第三十話『イェン。』
さっきのの(29話)続きです!!
読んでくださった方ありがとうございます!!
◆
「イェン!! 来てたのかよ…!!
おい!!
お前が、俺らに教えた話と違うじゃねーか?!!
もう一人、仲間がいるって言ってたぞ!!?
魔法を封じたら勝てるんじゃねーのかよ?!!」
ゴアグラインドは、
イェンと呼んだ仮面の男にそう詰め寄った。
鴉のように見えるペストマスクの、
目が有るであろうゴーグルの部分は、真っ黒でリク達からは何も見えなかった。
「もう一人の仲間……。
僕の調査不足ですね。すみません。
魔法を封じるのには失敗したんですか?」
イェンは柔らかく聞こえる言葉遣いだったが、
不気味な程に抑揚が無く、淡々とした口調そう聞いた。
「魔法封じは効いてる!!
だけど他のスキルがあるって言ってんだよ!!
てめぇ俺を嵌めやがったのか!!?」
「他のスキル。
ちなみにそれはどんなスキルか確認しましたか?」
怒鳴り散らすゴアグラインドとは対象的に、
イェンは落ち着き払った様子で状況の整理をしようとしていた。
「してねーよ!!!
魔力を消費しねースキルだったらこっちがヤベーかもだろうが!!?」
「それは僕に言われても……。
そこの彼女は精霊に好かれ過ぎている為、
他の系統の魔法がなかなか習得し辛い、
精霊魔法のスキル単一に特化したタイプだった筈なんですけどね」
「男のガキの方は?!!」
「そこまでは把握してませんでしたね。ごめんなさい」
「ほらな!!
だからツァンイーと合流すんだよ!!
こいつらの仲間が来たらヤベぇ!!」
「ちょっと待ってください。だから落ち着いてください」
◆◆
「な……なんなんだよ……。
あの厨二心をくすぐるデザインのマスクは……!
しかも、あいつ何処から出てきた!?」
スイは顎に手をやりながら答えた。
「ふむ。確かに自己主張がとても強いね。
そして、転移魔法にしては妙だった。
まるで最初からそこにいたみたいに現れた。
転移魔法って、もう少し派手なものだと認識していたけど」
スイは少し間を置いてつけくわえた。
「何にせよ、厄介な相手のようだね」
イェンは荒ぶるゴアグラインドを手で制して、
ゆっくりと静かに言った。
「ゴアグラインドさん。
スキル云々のくだりは、確証は無いですが、
限りなく彼女のブラフだと思います。
しかし、
彼女が心理戦が得意なことを把握していなかったのは、
僕の調査不足ですね。すみません」
「嘘って事か?!!
でもよ……どうもお前の話は、もう信憑性がねぇ。
それも間違いでしたじゃ済まねぇぞ!!?」
「えー。僕の話よりも、
彼女の話を信じてしまうのが不可解なんですが……」
◆◆◆
「な……なんかアイツら仲間割れしてないか?」
「もめてるね」
イェンが溜め息をついて、
なかなか喰い下がらないゴアグラインドに答えた。
「わかりました。
それではスキル云々の話、僕が確かめましょう」
そして、魔力の感知に鈍いリクでさえ、
ゾワッとした悪寒を感じるほどに、
イェンが強い魔力を練り始めたのがわかった。
「危ないね。受け身をちゃんと取れるように構えておいた方がいいよ」
「お前もな!!」
二人が身構えて、イェンが詠唱を始めた。
「契約の名の元に命ずる。魔性の民よ。いかがわしき王よ。慈悲無き悪鬼の夜行よ。我らが盟約たる混沌の御名を以て、彼の者達を救済無き牢獄へと送りたまえ」
───『骨を裂く氷嵐』
────パキパキパキパキッッッ!!!
辺りの気温が急激に下がり、
足元が凍り始めたイェンの周囲に、
剣のように鋭い氷塊が無数に形成されていた。
氷塊の切っ先はリクの方を向いていて、
標的をリクに定めているようだった。
「お…俺を狙ってんのか?!!
絶対やべーじゃん?!!」
「リク!」
スイがリクの腕を掴んで逃げようとした瞬間、
魔法で創られた氷塊が、機関銃の弾丸の様に撃ち込まれた。
───ドゥンドンドンドンッッッ!!!
「痛ッ……てぇッッッ!!!」
氷塊はリクの身体をかすめるだけで、
殆どが外れたが、
ナイフほどの大きさの氷がひとつだけ、
リクの右脚を軽くえぐった。
傷の浅さに比べて思いの外勢い良く赤い血が吹き出し、リクはスイに腕を引っ張られる体勢で、
そのままスイに覆い被さるように前に転げてしまった。
「……スキルは発動しませんでしたね?
どうやら彼女のブラフで間違い無いようでした。
ゴアグラインドさん。どうしますか?」
イェンが淡々とそう告げた。
「………あの女………!!
俺のこと騙しやがったな……!!?
殺す……!!
ぶち殺してやる!!!!」
ゴアグラインドが怒り狂い、魔力を練り始めたのを確認し、
イェンは深く溜め息をついた。
(もう一人の女といい、
どうしてこんなにも頭の悪い連中を割り当てられたんだ)
「あ痛たたた……。リク?大丈夫かい?」
「あ…ああ……。でも足が……」
リクが顔をしかめて答えた。
「食らってしまったね。
しかし、本当に当てる気は無さそうだったね。
そして。動けたら悪いけど退いてくれるかな?……重い」
「い…痛ッッッ!!
おまッッッ……怪我人だぞ!!?」
「頭を打ち抜かれていてもおかしくなかったんだよ?
足だけで済んだなら儲けものじゃないか。いいから早く退いて」
「鬼!悪魔!!あ痛てててッッッ!!」
◆◆◆◆