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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『⑤。』



彼女(肉叢の魔女)が名乗ったシージという名前に、

わたし(スイ)は聞き覚えがあった。


「クオナンの街で聖域教会の男から聞いた名前だ。模写の魔法使い」


「ああ、そうだ」


シージは嬉しそうに応える。


「俺は実にたくさんの魔法やらスキルを模写しているんだ。お前の連れの転移者の餓鬼と一緒だ。

あア、だからといって親近感を覚える必要は無いぜ?

俺とあの餓鬼の能力は本質は同じかも知れないが、

全くの別物なんだからな」


「そんな事でいちいち親近感なんて湧かないよ。

それに君はリクの事も知っているんだね?

わたしの事も知っているような口振りだったけど、

何処かで出会った事があったのかな?」


「言っただろう?俺は魔女だ。それも不老の魔法に掛かった魔女だ。お前の想像し得る範疇よりも、

遥かに永く生きているんだぞ?」


「全然答えになってない。

君が長生きしているからって、わたし達の事を把握していることと直結しないでしょ。

君もリロクと一緒で、何処かからわたし達の事を盗み見してたんだね。気持ち悪い。軽蔑するよ」


「ははは。口が悪いな。

お前は今、一生懸命に頭を働かせている。

俺の言った事が気になるんだろう?

それを誤魔化す為にお前は毒を吐いている」


わたしは心の中で舌打ちをする。

不老の魔法なんて気にならないわけがないじゃないか。


「不老の魔法は確かに存在する。

俺が証人だ。それにお前のよく知る女も、

不老の魔法に掛かった魔女の一人なんだぜ?」


「それは誰?」


「ルカだ。お前が餓鬼の頃から今まで、甲斐甲斐しく世話を焼いていたウクルクの侍女長」


「は?ルカさんが魔女?嘘に決まってる」


「嘘なもんか。あいつがウクルクに住みついたのがいつ頃だったのか俺は憶えてはないが、

もう何百年かは昔の話だ。

本当のところ何が目的だったのかは知らんが、

ルカはウクルクの王家に取り入って、

そして受け入れられた。

王家の人間以外には魔女である素性は隠していたらしいが、何百年もの間、姿形に変化が無いんだぜ?

周囲の人間が本当に気づいていなかったのか怪しいもんだ。笑える話だろう?」


「わたしは知らない」


「それは教えられてないだけだ。

あの国はお前に色々と隠し事が多いみたいだな」


「どういう意味?」


「言葉通りの意味さ。

それとウクルクというのは古い大陸語で『安息』という意味だが、()()()が眠る土地だと考えて精査すれば随分と皮肉が効いた名称だ」


「一体君が何を言いたいのかが全く理解できない」


「おいおい、随分と魔法使いらしくない事を言うじゃないか?思考の停止は危険の前兆だと俺は思うぜ?」


「もういい。君と問答をするのは何故だか凄く疲れる」


「待て待て。俺はお前とこうやって話すのは好きなんだぜ?それに、お前は俺を憶えてないが、

俺はずうっとお前の事を知っていたんだ。

逢えて嬉しいとすら思っているんだぜ?」


「知らない。それを聞いて、無条件に君と仲良くする気なんて起きない。そんな事をするには、君はあまりにも禍々し過ぎる。まるで悪意が服を着て歩いているみたいだ」


「ははは! お前に憎まれ口を叩かれるのも嫌いじゃない。俺達はこうやって出逢うべき運命だったのさ」


「嫌だ」


わたしは心の底からそう思えた。


「君は種族的な魔女じゃないと言ったけど、

わたしには君が人間だとは到底思えない。

魔族とも魔人とも違う。

君が纏う不穏みたいなものは明らかに異質だと思うし、

少し怖さも感じる」


「怖い?拍子抜けしちまうような感想だな。

俺の何が怖い?魔力か?」


「たとえばだけど、わたしが言葉の精霊(マオライ)の魔法を使ったとしても君にそれが通用するのか全然判らない。というより、通用しているイメージが全く思い浮かばない。暗闇の底に小さな石を投げ込むみたいな、

とにかく貧相で物悲しいものしか頭に描けない。

そんな事を思ったのは産まれてはじめてだよ」


「それは良くないな。想像の昇華を不完全に終わらせる事は魔法にとって致命的だ」


「マオライの言葉の行使力の範疇外の生物が存在するとしたら、わたしは絶対にそれには勝てない」


「まア、それはそうだろうな。

お前の魔力次第でもあるだろうが、

マオライの魔法には均衡の概念なんて無い。

やりようによっちゃ、世界を滅ぼす事も容易い。

だけど安心しろ。

俺は確かに、もう普通の人間ではないが、

お前が恐れる程には強くはない」


「本当に?」


「本当さ。中央の魔女の方がよっぽど強い」


「コトハさんに逢った事があるの?」


「ああ、あるぜ。俺は七年前にネイジンでコトハと()り合った事がある。

本当に久方ぶりの事だったが、

俺は此処で死ぬのかも知れないと恐怖したもんさ」


「七年前。ネイジン」


そのキーワードで、わたしの頭の中で何かが煮え始める。


「不老であっても不死では無いからな。俺は一発喰らえば即死だろうがコトハは無制限の回復機能を備えている。それはとても不公平な事だとは思わないか?」


「ちょっと黙っててくれないかな?」


シージはわたしの言葉に耳を貸さずに話を続けた。

イラッとする。


「だが俺は死ななかった。途中でリロクが加勢にきたからな。奴の時間を遡る魔法でコトハを異世界(ニホン)に送ってやった。そうして育ての親と離ればなれになった哀れな哀れな美しい孤児(みなしご)が完成したわけだ」


───『雷光の弩(エルライトニング)!!』


わたしは怒りに任せて魔法を撃った。

本当に頭に血が昇ると、こうやって我を忘れてしまう事を初めて知った。


しかし、シージは雷に貫かれても平然としていて、

わたしの魔法なんてまるで意に介さない様子だった。


「先刻の形式を丁寧に踏んだ魔法が嘘みたいだな?無詠唱の技術は確かに効率的だろうが本質的ではない。

威力も風情もあったもんじゃない」


「うるさい黙れ!!」


自分でも信じられないくらいに大きな声だった。


()いていては俺は倒せんぞ」


シージは憎たらしい程に愉快そうに言う。


「それに少し喋り過ぎたが、お前はまずリロクをどうにかしなくちゃならない。意識だけで生きるあの化け物を、お前は一体どう処理してみせてくれるんだ?」


シージの言葉が、頭に入ったような入ってこなかったような、ぼんやりとした状態だった。

言葉の意味を理解しようと反射的に反芻しようとするけど、なにもかもが巧くまとまらない。怒りで。


──今、目の前にいるコイツが、

  わたしからコトハさんを奪った。


その重苦しくて惨めったらしい、

思い出したくもない嫌なフレーズが、

今もまだ頭の中から消えない。


◆◆



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