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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『②。それから時間を操る魔法とシットリッカーズについて。』



具体的に一体どんな能力なのだろうか。


リロク曰く、対象の時間を巻き戻す事で、

此の世界に訪れる前の状況にするのだと云う。


傍目から見れば忽然と姿を消した様にしか見えなかった。


──()()と云うところが重要。

  わたし達の誰ひとりとして、

  コトハさんとリクの()()を失くした人は居ない。

  時間には干渉が出来ても、

  記憶には影響が出てない。

  

まア、だから何だって話なんだけど。


わたしの憶測か推測だけど、時間を巻き戻されたところで赤ちゃんに戻ったりする訳ではないのだと思う。


肉体的にではなくて、

もっと概念的、もしくは抽象的に。

だけど、確かに時計の針は戻される。


それと出力の加減もあるのかも知れないけれど、

死に至らせる類いの魔法じゃ無い。


それなら、

何の為にリロクはコトハさんの時間を逆行させたんだろう?


Q①コトハさんが強過ぎて、そうするしか手立てが無かった?


厄介なものに蓋をするみたいに。


充分過ぎるくらいに考えられる可能性だけど、

本当にそうだったんだろうか?


時間が巻き戻っても、

相手は死ぬわけじゃない。

術者がそれを知らないわけがない。


世界間を行き来する転移魔法があるんだから、

いずれは戻って来るかも知れない。


A①根本的な解決の為じゃない、苦し紛れの一手だった。


事実、コトハさんはリクと一緒に戻って来ている。


Q②或いは未完成だった魔法を完成させる為の実験だった?


これも有り得ると思う。


時間に関する魔法は大いなる禁忌に触れるとされて、

研究や取得が許される事は決して無いから、

時間魔法は未だ此の世に存在しない事になってる。


禁止事項として、もっとも重要視される理由は、

対価に因って術者の生命が脅かされる事と、

魔法の発動で予見される世界への影響に対する危惧。


時間を操作する事で、

過去や未來で発生するであろう矛盾や改編を、

術者は魔力で補わないといけない。


起こるはずの無かった事が起きた事実に対して、

或いは起きた事実を起こる事の無かった事にする為に。


魔法である以上、対価が必ず発生して、

それがどんなに大きなものだとしても、

魔法使いはそれを支払う事から逃れる事は出来ない。


具体的には違うかもだけど、

動かす事の出来ない世界の流れみたいなものに干渉するんだから、それには想像を絶する魔力の消費を伴う。


安全装置の役割もある魔力切れを介さずに、

術者はあっという間に死に至るのだろう。


俗に云う『魔法に喰われる』と呼ばれる現象。


肉体や精神の崩壊だけじゃなく、

魂さえも消え失せて消滅する。


その被害が術者だけに留まらなかった場合の事は何となく想像が出来るし、だからこそ時間に関する魔法が禁止される理由もよくわかる。


Q③その魔法をリロクは本当に操れる?


わたし達の前からリクが消えたのは、

リロクが時間を操作したからなんだけど、

あの時、あの場所に居たわたし達の誰にも、

その魔法の影響は無かったように思えた。


リロクは魔法を使った直後でも、

なんともない様子だったし、

彼は魔族の魔法から発生した存在だから、

本当に魔法を操れたとしてもおかしくはない。


A③おかしくはないけど、

何だか受け入れたくない。


それは多分、心情的に。


わたしの最推し(シットリッカーズ)と、

リロクを同列に並べたくないのだ。


───これは、わたしの希望でもあるけど、

   シットリッカーズの魔法と、

   リロクの魔法は別物であると仮定する。

   危険視される時間魔法と比較して、

   リロクの魔法は粗悪的なものにも思えるから。


シットリッカーズの著書(読んだ事はないけど。禁書だから)に書かれている内容は、

生前の彼におこなわれた過去のインタビュー記事を見て

、インスパイアされた研究家達によって、その一部が書き起こされているんだけど、シットリッカーズが時間魔法で叶えようとしていた事は、主に死者の蘇生だ。


蘇生魔法。


現存しているかも疑わしい生や死を司る神の加護を受けた神職者のみに使用が赦される希少性の高い魔法。

シットリッカーズは神職者ではなかったけど、

自分の魔法技術でそれを再構築しようとしていた。


死者が死者になる前に時間を巻き戻す。


それは蘇生魔法の術式とは明らかに異なる方法論。


天命的な、死へと辿る筈だった運命さえも覆すものだとしたら、対価は一体いくらになるのだろう?


でも、わたしがシットリッカーズの理論に惹かれる一因は、彼がその対価と、蘇生魔法に対しての疑問と問題提起を述べているところ。


蘇生魔法の対価は術者の生命だ。

生命と引き換えに蘇生を行う。


対価の大きさは時間魔法と比べて遜色はないけど、

シットリッカーズが問題視したのは、

その対価の大きさだ。


───死者が甦ろうが、

   時間を遡れようが、

   その為に自分が死んでしまうのなら、

   あまりにも莫迦莫迦しい。

   おれの求める魔法には、

   そんなケチくさい勘定は要らない。

   あんた(インタビューする記者に対して)は、

   どう思う?

   自由への対価や代償なんて本当に必要か?

   うわべだけ有れば充分だと思わないか?

   おれはそう考えている。

   《北領日報 935年 3月8日の記事抜粋》

   

   

シットリッカーズは根底を覆そうとする様な発言を好んだと言われてる。

彼の様な大魔法使いなら、

魔法に喰われる危機に何度も瀕した経験があるのだと思う。強力な魔法になればなるほど創造性は高まり、

自分の思い描く想像を現象化できる代わりに対価は跳ね上がる。


多くの魔法使いはそれにジレンマを抱く。


シットリッカーズは対価の踏み倒しを目論んでいたのだろうか。


それだけを聞くと何だか無粋な人間に思えるけど、

彼はわたしの知る限りの著名な魔法使いの中で誰よりも魔法を愛していた様に感じられる。


何よりも魔法によって与えられる恩恵に感謝し敬意を払っていた。


敬意を払いつつも、それに対しての代償は出し渋る。


相反する思考だし、

彼が生涯を通して人格を疑われるような変わり者だと思われていた原因だとは思うけど、

わたしにとってはそこが魅力的なのだ。


彼は魔法とは公平(フェア)でありたいと公言していた。


彼の言う()()が、

世間の考えるそれとは少しズレていた事はもうわかるだろうけど、当の本人は至って大真面目だった。


未だ創られていない術式を編み出し、

それによって導き出される魔法を発現させる。

彼はそれこそが魔法に対する最大限の敬意だと考え、

それが自分の払うべき対価だと提唱した。


───魔法の新構築。


Q④リロクの魔法とシットリッカーズの魔法の前提や用途が違うものだとして、リロクの魔法は何をもたらしたのか?


リロクにシットリッカーズみたいな思想や発想は無い。

これは断言する。


だから答えは簡単。


A④リロクはコトハさんの時間を巻き戻して、或いは、

それによって起こる副次的な作用によって、

コトハさんの弱体化を狙った。


そして彼は今、わたしと、

わたしの仲間達に向けてそれを放とうとしている。


◆◆◆


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