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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『⑫。胸の大きい友達。』



むにゅっ、だか、ぷにゅっ、だか、

とにかくそういう表現しか出来ない柔らかくて大きなものがわたしの顔に当たった。

朦朧とした意識の中でも、その柔らかいものが何なのかはすぐに判ったし、それに、

その大きさときたら。本当に驚いた。

溜め息のひとつでも吐きたくなってしまうほどに。


「スイ!! 眼を覚ましてください!!」


シャオの声だ。

ということは、わたしが顔を埋める形になっている、

この大きくて柔らかいものは間違いなくシャオの胸。


ほーらね。


わたしが精根尽き果てて、前のめりに倒れそうになったところをシャオが受け止めてくれたんだろうな。


受け止める、にしては、やや力強過ぎる気もするけど。


息をする度に、瑞々しくて張りのあるシャオの胸が、

わたしの鼻や口に吸い付いてくるように連動するものだから、とにかく苦しいったらなかった。


それにしても大きい。

西瓜か何かと変わらないじゃないか。


「……モガ。モガモガ……」


知ってるかな? 大きな胸にしっかりと顔を埋めると、

本当にきちんとした発声が出来なくなるんだ。

わたしは間抜けなモガモガ語を発するのが情けなくなって、すぐに声を出すことを諦めた。


シャオの胸元につけられた香油だか何だかの香りが、

嫌でもわたしの鼻をくすぐる。

勿論、嫌な匂いじゃないんだけどさ。

いや、むしろ、良い香り。

爽やかな果実みたいだけど、少し甘さもあって、

官能的って言葉がしっくりくる。


男性諸君からすれば、絶世の美女であるシャオから、

こんなにも芳しい香りが漂ってくる事を知れば、

シャオの立ち振舞いや、小さな所作のひとつひとつから、きっと蠱惑的な魅力を感じてしまうのだろうね。


でも、わたしは女だから。

そりゃ、おっきくて羨ましいなくらいは思うけど、

胸に顔が埋まってたからって興奮なんてしない。


多分。


───ペチペチペチ……。


離して、という意思表示のつもりで、

わたしはシャオの二の腕あたりを軽く叩いた。


先刻までは腕も上がらない程に消耗していたのに、

気を失っている間に少しは回復したみたい。


わたしは一体どれくらいの間、

気を失っていたんだろう?


「スイ!? 眼を覚ましたんですね!?

私の声が聴こえますか!?」


────聴こえてるよ。ペチペチペチ……。


「ぷは……。窒息するかと思った……」


ようやくシャオが解放してくれて、

わたしは彼女の胸から顔を上げれた。


「良かった……」


シャオがわたしの顔を見るやいなや、

ポロポロと涙を流して呟いた。


すぐ泣く。


「少し眠っただけだよ。君の馬鹿でかい胸を押し当てられてる方がよっぽど辛かった」


憎まれ口。


「な……!? 私はスイの事を心配して……!!」

 

「はいはい。分かってる。ありがとうシャオ。

ところで、ボク(スイ)はどのくらい寝てた?

リロクとシージは?」


「おっほ……」


「変な声出さないで」


「失礼しました……。それが……」


シャオはわたしから目線を外し、

促す様に顔の向きを変えた。


「リロクは一体どうなってしまったんでしょうか?」


シャオが疑問を口にする。


「……どうなったんだろうね」


リロクの姿はそこには無かったんだけど、

まるで白い息を吐く大きな怪物みたいに見える、

巨大な氷の塊が代わりにあった。


その氷のおかげで、辺りには霜が降り、

冷気に閉ざされ、身体の底から震えてしまうような悪寒のする空間が出来上がってしまっていた。


わたしの死の言葉から身を守る為に、

自分を氷漬けにして時間を巻き戻したんだ。


だけど、なかなかにわたしの魔法も強烈だったんだろう、

だから、こんなに大きな氷じゃないと、

時間を巻き戻す事が出来なかったんじゃないかな。


氷の質量と魔法の効力に関連性があるのかは知らないけど。


「もしかしてリロクは凄く無防備なのでは?」


シャオがポキポキと指を鳴らしながら言った。


「氷を砕いてもリロクには物理攻撃が効かないからなぁ。疲れるだけだし止めといた方が良いんじゃないかな」


わたしは自分の魔力の残量を確かめてみたけど、

身体は少し楽だけど回復もしてなくて、

殆んど残ってないのは相変わらずだった。


「ねえ、ロロは?」


わたしは少しざわざわとしながらシャオに訊く。


「今、父様(クアイ)が回復魔法を。

心配はいらないそうです」


わたしの不安を察して、

シャオが安心させるようにそう言ってくれた。


「それよりも……」


シャオが表情を一転させて、

わたしに何かを告げようとする。


「ラオ様とイツカさんが喧嘩になってしまって……。

王宮の外へ飛び出てしまったんです」


アメビックスの事で揉めてたからなぁ。

殺し合いになる事なんて無いだろうけど、

今は二人を止めに行くような時間も体力も無い。


シージも、今のところはシャオに滅多打ちにされて、

おとなしくなってるんだろう。

ダメージが少ないにしてもすぐには回復しないはずだ。


今、わたしに出来る事は。


リロクが時間を巻き戻しても、

全回復まではいかない、はず。


リロクに効く魔法はわかってるんだ。


残ってる魔力で撃てるだけ撃つ。


思考が凝り固まってきてると感じていた。

だけど、それを解きほぐすには、

少しわたしは疲れ過ぎていたのかもしれない。


こういうのって、

あとになって冷静になれば、

最善策がいくらでも浮かんでくる。


後悔や反省なんて、

吐いて棄てる程に溜まってる。


◆◆




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