表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/232

第三十四話『警戒と図星。』


痕跡に依って付与された魔力は、

ゴアグラインドのダメージさえも回復させ、

身体の痺れや痛みを、彼は直ぐに感じなくなっていた。


本当に小さな破片にしか見えなかったのだが、

中に込められた魔力が、膨大だと云う逸話は確かのようで、

身体中に流れ込む魔力の量は凄まじいものだった。


溢れ出てしまいそうになりながらも、

(みなぎ)っていく力に、彼は興奮し、

浮遊した様な陶酔感に心躍らせていた。


「おいおいおいおい……!!

マジか!!?

コレが、さっきのちっぽけな痕跡の恩恵かよ!!?

俺の元々の魔力なんざ比べ物にならねえ!!」


ゴアグラインドは上機嫌に、そう言って捲し立てた。


「まあ。

貴方は元々、魔力の量が少なくは無いですから。

ダークエルフですし」


(すげ)え!!!

こんなもん有るなら、さっさと出せば良かったんだ!!」


「さっきも言いましたけど、

それだけ強い力を持っている物ですから、

副作用が有る事だけは、覚悟しておいた方が良いですよ」


「副作用……。構わねえ……!! 

あの精霊使いの女だけは殺さねえと、俺の気が済まねえ……!!」


「それと、

召喚術師に痕跡をひとつ奪われています。

殺しても構いませんが、確実に取り返してください」


「ツァンイーは敗けたんだな?」


「敗けました。彼女の場合、

魔族とは云え、元々が大した事無かったですから。

それでも善戦はしていましたけど」


「チッッ!!」


「それと、召喚術師と一緒に居る、

グラスランナーのスキルも厄介です」


「ロロか。あの役立たず……。裏切りやがったのか」


「元々、

嫌がっていたのを強引に従わせていたんだから、

仕方が無いでしょう」


「構わねえ。

あんなゴミ共が居なくても、もう敗ける気がしねぇ。

連中は何処に居るんだ?」


「心配しなくても、直ぐに逢えますよ」


──この男は弱くは無いが、

単純で、その上、頭が本当に悪い。

連中を侮らない方が良い。


イェンは辺りに漂う精霊の気配を、

手繰(たぐ)る様に数えながらそう考えていた。


いつ魔法封じが解けたのか知らないが、

自分と対峙している最中で無くて良かった。


あの精霊使いには、決して警戒を怠るべきでは無い。


◆◆


「イェンが、ゴアグラインドにまた接触をした様だね」


スイは精霊に依る魔力感知で、

イェンの正確な居場所を知る事が出来た。


「え……?アイツ逃げたんじゃねーの?

大丈夫なの?」


「そんな簡単な話じゃないよ。

ゴアグラインドよりも、

余程(よっぽど)イェンの方が実力が高い。

どういう訳か、積極的に戦闘に参加はしてこないけど、

まともにやり合っていたら、わたし達は敗けていたよ」


「で……でも、お前も魔力が戻って魔法使えるんだろ?

今なら敗けないだろ?」


「どうだろうね?

イェンは魔力の量が桁外れに多い。

幻覚を見せる魔法を発動しながら、幾つも他の魔法も操っているからね」


「幻覚?」


「え?

気づかない? どう考えても森の広さが変だと思わない?

もうさっきの場所から随分歩いたのに、まだユンタ達と合流出来てないんだよ?」


スイは少し呆れている様子だった。


「君は魔法に対する認識が少し甘いな。

気づいて知る事は、魔法にとっては重要な事だよ。

知らないと魔法に対する耐性も格段に低くなる。

それだから、君は魔力の感知も下手だ」


「ステータスが低くて、悪かったな」


「ステータスは確かに低かったけど、

悲観的に物事を捉えていては駄目だよ。

この世界の不思議な力と云う物の根源は、

創造をする事を想像(イメージ)する事だと、

わたしは思ってる。

ネガティヴな思考は、それだけで想像の妨げになるものだからね」


「善処します……」


「君は想像力の豊かなニホン人だろう?」


スイはそこまで言うと、一息つくようにして、

ゆっくりと息を吐いた。


「それにね。

傷口の手当てをしてあげたんだから、一人で歩いてくれないかな?

重たくていい加減疲れてしまったんだけど」


「しょ……しょうがないだろ!!

まだ痛むんだよ!!

それに歩いても遅いし、どっちにしろお前に迷惑かかるし」


「やれやれ」


スイは諦めてリクの肩を担ぎ直すと、再び歩き始めた。

体力に自信が無いと言っていた通り、額には汗が浮かび、

呼吸も荒くなっていた。


「わたしも、回復魔法を真剣に習得するべきだね。

わたしの魔法じゃ、傷口は塞げても、痛みまでは取り除いてあげられないから」


「なんで回復魔法は習得しなかったんだ?」


得手不得手(えてふえて)があるからね。

癒して復元したり、異常を回復したりと云う事が、

わたしはどうも苦手なんだ」


「それはお前に他人を思いやるって云う、

想像力が無いって事か?」


「痛いところを突くね」


スイはそう言うと、遠慮無しにリクの足の爪先を、

勢い良く踏みつけた。


「痛ッッッてぇぇぇぇ!!!」


(わめ)くな。

肩まで貸して歩かせてあげてるのに、

君が恩知らずな事を言うからだ」


「け……怪我人に何て事すんだよ!!?」


「黙れ。

騒いでると、治るものも治らなくなるよ?」


──未だ、戦闘は終わっていないから。


スイはそう言いかけて止めておいた。

とにかく、ユンタとの合流を急がないといけない。


魔力は戻ったが、それだけで易々と勝てる相手では無いのだ。


◆◆◆

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ