誰三十七話『不可視の魔法。』
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ゴアグラインドは、ロロの言葉を聞いて、
含みの有る、不気味な笑いを浮かべていた。
「おめえらが俺に勝てたら。
考えてやらねえでも無えな。勝てたらな」
ゴアグラインドがそう言うと、詠唱を始めた。
「させっかオラーーーッッッ!!!」
その瞬間、
ユンタが武器の十手を取り出して攻撃を仕掛けた。
かなりの速度だった為、
完全にゴアグラインドを捉え、
叩きのめしたと思ったが、
僅かに魔法の発動の方が早かった。
ユンタの攻撃は、完全かな武器の間合いに居る筈の、
ゴアグラインドに届かずに、
手応えの無いまま、空を切った。
「ウソ!? 外れたーーー!?」
ユンタは、自分とゴアグラインドの間に出現した、
蜃気楼の様な、魔力による揺らぎに気づいた。
「ユンタ!
気をつけて! 空間魔法だ!
何処かに飛ばされるかも知れない!」
ユンタは空振りした攻撃で、
崩れた体勢をどうにか空中で翻すと、
受け身を取って、地面に落下した。
「痛ってーーーッッッ!!!」
「ギャハハッッッ!! 当たんなかったなぁ?!」
「村人達を何処か隠してしまったのはあの魔法かな。
それとあの男、詠唱がものすごく速い。
何かしらの、魔法補助のスキルを持っている。
そして、さっきと雰囲気が違う」
ユンタは物理攻撃を諦め、
後退して距離を離すと、詠唱を始めた。
(出来たら魔力は取っておきたかったけどーー……!)
「遅ぇよ!!」
ユンタの詠唱が終わるより先に、
ゴアグラインドの魔法が再び発動した。
───『反響する悪意!!!』
───ヴゥンッッッ!!!
ゴアグラインドの放った、
衝撃波の魔法がユンタを襲った。
───ズドッッッ!!
「痛ッッッ……!!!」
巨大な拳で、全身を殴りつけられた様な、
鈍い痛みと、衝撃に依って、詠唱は中断され、
吹き飛ばされてしまいそうだったが、
脚を踏ん張って持ちこたえ、ユンタがもう一度、
中断された詠唱を始めた瞬間、
二度三度と更に衝撃波が撃ち込まれた。
───ズドッッッ!! ズドッッッ!! ズドッッッ!!!
ダメージを逃がす為に、身体を後ろへと倒したが、
ゴアグラインドの、断続的に衝撃波を放つ魔法との、
間合いは取りきれず、まともに喰らってしまい、
ユンタは血を吐くと、勢い良く倒れ込んだ。
「どうだよ亜人!!?」
「痛ッてぇーーー………。
見えねーー魔法とか、
地味な攻撃しやがって!!」
「地味で悪かったなぁ。
でも俺は自分の魔法を気に入ってんだぜ?
見えねぇから、躱す事もままならないで、
相手が悔しがってるのを、ブッ殺せるんだからなぁ?」
「気持ち悪ッッッ!! 舐めやがって、
そんなにチョロく無ーーかんな」
「口の減らねえ亜人だ。
ツァンイーとやり合って、そこそこ疲れてんだろ?
動きも悪いし、詠唱も俺の方が速い」
「一対一でやるんなら、
勝てねーーかもなー。
お前、自信有るのはわかったけど、
周りもよく見た方がいーぞ?」
「抜かせ。
てめえらが束で来ても、俺の魔法はどうせ躱せねぇ。
人数なんざ、俺にゃ問題にならねぇ」
(頭悪ーーー……。でも、この男、
最初に見た時より、魔力が上がってる。
ツァンイーと同じで、痕跡喰わされたのかも知んねーーな)
魔力だけで無く、
魔法の威力や、コントロールする力も上がっているのだろう。
脅威的だが、ゴアグラインドは熱に浮かされる様に、
その力に酔い痴れているのだ。
──隙は必ず出来る。
「あっそ。
それだけで勝てりゃ世話ないけどなーー?
見たとこ、頭も悪いから、
イェンとの連携も取れねーだろうから、
不利なのはお前の方かも知んないぞ?」
ユンタは挑発する様に、おどけた口調でそう言った。
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