第五十三話『スイの見た夢。』
本日投稿分の、
2話目になります!
この話から、
新しい章に入りまして、
長めのプロローグの様なモノを最初に書きます!!
◆
そこの景色は、わたしの見憶えの有るものだった。
丁寧に石畳が敷かれ、
綺麗に区画分けされた大きな都。
それを、
ちょうど見下ろす事の出来る、
大きな城壁から外に出て、
しばらく歩いて登った所に有る、小高い丘の上。
季節によっては、
とても心地の良い風が、
よく吹いていた気がする。
そして、わたしは、
そこが何処だったかを、
すぐに思い出すことが出来る。
見下ろしている馴染みの有る街並みは、
ウィソの都で、わたしの故郷だ。
上着のポケットに、
両手を突っ込んだ女の子が、
丘の上に登って行き、
彼女が歩いている先の頂上の所で、
脚を伸ばして地面に座り込んでいる、
綺麗な女の人に声をかけていた。
あの女の子は、
幼い頃の、
わたしだ。
座っている女の人は、
わたしのお母さん。
見間違える訳がない。
コトハさんだ。
◆◆
「やあ」
コトハさんが、
わたしを見て、
微笑んでいた。
「何してるの?」
「都を見ていたんだ」
「どうして?」
「どうしてと聞かれると……。
どうしてだろうね?
君こそ、
どうしたんだい?
また門番のおじさんに頼んで、
一人で外に出たのかい?
ヤンマに叱られるぞ?」
「お母さんだって、一人で外に出てるじゃないか」
「それは確かにそうだ。
ところで。
いつも言っているけど、
血の繋がらない僕の事を、
母親と慕ってくれているのは、
とても嬉しいし、
僕も君の事を娘の様に、
とても愛おしく思っているんだけれど、
僕は未だ二十一だ。
お母さんではなくて、お姉さん。と呼んで欲しいな」
「だって。
コトハさんの事を、
お母さんって呼ばないのは変だって、
ゼンが言ってたから」
「ゼン…?ああ。
あの横柄そうな男の子か」
「そう」
「仲良くやってるのかな?」
「ううん。
僕は、ゼンの事が苦手だから」
「どうして?」
「弱っちい癖に、いつも僕をからかってくるから」
「男の子とは、
そういうものなのだろうね。
でも、
彼が何て言おうが、
僕は、お母さんと呼ばれるのは嫌だ」
「じゃあコトハさんって呼ぶよ」
「それなら良い」
「ご飯の時間だけど、家に帰らないの?」
「もうそんな時間だったかな?
ついつい、ボーッとしてしまう癖があるからいけないね」
「大人なのに?」
「大人なのに。
たまには何も考えない事もあるさ。
………。図書館のお姉さんに、
たまたま聞いたんだけど、
君は遊びに行くと言って、時々、
家を出て行っているけど、
決まって、
いつも図書館で一人で本を読んでいるそうじゃないか?
君くらいの年頃の子供は、
子供同士で遊びたいものなんじゃないのかな?」
「本を読んでいる方が好きなんだ」
「図書館のお姉さんは、
君が、図書館の本を全部、
読んでしまうんじゃないかって言っていたよ」
「読み終わる頃には、お婆ちゃんになってると思う」
「僕も本は好きだけどね」
「コトハさんが子供の時は、
僕くらいの年齢の頃には、
どうだったの?
友達と遊んでた?」
「うーん……。
余り、
外で遊ぶような……、
活発な子供では無かったかなぁ……。
一人で家に居たような……。
あれ…?いなかったのかな?友達……」
「ほら。
コトハさんだって一緒じゃないか」
「一人で家に居たって、勝手に大人にはなれるものさ」
「じゃあ。僕が、
一人で居ても心配しないでね?」
「それは、別の話かな。
僕は君の保護者だからね。
君が、健全な大人になれる様に見守る義務がある」
「それなら早く大人になりたい」
「あ。
シャオがいるじゃないか?
この間だか、
いつだったか、
クアイさんたちがウィソに来た時に、
一緒について来て、家に遊びに来ていただろう?」
「シャオは好きだけど……。
時々意地悪な事を言ってくるんだ。
それに……。
変なんだよ。
同い年なのにやたらと、
僕の事を、可愛い可愛いと言って、子供扱いしてくる」
「それはまた、別の何かの様な気がしないでも無いかな。
あの子は何だか、妙に色っぽいところがあるし。
早熟そうだから」
「それから……。すぐ泣くし……」
「イファルの、
将軍様の一人娘だからなぁ。
箱入りなんだよ。
それでも、
僕はあの子の事が好きだよ?君にも懐いているし」
「うん……。
でも、一人の方が気が楽で良いから好き。
それとコトハさんとヤンマと居るのが好き」
「ユンタは?」
「ユンタも好き」
「それを聞いたら喜ぶよ。きっと」
「ユンタは面白くて可愛いし」
「君も、とても可愛いと僕は思う」
「僕なんて、目付きも悪いし変だよ」
「僕の生まれた国では、
君の様な顔立ちの女性を、
クールビューティーなんて呼んだりするんだよ。
君はとても形の良い綺麗な眼をしている。
スイは大人になった時、
きっとものすごく美人になっているだろうね。
羨ましいな。僕は垂れ目だから憧れるね」
「別に美人にならなくたって良いよ」
「とても贅沢な事を言うんだね」
「どっちだって構わないもの」
「時に。
君は好きな男の子はいないのかい?」
「いない」
「まあ、君の性格からいってそうだろうね。
しかし、未だ君は、たったの十一歳だ。
いつかは、
思わぬ所から、
素敵な男の子が現れて、君に恋をして、
君も、その子と恋をするんだ」
「わからない」
「ふふ。
僕もヤンマと出逢うまではスイと一緒だったよ。
ちなみに僕はヤンマみたいな人は全然タイプじゃなかった」
「そうなの?でも結婚したじゃないか?」
「そういう事は。
誰にも、自分でさえ、わからないものだという事だよ」
「僕には少し難しい話だね」
「そうだろうね。
まぁ、とにかく君は、さぞかし素敵な女性になる事だろうね。
モテモテで、色々な男の子から告白を受けて、
引く手あまたになって、困っている君の姿が眼に浮かぶよ」
「そんな事にはならないよ。きっと今と変わり無いんだよ」
「ふふふ。………楽しみだ。
大人になった君を見てみたいなぁ………」
◆◆
そこで場面が、
プツンと音を立てて、
あっという間に切り替わる様に、
わたしの視界から景色と二人が消えていった。
眼を細めて笑うコトハさんの表情が、
とにかく懐かしくて、嬉しかった。
何度も、何度も、
繰り返し見た笑顔だ。
そして、
わたしは、
木造の部屋の小さなベッドに寝転んでいる、
幼いわたしを見下ろしていた。
一階から、
とても大きな声が聞こえる。
ヤンマの声だ。
ここは、
わたしの暮らしていた家だ。
わたしがそっと起き上がって、
足音を立てないように、
ゆっくりと階段を降りていっている。
台所で、
ヤンマがコトハさんに怒鳴っている。
それを子供のわたしが階段に座って、
コッソリと聞き耳を立てていた。
この時の事を、
まだわたしは憶えていたんだ。
「だから!
なんでコトハが調査隊に参加するんだって話なんだよ!?
それなら俺も行く!
旦那なんだから!」
「うーん…。君に何度も説明はしたんだけどね……。
君は全然僕の話を理解しようとしてくれないじゃないか。
それに。君まで一緒について来てどうする?
スイを置いていくのかい?
君が居てくれるからと、
安心していた僕の気持ちを返してくれ」
「置いて行けるか!!
スイも連れて行くに決まってるだろ!!
俺の娘だ!!」
「調査隊に家族で参加だなんて。
地域の催しモノとは違うんだよ?」
「そんなことはわかってらぁ!!
誰がな何と言おうと俺は行く!
スイも連れて!!」
「危険な目に遭うかも知れないじゃないか?
君はスイが危ない目に遭っても良いと言っているのかい?」
「そんなわけあるか!!俺が必ず守る!!お前もだ!!」
「君は僕より強くないのに?」
「うるせえ!!」
「あとね。
君は声が大きい。
スイに聞かせたくないんだがね」
「……わかってるよ……。
んなこたぁ。スイに聞かせるのは俺だって嫌だ……」
「よろしい」
「でもよ……。
ネイジンだなんてよ……。
遠すぎるじゃねえか……」
「国交の無い国からの、
招集の依頼なんて、
初めての事らしいね」
「それに……。
果ての大地の、
すぐ傍の国じゃねぇかよ……」
「そうだね。
聖域教会の総本山でもある」
「そんな遠い国に、
嫁さん1人を行かせる馬鹿はこの世にいねぇだろう……?」
「ヤンマ。
それなら君は、
第一人者になれるかも知れないじゃないか」
「茶化すな!
俺は絶対許さねぇからな!
今から城に行って、
国王に、お前の参加を、
取り消す様に直接言ってくる!!」
「やめなよ。
もう遅いよ?せめて明日の朝にしたらどうかな?」
「……クソッッッ!!!」
「国王も、悩み抜いた末の決断だった。
と、僕は思うけどね。
何より、そうであって欲しいかな」
「いつもこうじゃねえか!?
お前の力頼みで、
アレコレと危ねぇ橋を渡らせようとしてきやがる!!」
「今のネイジンの首相は、
聖域教徒内でも相当なタカ派らしいからね。
断れば、
穏便には済まないと思っているんだろう」
「弱腰の外交で、
いつも泥を被らされるのは俺やお前やユンタだ!!
大体お前もユンタもどうかしてるぞ!?
この国のお偉方連中が、
命懸けで戦うお前らに、
一体何をしてくれた!?」
「うーん。
別に僕は、
今の生活に不満がないからなぁ」
「こんな、都の外れに住まわされてか!?」
「どこに住んでいたって僕は僕さ。
それに君もスイもいる。
その暮らしに不満を持つのは、
少し欲が深いんじゃないかな?」
「話にならねえ!」
「それに……。
今の話はユンタには言わない事だね。
彼女は、
人間の僕を、
友人として、
助けてくれている。
その彼女の行いを侮辱する者は、
たとえ、君であろうと僕は決して許さない」
「な、なんだよ!?
脅しかよ!?」
「ユンタは僕の大切な友人だ」
「わ……、わかったよ。
言わねぇから……。
それに、侮辱なんてしてねぇよ……。
俺だって、
ユンタは大切な友達だと思ってるよ…」
「ヤンマ。
僕は、
突然この世界に迷い込んだけど、
不幸せだと思った事は、
たったの一度も無い。
それは、
君やユンタやスイが、
僕の前に現れてくれたからだ。
僕には、
崇高な思想も哲学も何も無い。
だけれど、
大切な人たちを、守りたいという気持ちだけは持ってる。
そして、
少し傲慢じゃないかと自分でも思うけど、
僕には君たちを、守れる力が有るのをわかっている」
「………でも、
俺は明日王宮に行くからな……。
一言文句を言わなきゃ治まらねえ……」
「ふふ。
君の性格はよくわかっているよ。
それから、
僕は君の事を本当に心から信頼している。
君の気が済む様にしたらいい。
そして願わくば国王の気が変わる事を、
僕も望んでいないわけじゃない」
「………………」
「スイの事をよろしく頼むよ。ヤンマ」
◆◆◆
読んでくれた皆さんありがとうございます!
今夜、
もう1話更新しますので、
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