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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『⑨。言っておくけど。』



シャオの動きを魔法で封じたのは、

勿論、リロクの寄生を牽制する為じゃないよ。


───『起きて、シャオ(シンラァイ)


わたしの言葉に反応して、虚ろな顔をしていたシャオの瞳に光が宿る。


「……スイ?」


寝起きみたいな声でわたしの名前を呼んだあと、

すぐさま彼女の表情に剣みたいな鋭さが帯びる。


「スイ!!!!」


わたしの姿(血塗れの)を見て、

シャオは予想通りの反応をする。


「魔法の対価を払っただけだから。心配しなくていいよ」


「んなッッッ!? し……、心配しないわけないでしょうが!? リロクですか!? リロクの所為なんですね!? ……許さない。許さない許さない許さない!!

一体リロクのクソ野郎はどこにいるんですか!?

二度とスイの居る此の世界に存在をする事を禁じます!! このイファルの白銀がその全てをブチ砕いてさしあげます!!」


「こら。言葉が強いよシャオ」


「出てこいコラァァァァァ!!」


「聞いて」


シャオの動きを封じたのは、

そうすればリロクの寄生を防げたって、わたしが勘違いしてるように彼に思わせる為。

そうしたら彼は殊更にシャオを狙う事に固執するんじゃないかなって思ったんだ。

わたしを出し抜きたい気持ちが強そうだから。


それに彼の魔法の軌道を読む為もあった。

言い方は悪いけど、シャオにマーキングさせてもらって

、イメージ的には一直線に彼女に向かってってくれら、

わたしの魔法が当たりやすいでしょ?


自分で考えて行動しておいてなんだけど、

まったくひどい女だよ。シャオは友達なのにね。


でも、だからこそリロクに意識を乗っ取られる姿は絶対に見たくなかった。


「それに」


わたしはシャオの注意を惹くように指を鳴らして、

彼女にリロクの居場所を指で示して教えてあげた。


「リロクはあそこに居るよ」


わたしの言葉を聞くや否や、

微かな残像だけ残してシャオの姿は消え、

次の瞬間には、

相変わらず何がなんだかよくわからない姿をしたリロク

に彼女の拳が叩き込まれた。


───「鋼の戰風(ハルトヴァルキリア)!!」


シャオの攻撃は迅いか重いかの両極に分かれがちなんだけど、これは重い方。

尤も、身体強化のスキルを発動したシャオの移動速度に

ついていける人なんて殆んどいない。

迅くて重たい一撃。


ただでさえ高い身体能力が、怒りに身を任せてるとは云え更に加速度を増し、常軌を逸脱した速度になってる。

その分、精確さには欠けていただろうけど、

あんな迅さで殴られたら元も子もない。


───でも、それはリロクが普通の人間だったらの話。


あくまでも、リロクの今の姿は、

わたしの脳内で描かれたものを強制的に写し出したもので、元々実体の無い存在の彼に、

実体を与えるまではいかなかったみたいだった。


リロクの姿が見えているのは、

感覚でいうと殆んど錯覚に近い。


そこに在るように見えているだけ。

彼の本質は変わってない。つまり物理攻撃は効かない。


これはわたしの実力不足にも要因があるけど、

初めて使った魔法なんだ、改良の余地は充分にある。


それに、初めてにしては良くできた。


シャオの拳は空を斬るわけでもなく、

リロクの身体に当たりはしたが、

第三者が見ても判るくらいに、手応えと呼べるものは無さそうだった。


だけど、シャオはそんな事はお構い無しに、その砲撃の様な威力のありそうな攻撃を次から次にリロクに撃ち込んでいた。


「シャオ!」


接近し過ぎだ。リロクの寄生魔法を封じ込めたわけじゃないのだから。


───『打ち風(エルワインド)!!』


わたしはシャオとリロクの間を分断する様に、

激しめの精霊魔法を撃ち込んだ。

その風圧で胸は大きいけど体重の軽いシャオは僅かに仰け反り、その隙にわたしはシャオの腕を牽いて、

彼女を自分の方に抱き寄せた。


その拍子にシャオの髪にわたしの血がついて、

絹みたいな質感の、彼女の綺麗な銀色の髪を汚してしまったんだけど、何だか凄く背徳感を覚えた。


わたしは変態じゃない。

そうやって自分に言い聞かせた。


「シャオ。大丈夫?取り憑かれてない?」


「は……、はい」


さっきまでの猛獣みたいな様子とは違って、随分としおらしくシャオが答える。


それから、わたしの顔にそっと手が触れる。

指長いな。


「くすぐったいんだけど」 


わたしはシャオの顔を見ずに言った。

未だ、だばだばと溢れ出る鼻血が恥ずかしい。


「スイは私の王子様」


うっとりした顔。

囁くようにシャオが言う。


「はいはい」


「私の事をいつも助けてくれます。愛です」


そりゃ助けるよ。友達なんだから。



◆◆


「つーーかさ! そいつ(リロク)、魔法なんだったら、

ウチのフーちゃん(魔法を喰う魔獣)で喰っちゃえば良くね!?」


ユンタが良く通る声で雄叫んだ。


「そりゃそうだけどさ。リロクの氷に吸われちゃって、ユンタももう魔力が殆んど残ってないでしょ?

ボク(スイ)に任せてくれても良いんだよ?」


「……ボク!! あわわわ……! えらいこっちゃ……!

スイの王子様モード来たわ……!!」


「別に王子様なんかじゃないよ。()()()っていうのが、取り繕ってるみたいで、もうなんかどうでもよくなっただけだよ。昔はボクって言ってただろ?」


「はわわわわ……!! やめてください!!

イケメン出すのやめてください!!」


「出してないんだって」


やれやれ。この娘(シャオ)、カミングアウトしてから性格少し変わったな。


「横槍を入れるなよ、獣巫女(クラウドナイン)


───邪悪。


シージの声に含まれたドス黒い悪意はユンタに剥き出しの敵意を見せる。だけど獣の威嚇とは違う、

人間特有の厭らしく刺々しい純粋悪。

それは文字通り蛇蝎の如く、

ゆっくりと薄暗い影の範囲を拡げる様にして、

ユンタの傍へと忍び寄っていく。


「ユンタ! シージに気をつけてくれ!

模写の魔法で召喚術をコピーされたら厄介だ!」


シージが傍観を辞めて、

仲間達に攻撃を仕掛ける事は何となく無いように思えるんだけど、それがわたしの思い違いだった場合は非常にまずい。人間は心変わりするだろうし。

それは彼女が彼女の云う通り普通の人間だったらの話だけど。


そんな事を考えてるうちに、

わたしに抱きかかえられていた筈のシャオの姿が、

熱のこもった温もりを残して、一瞬のあいだに忽然と消え去り、その次の瞬間には彼女の猛禽類の様な咆哮が響き渡った。


───『穿ちの戰風(リヒトワルキューレ)!!』


シャオの銀色の髪が煌めいた残像を残す、

通り名である“白銀(しろがね)”の由来、

スキル付与された超光速の打撃攻撃だ。


シャオは天賦の身体能力の高さに加えて、

自分を極限まで鍛えあげる事で産まれた、

多大なスキルの強化ポイントで自分の長所を伸ばし続けた。


格闘術は勿論、武器の扱いに関して、

大陸中を捜しても、シャオとおなじくらいに武芸全般に

通じてる人物は存在しないと思う。


というより、

武術に特化した、全振りに近いパラメータを構築しようとは誰も考えない。


ある種のタブーと呼べる事柄だけど、

この世界では魔法至上主義に近い思想が確かに存在する。


剣は魔法には勝てない。


だから、魔力を持たない、或いは魔力を巧く扱えない人が冷遇されるケースも少なくはない。


全部は知らないけど、幼い頃にシャオも嫌な思いをした事があっただろう。


身体能力が高いと云っても、

エルフは魔法の扱いに長けた種族だ。

体力や筋力なんかはどうしたって人間には劣る、


身体能力の高い魔法の使えないクォーターエルフ。


殆んど呪いだ。


だけど、彼女は呪いを枷とせずに糧へと昇華させた。

冗談みたいな言い回しだけど、事実だから。


◆◆◆


「スイ!! 貴女はリロクに集中してください!!

シージの相手は私が受け持ちます!!」


その言葉と共にシャオの一撃が、

シージの顔面へ容赦なく叩き込まれる。


「リロクには通じなくても、実体の在る貴女(シージ)になら私の攻撃は届くでしょう!!」


───ガキィィィィッ!! 


シャオの手甲の金属音に顔をしかめる。

苦手な音。


「はははッ!! 一芸に特化した単調な攻撃だな?

お前(シャオ)が脅威的なのは、その異常な移動速度だ。詠唱を短縮する迅い魔法使い相手にも、臆すること無くフィジカルで圧倒してきたのだろう?

詠唱や術式の要らないお前のスキル発動は確かに迅い。

だが、

()()()()()()()()()()

来ると判っていれば捌けない代物ではない」


信じられない事だけど、シージはシャオの打撃が顔面に当たる寸前のところで片手で受け止めていた。


わかっていて捌けるようなものなわけあるか。


まともに受ければミンチになったっておかしくない打撃を防いだシージの防御魔法だけど、

幾重にも重なった層で構築されたそれは、

小さな規模の局所的な結界魔法と云っても差し支えない強度なんだと思う。


───魔法の圧縮。


「属性効果の付与すら出来んか。魔力が無いと云うのは不便なものだ。しかし健気なもんだな白銀?

“リヒト”と“ハルト”の言葉で攻撃パターンの種類を使い分けているみたいだが、属性の変化の無いお前の攻撃は(魔法使い)からすれば児戯に均しい。

俺の防御魔法の仕掛け(タネ)を教えてやる。

尤も、殴ったお前なら感触で判るか?

圧縮して高度と密度を上げたのは勿論のこと、

俺の防御魔法はそもそも物理的な干渉を無効化する。

正確には俺に向けられた物理的運動の作用を吸収している。お前の一撃は俺に微細な振動さえ与えられていない」


シージの得意げな顔ときたら。 


一体、どこからどこまでうちのパーティーの事を把握してるのか知らないけど気持ちの悪い話だよ。


それに、甘い。


「甘いですね」


あ、シャオが同じ事言った。


(わたし)の攻撃が見切られ易い事なんて、

自分自身が一番よくわかってますけど?

物理攻撃の無効化なんて、貴女(シージ)が初めに考えついたものでもないでしょう?

確かに私は魔法を使えませんけど、

それと私が対魔法使い用の戦法が無という事に結びつきますかね? 全く理解出来ませんけど?

私から言わせれば物理攻撃を封じたら、

私に勝てると思っている貴女達(魔法使い)の動きの方が読み易くて仕方ないんですけど?

はい。論破!!」


うわ腹立つ言い方。


「『シージ!! そのままシャオを引き付けていろ!! 僕が身体をいただく!!』」


させるか。


「シャオ!!」


「わかっています!!」


シャオの言う事は負け惜しみでも何でもなくて、

本当にただの事実。

物理攻撃を吸収して無効化程度で、

イファルの白銀を倒せると思わない事だね。


魔法使いマウントとも呼べる、

この世界の常識をシャオは覆す。

魔法を使ったわけでもないのに、

すごく魔法的だとわたしは思う。


痛快。


───だけど、シージは普通の魔法使いじゃない。


わたしは少しの懸念を感じながら、

再び喉に魔力を込める。

その奥から暖かい血がこみあげてくる。


出し惜しみして敗けるのなんて馬鹿馬鹿しい。


少しだけ感じる違和感は、

マオライがわたしを諌める為の警告かも知れない。


だけど、わたしはその言葉を声にする。

リロクに向けて。

一度も具現化する為に口にした事の無い禁忌の言葉。


半端じゃない血の量に、

眩暈なんて通り越して気を失いそうになる。


───『命ずる!! 死ね!!(ミンリィエ スィ)


◆◆◆

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