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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『⑥。』



「それ以上くだらない事を喋るなら殺す」


口に出すつもりはなかった言葉。


「『いつまで喋っている!? シージ!!

裏切るつもりか!? 寝惚けた事を言ってないで、

来たなら手を貸せ!!』」


何処からかリロクの声が聴こえる。

凄く大きな声だ。


「つまらん奴だ。手を貸して欲しければ、

お前もスイくらいに俺を愉しませろ」


「『薄汚い魔女め!! 偉そうにしていても、

結局のところ、お前に僕は殺せないんだぞ!!

意識だけの僕を殺す魔法を、お前は知らない!!

あまり僕を下に見ると後悔するぞ!!』」


「ははは。それは確かにそうだが、

いつまでも保険が効くとは思わない方が良いぜ?

俺の隣に居るヤツをよく見てみろよ?

未だ気づかないか?相当焦っているな?」


意地悪そうに言うと、

シージは隣に居る魔族の角を掴むと、

無理矢理に顔を上げさせた。


「『アメビックス!! 貴様、何故ここにいる!?』」


リロクの声は少し正気を失っているみたいだった。


「リロク。お前、アメビックスを殺したがってたよな?

俺はてっきり、矜持的な、何か高潔な目標があるのかと思ってたんだが、とんだ勘違いだったらしいな?」


「『何を教えた!? アメビックス!!』」


「アメビックスはお前(リロク)と再び同化する方法を知っているみたいだな?

俺は意識だけのお前を殺せないが、

アメビックスと同化してしまった場合なら、

それは話は別だろうな?

寄生と同化は違うと、

御丁寧にお前の術者は教えてくれたぜ。

借り物の肉体ではない、急所になり得る肉体。

異世界(ニホン)に逃げたアメビックスは、

お前にとってのアキレス腱だったわけだ。

だが遅かったな。お前は異世界でコトハの肉体を乗っ取る事に固執し過ぎたんだ。

どう考えたって分断した意識では無理があるだろう?

さっさとアメビックスを殺しておくべきだった」


「『死ね!! アメビックス!! 自害しろ!!

そうでなくても、どうせお前は僕が殺す!!

惨たらしく殺される前に、自分で死んだ方が楽だ!!』」


「あ……、あ……」


アメビックスとかいう魔族は、

見てられないくらいに憔悴してる様子だった。

これが南方の小国(ラロカ)の人々を苦しめた魔族で、

因果応報の様なものに見事に絡めとられたんだとすると、不憫にも思えなかったけど。


わたしはこの時、状況に対して集中出来ていたかと云うと絶対にそんな事はなかった。


シージに対する怒りや憎悪が、

わたしの身体中に纏わりついて、

水を吸ったみたいに重たくする。


だけど、止めなくちゃいけなかった。


わたしよりも怒りで我を忘れたイツカが暴走する前に。


「アメビックス!! よくもまたイツカの前に現れたな!? 今度は逃がさない!! 殺す!! 殺してやる!!」


語りの書(トーキングヘッズ)を具現化させたイツカが、獣みたいな唸り声を上げてアメビックスに襲いかかろうとしている。


───『動くな(ブィエドン)


わたしはイツカに向けて言葉を放ち、

彼女はその場に縫い付けられた様にして動きを停めた。


「スイ!! 邪魔をするな!!

トーキングヘッズ!! 審判と判定(カフカ)を行え!! スイにやり返すんだな!!」


「イツカ落ち着いてよ。悪意が無い事が判るのか、それとも所有者の君を護る為なのか、トーキングヘッズも多分、わたしと同じ事を思っているんだよ」


「うるさい!! スイ!! 魔法を解け!!」


「前にわたしが言った事を忘れちゃったかな?

シージは模写の魔法使いだ。君の無敵に近い能力をコピーされちゃったら非常にまずい」


「うるさいうるさいうるさい!!」


「まいったな」


イツカはわたしの話に聞く耳を持たない。

よっぽどアメビックスの事が憎いみたいだけど、

魔族とは名ばかりで、とても弱々しく見えるし、

こんな男、放っておいてもどうにでもなるだろうにと思うけど、そういう事じゃないんだろうな。


「ははは。まるで獣だな、ヒガシアカツキイツカ」


呑気な事をシージが言う。


「スイ。解いてやれよ。心配しなくても俺はイツカの魔法をコピーしやしない」


「信じられるもんか」


「喉から手が出る程に欲しい魔法ではあるぜ?」


「ほらね」


「性質の問題だな。俺の模写の魔法の形態と、攻撃を無効化して反射するイツカの魔法じゃ、俺に分が悪い。

いくら欲しくたって模写出来ないのさ」


「魔法の形態と性質。眼で見るだけでコピー出来るわけじゃないと言いたいのかな?」


「ご名答。流石。お前くらいに優秀だと話が早くて助かる。まア、考えれば判る話だがな。

見るだけでコピー出来たなら、俺はコトハに苦戦なんてせずに、リロクの手を借りる事もなく、

おそらく勝負は俺の勝ちだっただろうな」


「そんなことあるもんか。コトハさんが君になんて敗けるわけない。君が卑怯だったからコトハさんは油断しちゃったんだ」


「ははは。油断しなければ異世界へ帰される事もなかったか?知ってるか?油断は禁物で命取りだ。卑怯だろうが何だろうが、勝負なんてものは勝った奴の勝ちだ」


「そんなのは屁理屈だ」


「そうだ屁理屈だ。だけど俺は理屈をねじ曲げてやったんだぜ?最強の魔法使いと名高い中央の魔女を相手に、俺は死にそうになりながらも五分五分、

なんなら罠にかけて陥れてやったからな。

そんな奴、この世界が幾ら広いと言っても、

この俺ただ一人だけだろうよ」


シージの言葉は本当に腹立だしかった。

コトハさんを侮辱されているような気がして、とてもじゃないけど、わたしは許せなかった。


それに、この時には未だ、わたしは彼女の言葉の裏に潜む不吉さと悪意を感じ取りながらも、

その本当の矛先に気づく事は出来てなかったんだ。


魔法の性質と形態。


シージの言った、この言葉の意味。


不死身に近いコトハさんと戦ってもシージが死ななかった理由。


模写の魔法。

その本質について。


◆◆

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