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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『続回想録①。』



(正気か、この場面でのんびりと詠唱なんかしやがって)


おそらくリロクはこう思っている事だろう。


それから、わたしに隙が出来た、と思う筈。


だけど、あからさま過ぎて、当然警戒もするだろう。


──君はどちらを選ぶのだろうね?

  迷えばいい。


◆◆


リロクは仮面をつけている。

比喩的な表現では無くて、実際に。


ペストマスクみたいなデザイン。


真っ黒なゴーグルで眼を隠して、

視線を読まれない為か、

口を覆った嘴で暗示詠唱(密閉空間で詠唱の呪文を反響させて術者に魔法を掛ける)を行う為か、

どちらなのだろうかと思っていたけど、

多分どちらでも無いのだろう。


わたしは彼の仮面を、

初めて見た時から凄くカッコ悪いと思っていたけど、

おそらく伊達や酔狂でつけているわけでも無い。


だけど、

そこには魔法的な意味合いがおそらく有る。


そして、彼はこの場面でそれを発揮させる筈だ。


だって彼は気づいているから。


わたしが言葉の精霊(マオライ)魔法を使う時には、

長い詠唱をしない事に。

彼は、わたしの詠唱を通常の魔法を発動させる為のものだと思う事だろう。


それから、こう思う筈だ。


(通常の魔法なら、どうにか出来て、

この窮地を脱せるかも知れない)


更に付け加えると。


(スイが手を打ち間違えるとは思えない。

只でさえ魔力の消耗が激しい女だ、

余裕ぶってはいるが、それはブラフで、

本当は魔力が尽きかけているのかも知れない)


だから彼はこう思う。


(肉体からの離脱が可能になるかも知れない)



「『綾に紡、みなも、葉の舟、揺蕩うて揺らく』」


詠唱の呪文を口にする度に、

身体から栓を抜かれて、

溜まった澱の様なものが比喩的に吐き出される。


それは血みたいに暖かくて、

熱を持って、どぼどぼと流れていく感覚はむず痒い。

吐き出す口はとても暖かいのに、

吐き出された瞬間にあっという間に冷める。

だから、そのうち身体は段々と冷えていく。

頭の先から爪先まで。


──循環。


それに合わせる呼吸は温かい。


──。


「『ちとせ』」


(ああ、わたしは魔法が好きだなぁ)


そんな事を呑気に考えていた。


◆◆◆


「馬鹿が!! 

僕が詠唱の終わるのを待つと思うか!?」


思った通りだった。

リロクは最小限に抑えられた魔力の流れと詠唱により、

とても鮮やかな手際で魔法を発動させる。


何せ彼の敵は、

わたしだけでは無いのだから。


だから、彼の動きに淀みは一切無かった。


そこには、

ひりつくような緊張感と焦燥感だけがあったと思う。


頭の中で、一度整理した複雑な手順を、

順と逆を何度も反芻し、

ひとつの間違いもなく正確に踏む。


安っぽい評価をするなら、

彼は優れた魔法使いだから、

それを難なくこなせる。


()()()()()使()()


あはは。思い出しても笑っちゃうな。


強い魔力、魔法に対する知識、

卓越した技術、圧倒的な能力。


彼らは強いから、

勝ち筋みたいなものが定型化している。

そして、

それに気づいていない事も多い。


──だから彼は寄生魔法を使わない。


凄まじく短い詠唱、

わたしには、それが悲痛な叫び声にも聴こえる。


何かが逆流する様な感覚が、

周囲一体に張り巡らされていくようだった。


リロクの仮面が魔法具なのは間違いなくて、

実体を持たない彼の本体が、

その魔法具でしたなんて陳腐なものではない。


マスクのゴーグルの部分には、

おそらく座標みたいなものを映し出す機能がある。


そして、

その座標は彼の能力の発現に、

大きな補助的な役割を持っている。


座標、と云う表現が正しいのかはわからないけど、

彼は、その座標を元に能力をより正確に行使する。


今居る地点から遡る為の座標。


──彼は時間を操る魔法を使う。

  わたしから、コトハさんを奪った魔法を。


◆◆◆◆




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