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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『⑪。』



シャオの攻撃(カゲロウ)は見事にシージの防御魔法の術式に異常を起こさせてダメージを与えたけど、

決して魔法そのものを破壊したわけじゃない。


だけど、それは魔力と魔力がぶつかった時みたいな、

確かに空間を揺さぶる様な衝撃だった。


本当のところはシャオの身体に流れるエルフの血の恩恵が有るのかも知れない。

魔力の高いエルフの血をひいていて、潜在的な部分で魔力を帯びていない方が不自然なのかもね。

でも、本当のところなんて誰にもわからない。


彼女は天性のセンスと努力の賜物で、

それを自分の意思で撃つ。

魔法使いに勝てる武術使いなんて、

もう立派な天恵者(チート)だろうとわたしは思う。


シャオの拳はシージの胸当たりを真っ直ぐに貫いた。


「カッッッ……!?」


眼を見開いて苦しそうな声を上げて、

シージの身体は紙切れみたいに吹っ飛んで、

白く塗られた王宮の壁が抉れる程に激しく叩きつけられると、(はりつけ)になったみたいなシージの身体から勢いよく血が吹き出ていた。


その後が凄まじかった。


シャオは吹き飛ばしたシージとの距離をあっという間に詰めて、防御魔法の解除されたシージを滅多打ちに殴りつけた。


一発一発が大砲みたいな音の一撃で、

皮や肉が千切れて骨が砕けていく。本当に痛そう。


でもシャオは決して攻撃の手を緩めず、

容赦もしなかった。

戦闘の時には獣みたいになる彼女だから一見バーサーカーの様にも見えるけど、

この時には多分冷静だったからの筈。多分。


──おそらくシージはこのくらいじゃ死なない。


そう考えての猛攻撃だったんだろう。

少しでもシージの力を削る為に。


端から見れば既にシージは動かなくなっていそうだったけど、血塗れの顔で何事も無かったように平然としている彼女の姿も容易に想像出来た。 


名前の思い出せない有名な不吉な絵みたいに。


防御魔法を解かれて、あれだけ殴られたならダメージが無いなんて事は無いんだろうけど、

物理的攻撃でシージに致命傷を与えられるイメージがどうしても浮かばなかった。


イメージの出来ない事象は結果に繋がらないものだよ。


わたしは急いで上着のポケットを探り、

そこにある簡易発動魔法(コモンルーン)の魔法石を取り出す。

魔力と血を失い過ぎた指先は冷たく、

硬直したみたいになってて上手く動かせない。


焦ってる。

わたしもシャオも。


()()()()()()()()()()()()()()()


何十発目かのシャオの攻撃が、

もう残ってないんじゃないかって思えるシージの頭蓋骨を砕く音が聞こえた。


ぐちゃっ、だか、ごきゃっ、だか。

普段、耳にする事なんて絶対ない気味の悪い音だったなぁ。


(もう死んでるよ普通なら)


わたしはヨチヨチとした動きでコモンルーンをようやく取り出したんだけど手が震えちゃってしかたなかった。


ロロは未だ呪歌をわたしに向けて唄ってくれている。


だけど、わたしの魔力も体力も、

回復する兆しは全く無かった。


わたしに残った、ほんのちょっとの生命力みたいなものは身体や自我の崩壊を食い止めるだけで精一杯みたいだった。


まあ、この時にも何故だかわたしは死なないって謎の自信があったんだけど。


わたしが焦ってたのは、

このままじゃ、わたし以外の誰かが死んじゃうって事についてだった。


◆◆


魔法石を取り出したのは良いものの、

投げるには消耗し過ぎていた。


腕がどうしたって上がらない。


「ロロ……! 悪いんだけど、魔力は回復させなくて良いから、体力だけ集中して回復する呪歌は無いかな……?」


わたしは血を口から吐き出しながらロロに伝えたんだけど、このあたりから舌の違和感が不調の確信に変わって、普通に喋るのにも苦労して、とにかく重たく感じた。


「了解ッス!!」


ロロが呪歌の音階(キー)を上げて、

腹の底から絞り出すような大きな声で歌を唄う。


「♪竪琴弾きが報せる 路傍にて 蒼穹を仰ぐ

(つわもの)の 御霊を導く 標の鬨よ!」


ロロの声が二重に聴こえる。

わたしを回復させようと必死なんだ。


それに報いようと、わたしは彼女の歌に耳を澄ます。


だけど彼女の歌が終わる事は無く、

無慈悲な氷撃魔法が通り雨の様に激しくロロを襲った。


───『氷弾の扇(ヘレシー)!!』


「……ッッッ!!」


ロロは悲鳴ひとつも上げずに、リロクの魔法に打たれ、

彼女の小さな身体は氷の中へと消えていってしまった。


「……ロロ!!」


声が掠れて、思ったより大きな声も出ない。


ロロが悲鳴を上げなかったのは、

呪歌の(リリック)を他の言葉で中断してしまうと、

効力が発動しないからだ。


わたしは折れそうな程に歯を食いしばって、

リロクを睨みつけて、違和感のある重たい舌に勢いよく噛みつくと、リロクに向けて言葉を放った。


(まだ撃てるだろう?ボク(スイ)の身体だ。好きに使わせてよ)


───『……命ずる、死ね(ミンリィエ スィ)!!』


千切れたんじゃないかってくらい痛む舌は上手く廻らず、信じられないくらいにカサカサに乾いた喉から出た声は消え入りそうに細かった。


威力もさっきとは比にならないくらいに低い。


だけど、わたしは想像(イメージ)を絶やさなかった。


意識だけの実体の無い存在だろうが何だろうが、

わたしの魔法が効いたんだ。

だから殺せる。

リロク(こいつ)は倒せる相手だ。

殺せる相手なんだ。敗けるか、敗けてたまるか。

死ね死ね死ね死ね死ね死ね……。


わたしの情緒。ちょっと怖いね。


◆◆


「『ガァァァアォッッッ!! ……スイ!!

止めろ!! 魔法を止めろ!! どうせ今のお前の魔力じゃ(リロク)を殺せやしない!!』」


負け惜しみを。ぼろ切れみたいになってる癖に。


といっても、わたしも憎まれ口を叩く元気も無かったんだけど。


(マオライ……。もう一発。もう一発だけで良いから撃てないかな……?)


「『……』」


何か声はするんだけど、はっきり聞き取れない。

マオライとの接続が切れたなんて事は無いんだろうけど、って思いながら、わたしは何となく耳を指で触ったんだけど、案の定、ヌルッとした感触がして、

耳からも血が出ている事にようやく気づいた。


(ありゃりゃ……)


そりゃ聴こえづらいよ。


「……よっこいしょっと……」


わたしは声を出して、震えながら背筋を伸ばす。


我ながら無茶だとは思うけど、自分が死なないって自信はマオライの言葉を信頼しているからだった。

マオライはわたしを護る為に制御するって言った。


言葉の精霊の、言葉の重みの深みなんて、

説明する必要があるかな?


「『───命ずる!! 死ね!!(ミンリィエ スィ)』」


他の言葉の選択肢は勿論あったんだけど、

選ぶ余裕も時間もないかなって思った。

自棄になったんじゃないけど、

さっきよりも大きな声が出て少し嬉しかった。


喉が裂ける様な痛みがして、

マオライが何か言っているのが聴こえる。


わたしは再びその言葉を口にして、

そこで、少しだけ意識が途切れた。


◆◆◆




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