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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『④。肉叢の魔女曰く。』



リロクが自分の時間を巻き戻した行動は、

その場しのぎにも見えたけど、そうでもなくて、

彼が都を覆い尽くす様な呪氷を発現させる迄の時間は充分だったらしい。


魔法に関する事柄で彼の迅さに対してだけは称賛する。わたしは、その迅さについてくだけでやっとだったかも知れないから。


詠唱が短いとか魔力を練るのが巧いとかの、

小手先のそういう次元じゃない。

彼が魔法から産まれた存在であることに起因していたんだと思う。


人間のわたしにはどうしたって覆せない。


◆◆


宮殿の城壁は津波の様な音を立てる魔法に破壊された後、信じられないくらいに厚い氷に閉ざされていく。


きっと、宮殿の外も似た様な光景なんだろう。


魔法を使えない人達もいる。

魔力で魔法を防ぐ術を知らない人達にとっては、

魔障で受ける後遺症は厄介だ。


「……その前にこんな冷たいと死んじゃうだろうが」


怒気を孕んだ声とは裏腹に柔らかな光が都に射す。


イファルの王(ラオ)様は、自国の国民を傷つけられる事を嫌う。

どこの国の王様だってそうかも知れないし、

そうあるべきたと思うけど、ラオ様のそれは、

少し違う意味合いを含んでいる。


呪いと祝福。


(ラオ)子供たち(国民)を一人でも死なせてみろ。

お前(リロク)の意識も身体も細切れに刻んで、二度と戻って来れないような冥府の底に叩き堕としてやる」


怖。


「ラオ様、リロクはわたしが倒します。だけど、出来ればそのまま結界で都の人達を護ってほしい」


「スイ。コトハの敵を討ちたいのはわかるけど、

一人でやるのに拘るな。全員でやればいい」


「死んでません。

それにそういうわけじゃないんですけど」


「都の民の事は心配するなよ。

この程度なら片手間でも護ってやれる。

確かに実体を持たないコイツ(リロク)を倒せるのは、お前の言葉かも知れないけど、

この場に居る全員で動きを封じた方がそれも確実だ」


「リロクの氷で魔力を奪われてる。

全員が全員、本調子で動けるわけじゃない」


「ここで無茶しないで、いつやるんだよ?」


「ラオ様らしくないですよ?

リロクは時間を戻して、わたしが術式の書き換えをする前の状態になってる。

わたしの精霊魔法は効かないかもだし、

魔力や体力も回復してる可能性だってある」


「だからだよ。どう考えたって危機的だ。

追い詰められているのは僕達だ」


「危機的?そうでもないかもですよ」


「は?」


わたしはそう言って、片手の指を組んで、

獣の形を象ってみせた。


「賭けではありますけど」


「何をくっちゃべってる!?」


数え切れないほどの剣の様な氷が、

撃ち放たれ、そして、わたしは獣の口をリロクに向けて開いた。


───『ちはやふる疾風(エルシュトルム)


「ッッッッ魔法!? 詠唱は止めた筈だ!?」


リロクの魔法は確かに迅い。

氷の剣は既にわたしの顔に当たる寸前にまで届いていたし、いくら射出速度の迅い風魔法だからといって、

わたしの魔法じゃ彼の魔法に迅さでは到底敵わない筈だった。


だけど、先に相手に届いたのはわたしの魔法。


風の刃が、弓矢が、槍や戦斧が、

まるで敵の城へ攻め込む為に、雪崩の様に押し寄せる軍隊みたいに、リロクの全身を切り裂いて貫き、薙いで打ち砕いた。


「……かはッッッッ!?」


絶命の悲鳴を上げたリロクの身体は血みどろになり、

紅い血の塊の様な彼の身はゆっくりと倒れ臥せた。


「君は冷静さを欠いた。そんな状態で魔法がいくら迅くたって、わたしは君になんて敗けない」


───パチパチパチパチ。


唐突な拍手の音。

何か不吉な報せを届けるみたいだった。


◆◆◆ 


都を覆い尽くす氷は術者からの供給(魔力)を失うと、

あっという間に溶けて消え失せていった。


「悪ィな。ただ静観だけして、そのままコッソリと帰るつもりだったんだがな?あんまりにもお前(スイ)の魔法が鮮やかだったもんで、思わず姿を現しちまったってわけだ」


拍手の主のその声に、わたしは聞き覚えが全く無かった。


「ありがとう。ところで君は誰なのかな?」


「おいおい。何だよ?俺の事を憶えてないのか?」


「うん。ない」


「早ぇな。もう少し悩め」


「だって知らないんだもん。大体、君は男?それとも女?」


「……?あア、()()()()()()()()()()()お前の眼にはどう見えてる?」


「まア、女かな?でも男みたいな喋り方だ」


紫色の瞳をした、

頭の半分が白髪の背の高い女の人だった。


「その言い方は些か問題があるな。

だがいい。今は俺の姿の事なんて本当にどうでも良い」


それは確かに一理あったし、

わたしの興味は彼女(彼)の傍に仕える様にしている人物に移っていた。


それは魔族だった。

こちらも白髪で、長髪の男の人だったけど、

その頭には判りやすく山羊のものに似た曲がった角が生えていた。

ディーヴィーエイテッドの威風堂々とした態度とは違い、どこか草臥れた様なやつれた姿だった。


「何だよ?こいつが気になるか?

お前が思っているよりつまらんヤツだぞ?」


「君も魔族なのかな?」


「俺は違う」


彼女はそう言って、仰々しく歩き出しながら、

わたしの方へゆっくりと近寄ってくる。


「俺は魔女だ」


「魔女?君が?」


「そうだ。種族的な意味合いを持たない、

後天的な経過に因る名称のな。

お前の育ての親と一緒だ」


「通り名」


「そうだ。種族としての魔女は、

深い魔性に触れた人間が堕ちた、或いは成った魔人の一種だが、俺やお前の親は只の人間だ。

その功名、もしくは悪名がもたらした通り名としての魔女でしかない」


「君はきっと悪人なんだろうね」


「それは俺にはわからん。他者の評価によるだろうぜ」 


「血の匂いが酷い」


「ははは。鼻が効くんだな?

優秀な精霊使いだ。お前と精霊の在り方は本質的だ」


「それはどうも」


「だけどそれだけじゃない」


──パチン、と彼女は指を鳴らした。


「わざわざ長い詠唱を行って術式を余す事無く構築し、

お前は儀式としての魔法の手順をきちんと踏んで、

魔法本来の姿の発現を促した。

詠唱の短縮だの、術式の高速展開だの、

迅さを競う昨今の流行りから大きく外れた、

古典魔法の様式美に則った戦い方だった。

実に素晴らしかったと俺は思うぜ?

それにお前は様式美に拘ったわけではないだろう?

状況の把握と整理、情報処理の高速化。

お前がやったのは魔法戦に於ける、

尤も効率が良い理想的な立ち振舞いだ。

感動すら覚えた」


「短い詠唱じゃ威力が微妙に落ちるんだ」


「それだよ。それに気づいている魔法使いがどれだけいる事なんだろうな?

事実、魔族の魔法から産まれたコイツ(リロク)ですら、その事をきちんと知っていたか怪しいもんだ」


彼女は乱暴にリロクの身体を踏みつけると、

心底楽しそうに言った。


「そんな事は無いでしょ?自分の(魔法)なんだから。威力が多少落ちたって自覚しても、

高速で魔法を撃ち合った方が効率的かも知れないよ?

それと、足。退けてくれない?

その身体にはまだ用があるんだ」


「それをそう思えるのは、お前がとっくに並みの魔法使いとは一線を画している証拠だぜ?」


そして、また声が聴こえる。別の。


『「スイ!! この腐った魔法使いが!!

卑怯な手ばかり使いやがって、次は僕の番だ!!

貴様の仲間の身体を貰う!!

今度はこうもアッサリと攻撃出来ないようにな!!」』


それは宿主(ミナト)の身体を棄てた、

リロクの声だった。


「素晴らしい魔法だったが、意識だけで存在出来るリロクの本体は殺せなかったみたいだな。

それに今のコイツはお前の言葉が効かない状態に時間が戻っている。『意識を捕らえろ』なんて言葉は無効だろうなァ」


彼女は嬉しそうだ。


「別に。その言葉が効かなくたって問題ないよ」


「ほう?ならどうする?先刻までの宿主はお前の知り合いだったんだろう?それをアッサリと殺してしまって、俺は些か驚いてもいたんだが次もそうするか?」


「まさか。次はそんな事しない。

それに宿主がミナトなら、そのくらいじゃ死なない」


「それならどうする?」


「こうなる事を狙ってたから。

彼が宿主の身体から出た時点でわたしの勝ちだよ」


『「()かせ!!」』


「ハハハ。諦めろリロク。俺としてはな、

お前に助け舟を出してやらんでもなかったし、

元よりそのつもりだったんだがな?

気が変わった。お前よりも、この娘の方が面白い。

詠唱を中断したにも拘わらず、

履歴から術式を再生させて魔法を撃ったんだぞ?

そんなやり方、他に聞いた事があるか?

先刻、俺は様式美とは言ったが、

ある種尤も高速化された魔法の在り方だ。

スイ。お前はそれを誰に習った?」


「わたしも君に聞きたい事がある。

それを教えてくれたらいいよ」


「何だ?言ってみろ」


「君はリロクの仲間なの?」


「そうだ。というかビジネスパートナーだな」


「それに、君は一体誰なんだ?」


「未だ名乗ってなかったか?

俺の名はシージ。聖域教会の司教だ。

それに俺は魔女だ。仲間には肉叢(ししむら)の魔女と呼ばれているな」


◆◆◆◆


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