第三十五話『衝突。』
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「あ。ユンタだ。
ようやく合流出来た……。ロロも一緒に居るね。
おーーーい」
「本当だ。
ユンタと一緒に居るってことは、敵じゃ無かったって事か?」
「スイーーー。リクっちーーー。
だいじょぶだったーーー?
あら?リクっち怪我してんじゃん?」
「わたしたちは大丈夫だったよ。
リクの傷はとても浅いから大丈夫。
ユンタたちも無事だったみたいだね。
ロロも。無事で良かった」
スイがニッコリと優しい表情を浮かべて、ロロに微笑んだ。
ロロは、スイの表情を見てバツの悪そうな顔をして、
何度も繰り返し頭を下げた。
「ごめんなさい!!!!
あ……あの! スイちゃん、リクくん!!
さっきは嘘ついて本当にごめんなさい!!
許してもらえるならなんでもするッス!!
自分の所為で、二人も危険な目に遭わせてしまって……!!!
殴って下さいッス!!
自分の事、気が済むまで殴って下さいッス!!」
「そんな事しないよ。
あの二人組に弱味でも握られて、脅されていたんだろう?
わたしは何も気にしてないよ」
スイは諭す様な口調で、
ロロを安心させる為に優しく声をかけた。
「スイちゃん……!!」
「それに、ユンタの事も助けてくれたんでしょう?
魔法を封じられて、苦戦した筈だから。
わたしは君に感謝しないといけない。
ありがとう。ロロ」
「あ……ありがとうッス……!!
スイちゃん……!! イケメンッス……!!」
「イケメンの定義がよくわからないけど、
誉めてくれてるのかな」
「お…俺もだよ。気にしてない!
ロロみたいな、優しい子を利用してたアイツらが悪いんだよ。
許すも何も無いよな」
「リクくんも本当にありがとうッス!!
それで……。あの……図々しいのは重々承知してるんスが……。
お二人さえ良かったら、自分も……。皆の仲間に、
パーティーに加えてもらっていいッスか!!?」
「もちろん」「当たり前だろ!」
スイとリクは、顔を見合せて声を揃えて言った。
「あ……ありがとうッス!!
本当にありがとうッス!!
お二人にも、ユンタちゃんにも本当に感謝ッス!!」
「良かったねロロ子ーーー♪」
「めっちゃ嬉しいッス!!
あ、それでリクくん怪我してるんスよね?待っててください!今、回復の呪歌を!!」
「良かった。いい加減重たくて疲れていたんだ」
◆◆
「なるほど。
ゴアグラインドが村人を何処かに隠しているのか。
少ない人数とは言え、一瞬で何処かに消してしまったのなら、
空間系の魔法か」
「まだ村人達が戻って来てないからーー。
魔法は解けてないんかね?」
「ゴアグラインドを脅して魔法を解除させないとだね」
「あとさー。
もう一人。仲間が来たんだよねーー」
「イェンとか云う男?」
「そそそ。
アイツの方が、やばかった?」
「正直、
魔力の量だけで勝負したら敗けるだろうね」
「サクッと村人助けて、
一件落着ーーーって訳にゃ、なんないかーーー」
「出来たら、そうしたいけどね。
まだ幻覚魔法も解かれてないし、
わたし達を逃がすつもりは無さそうだよ」
「ま。
魔力の量じゃ、勝負になんなくても、
戦い方は他にもあるもんね」
「そうだね。
頼りにしてるよ」
「任せろ♪」
ユンタはそう言った瞬間、後方を素早く振り返ると、
武器を取り出して構えた。
「でも……。やべーなコイツ。
全然気づかなかった」
いつの間にか、イェンがスイとユンタの背後に姿を現していたのだ。
「万象を届けし風の霊よ。親愛なる汝に命ずる。
契約の名の下に於いて、悪しきを裂く光と共に在れ」
「夜行の主よ。我が命に於いて汝を律する。
愚かなる民草を、閉ざす氷結の嘆きを与えたまえ」
スイとイェンが同時に詠唱を終えた。
───『疾風の剣舞!!』
───『氷縛の呪詛!!』
スイの放った、嵐の様な風の斬撃が放たれ、
イェンが創り出した巨大な氷の壁が、
それを弾く様にして防いだ。
壁を破壊するまではいかなかったが、
危うく、氷が切り刻まれてしまうのでは無いかと、
イェンは驚きを隠せなかった。
「貴女の事を侮らなくて良かった。
完全に不意を突いたと思いましたが」
強力な魔法同士が衝突した振動が、
衝撃波となって周囲に広がり、
砕けて飛び散る氷の破片が、雨の様に降り注いだ。
「嫌味にしてはセンスが無いね。
しかし、腹はしっかり立つ」
スイは忌々しげに言った。
不意打ちとは云え、魔法の発つ速度で、勝つ事が出来なかった事が悔しかったのだ。
───それに。まただ。
全く何の感知も出来ずに、接近を許してしまった。
油断なんてしていなかったのに。
「そんなに強い魔力を抑えて行動するのは、
さぞかし骨が折れるだろうにね」
「こうやって近づくのが、一番手っ取り早いですからね」
イェンはそう言いながら、
再び自分の周囲に氷を創り始めていた。
「それに魔力で劣る相手の、わたしに決して油断していないのも、腹立たしいね」
「僕の本領は、戦闘ですが、
その中でも、一番適性が有るのは暗殺でしてね」
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