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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第三章 『指切り姫と西方と忘れられた古い唄』
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第五十四話『追憶と夢のつづき。』

本日投稿の、

3話目になります!!


未だ、

夢から醒める事は無く、

わたしは再び、

幼いわたしと、コトハさんの居る、

景色の良い丘の上で、

二人の事を眺めていた。


コトハさんが、

わたし達の住んでいた区画の辺りを指差している。

 

「あ!あれは僕達の家じゃないかな?」


「どれ?」


「ほら!

あの青い屋根の!

方角も合ってるし、絶対にそうだ!」


「全然見えない」


「王宮から、あんなにも離れているんだね」


「よく見えるね?僕には全然わからない」


「僕は、あの家が大好きだからね」


「そうなの?」


「あの家には、

スイが居て、

ヤンマが居て、

たまにユンタが遊びに来る。

自慢じゃないが僕にはどうやら、

この世界に来るまで、

友達と呼べるような存在がいなかった様だからね」


「そう言ってたね」


「こんなにも、

自分の周りが賑やかなのは、

初めてなんだ。

とても幸せな事だと思う」


「そうなんだ。

コトハさんが喜んでくれているなら、

僕も嬉しいな」


「ふふ。

僕のところに来てくれてありがとう、スイ」


「どういたしまして」


「そろそろ帰ろうか。

お腹が空いたから僕を迎えに来たんだろう?

長話をして悪かったね。

僕はスイと話をするのが好きなんだ」


「いいよ。

でもお腹は本当に空いてる……。

それに、勝手に出てきたから、

ヤンマが怒って、

探しに来てるかも知れないね」


「いいさ。

一緒に叱られてあげるから。

それよりスイ。

帰りにお菓子屋さんに寄って帰ろう。

君にチョコを買ってあげる」


「……え!?!?

チョコ……?チョコレート!?

なんで!?

今日は僕の誕生日なのかい!?」


「君の誕生日はまだ先だ。

もっと寒い時期だっただろう?」


「なんで!?

なんで誕生日でも無いのに!?

なんでチョコレートを買ってくれるんだい!?

た……、誕生日に僕がお願いしても、

あまり買ってくれないじゃないか!!?」


「あはは。

この世界じゃチョコはえらく高級品だからなぁ」


「そうだよ!

ウチは貧乏だ!!

っていつも言うじゃないか!?」


「今日は何だか無性に、

僕の大切な愛する娘であり、

妹であり、

友人でもある、

君に贈り物をしたくなったのさ」


「わ……。わわわ……。

うわぁぁぁぁぁぁぁあああ?!?」


「あはは。

そんなに喜んでくれるなんて。

君は当にプレゼントの贈り甲斐(がい)があるなぁ」


「い……!

行こう!

コトハさん!

早く行こう!!?」


「はいはい。

ヤンマには内緒だよ?」



◆◆


────わたしは憶えている。


流れていく雲が、

落としていった影の形でさえも、

風が吹いて揺れて香った、

草花の清々しい香りも、

夕暮れの街を走りながら繋いだ、

コトハさんの白くて綺麗な手も、

買って貰ったチョコレートを、

とても大事に食べたことも、

その、甘くて頬が落ちそうな美味しさも、

胸の中が一杯になりそうな、

心が踊る甘い匂いも、

口の端にチョコレートをつけたわたしを見て、

可笑しそうに笑っていた、

コトハさんのことも。


気づけば、

わたしの眼からは、

たくさんの涙が(こぼ)れていた。

おかげで、

視界がぼやけて、

何も見えない程になってしまった。


わたしは子供の時のように、

声を出して泣いた。

そんな風に泣いたのは、

本当にいつ以来だったか、わからなかった。


おそらくこの日は、

チョコレートを買って貰ったこと以外は、

わたしとコトハさんが過ごしていた、

いつもの日常と大差ない日だった筈だ。


それでも。

あの人が居ただけで、

こんなにも優しく時間が流れていたのだ。


わたしは、そう思うと涙が止まらなかった。


前後して見せられた、

コトハさんとヤンマの言い合いは、

この日では無く、別の日だった筈だ。


コトハさんは、

きっとあの日の事を、

あの丘の上で、

ひとりで考えていたのだ。


わたしのこと。

ヤンマのこと。

ユンタのこと。


────そしてわたしは思い出していた。


この日から、

ちょうど一年後に、

コトハさんは旅に出たのだ。


わたしとヤンマを、

コトハさんが大好きだと言っていた家に残して。


それから、

もう、七年も経ってしまっていた。


◆◆

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