五話『真夜中なのに。』
本日投稿の、
4話目になります!
◆
スイが目を覚ました時、
未だ、真夜中の様な時間だった。
(久しぶりに、コトハさんの夢を見たな)
スイは自分の頬が濡れているのに気づいて、
さっきまで、
見ていた夢の内容を反芻するように、
ゆっくりと思い出していた。
夢というよりも、
記憶の引き出しを開いて、
きちんと、畳んで仕舞ってあった事を、
ゆっくりと、
丁寧に取り出したモノの様に思えた。
「はぁ………」
夢の中ではあったが、
コトハに再び出逢えた嬉しさと、
夢の中でのコトハが、
記憶の中にあるものでしかないことの寂しさとが、
一緒になって、
スイの中でぐるぐると廻っているようだった。
ベッドの中で身体を起こし、
体勢を変えて、また横になろうとした時に、
スイの身体に、何か柔らかいものが触れた。
「わ!」
スイは、驚いて少しだけ声をあげた。
その隣では、
シャオが静かに寝息を立てていた。
(いつの間に………。
自分の部屋で寝ていたんじゃないのか?)
いつの間にかベッドに潜り込んで来て、
当たり前の様に眠っているシャオを見て
スイは溜め息をついた。
◆◆
村人たちを救出した後、
到着したウィソの騎士団の部隊に、
ゴアグラインドとツァンイーの身柄の連行と、
回収した女神の痕跡の破片を預けた。
騎士団を率いて来た部隊長に、
余裕が有れば、是非一度ウィソに戻って国王との謁見を。
と、
勧められたが、
スイ達は、余りにも疲れ果てていた為、
それを断った。
ご馳走の用意をした祝賀会の誘いも受けたので、
空腹だったスイが、それに少し惹かれたが、
一度ウィソに戻るよりも、
このままイファルに向かおうとの意見で一致し、
残念がる部隊長に別れを告げた。
そして、
一向は森を出て村に戻り食事を済ませ、
村の外で野営の支度をし、昼頃まで眠った。
宿泊施設が無い為、
恩人をこんな扱いにして申し訳ないと言って、
神父を始めとして村人たちが次々と謝り、
自分たちの住居で寝る事を勧めたが、
パーティー全員が眠れる程、
広さのある建物も無かった。
その代わり、
村人達がたくさんの食料を用意してくれて、
村の外で小さな宴会が始まった。
ロロは、
楽しそうにリュートを弾いて歌い、
村人は歌に合わせて身体を揺らした。
そして、スイは本当に喜んで、
どの料理も美味しそうに食べ尽くしていった。
しかし、スイは食事の時以外はずっと機嫌が悪かった。
洞窟の中で、
びっくりするくらいの、
濃厚なキスを、
シャオから受けた後、
どうにかシャオを引き剥がし、
スイは顔を真っ赤にして、
涙ながらに、
仲間達に抗議をし続けた。
どうして誰も止めてくれなかったのか、と。
リクもユンタもロロも、
スイに謝ったが、スイの機嫌は直らなかった。
シャオに至っては、
キスの事を思い出す度に甘い声をあげて、
スイを怒らせたが、
一向に気にする様子が無く、
相変わらずスイにベタベタとくっついて回り、
それがまた、スイの機嫌を損なわせた。
「もう君たちの事は許さない!絶交だ!」
と、スイは口をへの字に曲げて宣言していた。
「あらーーマジで怒ってるねーーー。
ま。寝たら機嫌直ってるの期待するしかないかなー」
と、ユンタが言っていたが、
リクとロロは目を合わせて、不安そうにしていた。
◆◆
翌日の昼頃、
モソモソと一向は起き出すと、
野営の片付けと、
ロロと村人達が涙を流して、
別れの挨拶をするのを見届けてから、
イファルへと向かった。
その間に、
リクはなるべく明るい調子でスイに何度か話しかけたが、
スイは、
「ああ」「うん」「そうだね」
などと、短く答えるだけで、
目も合わせようとしなかった。
“気まずッッッ……!!”
元来が、
少々コミュ障気味だった彼にとって、
スイのそのささやかな拒絶は少々難解で、
気後れさせるのに、充分なものだった。
道中、
幾度か休憩を挟みながら、
日が沈む頃にイファルの領土に入ることが出来て、
王都から一番近い、
宿場町まで来ることが出来た。
そして、
この夜は一旦ここで宿を取ることになった。
宿で食事を取る頃には、
元通りとまではいかないものの、
スイの機嫌も、
心なしか戻ってきているようにリクには思えた。
なるべく努めて、
明るく話しかけていた自分と違い、
ユンタやロロは、
もうスイが怒っていたことを忘れてしまっているかのように、
次第に普通に接し出したからだ。
そしてスイも、
多少温度差はあったが、
絶交とまではいかない様な態度に、
軟化してきているように見えた。
その間、
ずっと、いつも通りだったのは、
シャオだけだった。
スイが怒るので、
キスの件は口にしなかったが、
うっとりとした目付きでスイを眺めたり、
何かにつけて、
スイにしがみつく様に、
抱きついたりするシャオに、
いつもよりは素っ気なく対応していたが、
スイも、もう怒る様なことは無かった。
そして、スイが目を覚ました真夜中。
スースーと寝息を立てながら、
時折、
嬉しそうに笑うシャオを眺めていると、
何か、楽しい夢を見ているのだろうと思い、
起こすのに気が引けて、
自分がベッドを出る事にした。
(シャオと同じベッドで眠るのなんて、
子供の時以来だな)
明かりの点いて無い部屋の中で、
目を凝らして、
シャオの事を見た。
艶やかな、白くて張りの有る肌。
絹の様に、触り心地の良さそうな、
綺麗な銀色の髪。
エルフの血族特有の、
透き通る様な、
神秘的な雰囲気の、
整った造形の顔立ち。
(シャオは美人だ。
わたしより背も高いしスタイルも良い。それに……)
スイは、
薄い寝間着で眠るシャオの胸元を見て、
そこにある、
豊かな谷間をしげしげと観察した。
(胸が本当に大きい……)
スイは、
シャオが起きていないのを確認して、
自分の胸と、
シャオの胸をそっと触ってみて、
サイズの違いを改めて確認した。
(全然違う……。
私だってもう少しは有ったっていいのにな……)
子供の時は、
背丈も自分と同じくらいだったのに、
とスイは思った。
(わたし途中で成長が止まったみたいに、
チビのままなんだけどな……。
シャオは、
きっと男の子にモテるだろうね。
……それなのに、なんで女が好きなんだろう?
……しかもわざわざ、わたしの事を?
……大体、シャオはあんなにも恥ずかしい事を、
皆の前でしておいて、
なんで平気な顔をしていられるんだ!?
しかも人のベッドに勝手に潜り込んできて!!)
スイは、
シャオにされたキスを思い出して、
顔が真っ赤になり、
忘れかかっていた、
恥ずかしさと怒りがこみ上げてきた。
(それに、やっぱり皆もひどいじゃないか!?
誰も助けてくれなかった!
次にパーティーの誰かが、
同じ目に遭ったとしても、
私は絶対に助けてやらないからな!!)
スイは、
音を立てない様に、
ベッドからゆっくりと降りて、
部屋を出た。
◆◆◆
今日の投稿は、
これでおしまいです!
そして、
まーーた話数の表記を間違えてました……!
修正しておきました!
今日も読んでくれた皆さん、ありがとうございました!




