第二十四話『いけ好かない。』
今日投稿分の2話目になります!!
読んでくださった方ありがとうございます!!!
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「それはフェアじゃないですね」
音もなく気配もなく。
先ほどまではいなかった筈の、
ペストマスクのような仮面で顔を覆った、
白づくめの服を着た人物がツァンイーの隣に立っていた。
その人物の口調は柔らかだったが、
ひどく抑揚の無い無機質な冷たい声で話した。
「ツァンイーさんが勝負を放棄してしまったら、
あちらの方の腹の虫が治まりませんよ?
それでは納得出来ないでしょうね」
「イ、イェン……!
た、助けにきてくれたのか!?
やった…!これでツァンイーの勝ちだ!!
お前ら全員死ね!!とツァンイーは思う!!」
「あ、違いますよ?
最後まで話聞いてもらっていいですか?
僕は戦いません。ツァンイーさんが戦うんです」
「は!?無理!もう魔力が無い!!
だからツァンイーは戦えない!!とツァンイーは思う!!」
「だから魔力を与えてあげましょう。
そうしたらもう一度戦えますね?」
「魔力をくれるのか!?
く、くれ!!そしたら戦える!!とツァンイーは思う!!」
「よかった。これを使ってください」
イェンがローブの懐から赤い液体の入った瓶を取り出して、ツァンイーに渡した。
「ハイポーション!!
これで魔力が戻る!!とツァンイーは思う!!」
「あ!なんかズルいッス!!
ツァンイーさんの魔力が回復しちゃうッス!!」
「つーか、誰だおめーー?そいつらの仲間かーーー?」
「広義的な意味合いで云えば、仲間ですよ。
僕は具現派魔術師のイェンです。
以後お見知りおきを」
イェンはそう言ってユンタに答えた。
「キモ。
なんなんだよ?その具現派魔術師っつーのは?」
「僕たちが所属している組織の名前ですね。
国に所属していない魔法使い達で形成されていて、
各国と同じ様に女神の痕跡を手に入れる為に協力して活動しています。
それから、女神を再びこの世界に顕現させる事を目標としています」
「チラホラいる女神信仰のカルト教団ーーー?」
「まあ、どのように感じてもらっても構いませんよ。
ただ、宗教ではないので信仰はしていませんし、
我々はもう少し実務的な活動を心がけていますから、
貴女の想像とは少し違うかもしれませんが」
「あっそ。
とにかく痕跡関連のことで、
一方的にウチらに攻撃しかけてきたって事は、
敵に変わりはねーーーもんな」
「ええ、ええ、ええ、ええ。
なんだかキナ臭くなってますなぁ。ええ。」
「古代魔獣ナードグリズリー。
始祖の魔物たちに次いで産まれた、
『災厄』と呼ばれた魔獣のひとつですね。
文献や伝承にだけ残る存在かと思っていましたが、
まさか、まだ生きているとは」
「ええ。ええ、ええ。
いつの間にか勝手に死んだ事にされてたんですな」
「貴方が産まれた時代は我々にとって遥か遠い昔の事ですから」
「なるほどなるほど。
しかし、あたしの事を知っていて、
姿を見ても驚かないなんてのも少し複雑な気分ですがね。
ええ、ええ」
「驚いていますよ。
それに、貴方の強さに震え上がる程に恐怖を感じています。
あまり感情が表に出づらいので伝わらないかも知れません」
「うわーーー。ウチ、こいつ苦手だわーーー」
「そして、貴女にも畏敬の念を抱いてます」
「あっそ。
じゃー魔女っ娘ブッ飛ばした後に、
オメーの事もブッ飛ばしてあげるね♪」
「さすがに僕も古代魔獣相手に勝てるとは思えないですね。
この強大な魔獣を使役するとは恐れ入りますね。
召喚するだけで相当な魔力を消費するでしょう?」
「使役とか言ーな。
そんなだっせーーーやつじゃねんだよ。
友達だよ友達ーーー」
「ええ、ええ、ええ。
いわゆるひとつのマブダチ。はいはいはい。
なるほどなるほど」
「……確かに少し僕が抱いていたイメージとは違います。
二体同時に召喚。
ナードグリズリーに、一方は上位魔獣のラクーンロード。
ツァンイーさん、勝算はありますか?」
ハイポーションをとっくに飲み終えたツァンイーは既に魔力を練り始めていた。
「魔力戻った!!今度は遊ばずに最初から殺しにかかる!!とツァンイーは思う!!」
「良かった。仕切り直して頑張ってください」
「痛み悶える死霊たちよ。背徳の獣どもよ。汝らの渇きよ慟哭よ。愚かなる者どもに死に近しい嘆きと痛みを与えたまえ!!」
「おーい!でっけーーーのが来るぞーー!!
チャガマ!ロロ子のこと頼んだからなーーー!!」
「任せろ。ロロ。しっかり僕につかまってて」
「は……はいッス!!」
辺りの空気が一変し、
ツァンイーを中心に魔力の渦がぐるぐると廻り始めた。
そして詠唱を終えると同時に重なり合ったおぞましい絶叫の様な音と共に、凄まじい炎の壁が魔法となって放たれた。
───『冥府の炎獄!!!』
「ええ、ええ、ええ、ええ。
こいつぁえらく懐かしい魔法ですな。
ええ、ええ、ええ、ええ、ええ」
───ヴヴヴォォォォオォォォォォーーーッッッ!!!!
炎の壁は大勢の亡者が積み重なっている様に
禍々しくうねりながらユンタたちに襲いかかり、
避ける暇も無く全員が炎に飲み込まれていった。
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