第四十四話『内情。』
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「ところでさ」
まるで、他愛も無い会話をしているかの様に、
屈託無くスイが言った。
「ゴアグラインド達に、
わたし達の情報を与えていたのはイェンだったよね?
いつからわたし達の周りを嗅ぎ回っていたんだろうか?
君達の目的は、
本当に女神の痕跡なのかな」
「目的は勿論、
各国を出し抜いての、
女神の痕跡の回収と独占。
それから、
女神に再びこの世界に顕現してもらう事です。
痕跡が見つかればおそらく、
どの国も優秀な人材を派遣しますからね。
各国の優秀な方々のデータを、
資料に纏めるのも業務です」
イェンは一度、
そこで言葉を切った。
「スイさんと、ユンタさんは有名な魔法使いでしたからね。
そこの日本人が来る前から、
僕は、この国の首都に潜入して、
貴女達の事を調べていました。
まさか、
ここまで強いとは思っていなかったですけど」
「そんな諜報機関が潜り込んでいたとは、全然知らなかったな。
国の一大事じゃないか」
「まあ。
僕らは、破壊工作が目的ではないですし。
地域の方々とも上手くやっていけてましたよ?
それから、ウクルクで最近見つかった痕跡の件で、
この二人組が、余り物でも回収するように派遣されたので、
僕は、そのサポートをするように仰せつかったわけです」
「そして、サポートの範疇を超えて、
わたし達に戦闘を挑んだと」
「おいおーーい。
何か、調子良くね?
お前はどうか、わかんねーーけど、
少なくとも、ゴアグラインドとツァンイーは、
ウチらの事、殺しにかかってたんだけど?」
「我々がやっているのは、女神の痕跡の奪い合いですから。
障害になる人物は、積極的に排除します」
「どうも君達の組織は穏やかじゃないね。
それに、
痕跡を使った人体実験を行うなんて、
余りに非道だ」
「表には出ていないだけかも知れませんよ?」
「どの国も、そんな事をやってるって言うのかい?
冗談じゃない」
「解析の終わっていない、強力な力だと云う事です」
「やれやれ。
もし本当にそうだとしたら、
世界は女神様に嫌われてから、今日まで、
何一つ、変わってはいないと云う事だね。
余りに貪欲で、醜悪だ」
「我々が生きている世界と云うものは、
そうやって出来ているんですよ」
「不愉快な話だね。
至急、ウクルクから出ていってほしい。
そして、民間人に被害を出した君達の組織は、
それ相応の報いを受ける事になると、
伝えてくれ」
「どちらにせよ、
もうこの国からは出るつもりでしたから」
「そうでなければこんなにペラペラと喋らないか」
「そうです。
でも本当に良いんですか?
今、僕を逃がしてしまって」
「君と戦って、パーティーが全滅してしまう可能性もある。
村人の居場所は未だわからないけど、
おそらく無事な筈だ。
もし、村人に何か有れば、
交渉の材料にならないから。
流石に、そこまで頭は悪く無いと思う。
安全が確保出来ているなら、
わたし達は、国に君達の事を報告しなければならないからね」
「わかりました」
「それと、君は諜報を仕事にしている割には、
少し仕事が雑だったんじゃないかな?
わたしはともかく、
ユンタの実力を見誤るなんて」
「……そうですね。
それは僕も本当に思います。
……人手不足なんですよ。
だからこんなチンピラみたいな連中でも、
使わなくてはならないんです」
「結束の固い組織と云う訳では無いんだね」
「金で雇っただけですから。
国から、爪弾きにされて、
仕事を探している厄介者達は大勢いますから」
「ふーん」
「それから。
ロロさんの事を、
利用しようとしたのには、僕は関与してませんからね。
ゴアグラインドさんが、
彼女のスキルに目を付けて思いついたんでしょう。
ですから村人達の行方を、僕は知りません」
「それなら、やっぱりこの男を死なせる訳にいかないね。
どうだい?ゴアグラインド。
もう口が利けるくらいには回復したかな?」
「…………」
ゴアグラインドは返事をせずに、
荒い呼吸をしながら、
憎悪の感情だけが浮かんだ表情で、
スイを忌々しく思いながら、
睨み付けていた。
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