第四十二話『足掻。』
◆
イェンはスイの言っている事を、何一つとして、
理解をする、と云う事が到底出来ず、
スイの言葉を聞けば聞く程、
不可解な問答の迷宮は、更に広がり続けてばかりで、
彼をその中で彷徨い続けさせた。
「ちょ……ちょっと待ってください……!
僕には、貴女の言っている事が理解出来なくてですね……」
「わたしは君に、理解をして欲しいと言っていたかな?
大体、君は他人の事を全て理解する事なんて出来るの?」
「い……いや。そうでは無くてですね、
今、僕は貴女の言う事が把握出来ていないので、
歩み寄ろうとしている最中と云いますか……」
「その必要は無いさ」
「え……。え?」
「わたしは戦わないと言い、
君はわたしの言う事がわからないと言ってる。
ただ、それだけの事じゃない?」
「……はい?」
「だから、わたしは戦わないし、
君は、わからなくても良い」
「ど……どうしてそうなるんですか?」
「え?
だって、お互いに求めるモノが違うじゃないか?
それとも、君は違った?」
「ち……違いはしないですけど……」
「それなら良かった」
スイはフッと、優しい微笑みを、満足そうにイェンに投げ掛けた。
◆◆
「あ……あいつ……。何言ってんのか全然わかんねえ……」
その様子を見ていたリクは茫然としていた。
端から聞いていても、
スイの言っている事が全く理解出来なかった。
「にゃはは。ウチも意味わかんねーー」
「え?あいつって、あんな感じなの?いつも?」
「うーーん。
ちょっと疲れてて、お腹減ってるからかな?
スイの育ての親が、あんな感じだったけど、
血が繋がって無くても似るもんだねーー」
「コトハさんて人?」
「そうそう」
「か……変わった人だったんだな」
「ウチは好きだったけどねーー」
◆◆◆
ロロの呪歌で、ゴアグラインドの傷は治癒され、
千切れた腕の再生まではしなかったが、
痛みは治まり、ゴアグラインドは安堵していた。
「どうッスか?」
「ああ……」
「村の皆さんは、何処に居るッスか?
傷を治したんだから、教えるッス」
「…………」
「もうゴアグラインドさんの敗けッスよ! 教えてくださいッス!!」
「……イェン!
何遊んでやがんだ!!? さっさとその女を殺せ!!」
「あ! また嘘を……!」
「うるせぇ! イェン!!
モタモタしてんじゃねえぞ!!」
「ゴアグラインドさん。
彼女の魔法を見たでしょう? 消耗しているとは云え、
此方も、ただでは終わらないですよ?
彼女の強さは尋常では無いです。
それに、
貴方はもう戦えないのに、
僕にだけ戦わせるつもりですか?
彼女の言っている事は、よくわからないですけど、
これ以上戦うのは、メリットが無いのは確かですよ」
「てめえ! 裏切るのかよ!!?
仲間じゃねぇのかよ!?」
「裏切る、ねえ……」
イェンは溜め息を吐いて、
ゆっくりと、こう言った。
「僕は正直、貴方みたいなタイプが、苦手なんですよね」
イェンは、一度乱れてしまった冷静さを取り戻していた。
──この、浅はかな男のおかげで。
イェンはそう思った。
◆◆◆◆




