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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『イファルでの回想録。』



遡る事、数ヶ月前。


わたし(スイ)達はイファルの王宮で、

ミナト(昔の仲間)の意識を乗っ取って支配した、

リロクと云う魔族(正確には魔族が造り出した、自我を持つ寄生魔法)と交戦し、情報を得る為に彼を捕えようとしていた。


リロクの戦闘力を削ぎ、ほぼ戦闘不能の状態にまで、

追い込む事は出来た。


彼の存在が、

七年前にコトハさんが行方不明になった事と、

何か関連が有る事に気づいたわたしは、

正直、頭にかなり血が昇っていたし、

今思えば、自分や仲間が思っているほど、

冷静では無かったのだと思う。


そう見える様に振る舞っていただけで。


今更、その事を後悔したって仕方ないのだけど。


──その時に、わたし達のパーティーは全滅した。


突然現れた魔族と、

一人の魔女の手によって。


◆◆


「……少し待って貰えませんか?

此処で僕を殺してしまうのは得策ではありませんよ?」


リロクは静かな声で、

わたしに向かってそう言った。


「得策では無い?何で?

じゃア、やっぱり君はコトハさんが、

居なくなった事に関係しているんだ?」


「ま……、待って下さい。それも含めてです。

一度、貴女に落ち着いて貰えるのなら、

謝罪もします」


リロクに、

わたしは冷静さを欠いているように見えているらしい。


実際そうだったんだけど。


「へえ。謝る?君が?」


「そうです」


「時間稼ぎはやめない?

わたしは君を直ぐには殺さないし。

君の知っている事さえ教えてくれたら……、

教えてくれなくても、

無理矢理吐かせるけどね。

もう判ると思うけど、

嘘を吐いても意味は無いよ」


「判っています……。

貴女の『言葉の精霊魔法』の行使力に、

僕の力では逆らう事が出来ない」


「よろしい。それとね、謝罪もいらない。

君に謝られたって嬉しくも何ともない」


「貴女は少し言葉が強い」


「事実だから」


リロクは、

きっとわたしの隙を付け狙うつもりなのだろう。


多勢に無勢で、

殆ど抗う余地なんて無いように思えるけど、

彼は何せ他人に寄生する事で存在する魔法だ。


わたしの言葉の精霊を警戒してはいるが、

此処に居る誰かの意識を乗っ取ろうとしている筈だ。


今の肉体を捨てて。


リロクはわたしの命令に従って、

あちこちに散らばっている分割した意識を、

わたしの目の前にいる肉体に移し終えたみたいだった。


◆◆


本当のところを言うと、

わたしの魔法でリロクに命令を下して、

()()()()()()()()()()()()()()()()は判らなかった。


寄生魔法に対する知識は有ったし、

契約している言葉の精霊(マオライ)の力は充分過ぎたけど、

わたしの魔力がそれに見合うかは不明だったから。


彼が肉体を抜け出した瞬間に、

今の肉体に掛けた魔法が、

抜け出した本体にも有効なのか、

或いは二重に魔法を掛ける必要が有るのか、

肉体しか縛る事が出来なかった場合、

抜け出した本体はきっと実体を持たないから、

それに対して適切な速度で、

わたしは魔法を撃てるのかどうか。


と、まあ不明瞭な点はかなり多かったんだけど。


だけど、

試す価値は有ったし、

結果がどうなるのかとても気になったけど、

最初からわたしは確実な方法を取るつもりだった。


寄生魔法は当然、

眼に見えるようなものでは無くて、

著名な魔法使いに寄生していた事から判る様に、

魔法の発動時の魔力を、

限り無くゼロに抑えられるのだろう。


撃たれた拳銃から、

音も匂いもしないのと同じ。

君たち(読んでいる人たち)に判り易い喩えで言うと。


戦闘魔法に於いて、

()()()()()と云うのは、

ある種の指標になるもので、

そういう魔法は特別に珍しいものでも無いのだけど。


──それは確かに其処に有る。


  眼に見えない気体が質量を持つ事と同意義だ。

  火を消し、木を倒し、土を砕き、

  金を溶かし、水を枯らす。

  魔法使いにとって重要な事ではあるが、

  それは只の常識だ。


  奇天烈な発想が全てを救うとは言い難いが、

  非ざるものの本質を捉える為に時には、


  火が水を失せさせ、木が金を綻ばせ、

  土が木を朽ちさせ、金が火を払い、

  水が土を腐らす事も必要だと、

  私は思っている。


  今日の次が明日で無くとも、

  夜に月が昇らなくとも。

  

  魔法とは、

  不可解な世界と我々が触れ合う為の手立てだ。

 

これはケルンヴェルクの文章。


一応言っておくけど、

彼が寄生魔法に意識を支配されていた時の記述は、

この文章の次の頁からだ。


魔法書を記す様な魔法使い達は概ね、

魔法に対する己の矜持を文章の中で述べる。


矜持、

なんて言うと何だか仰々しくて感じが悪く思えるけど、

要は心構えみたいなものだとわたしは思っている。


◆◆◆


「……何を嗤っているんですか?」


少し腹立しそうな声のリロクの指摘で気づいた。


「気になる?」


からかってやろうと思った。


「貴女の考える事なんて、僕には到底思いつかない」


嫌味な言い方だ。

丁寧な口調が、殊更にそれを引き立てる。


「この際だから、ハッキリと言わせてもらいますけど、

貴女は頭がおかしい。人間として破綻しきっている」


「そんなに?」


「最初に会った時から、ずっと思っていました。

貴女は確かに優れた魔法使いです、

知識も能力も、それに見合う実力も、

周囲の環境にも恵まれている。

それだからなのか、態度は概ね尊大で傲慢です。

他者を見下している」


「そんなふうに見えているんだ」


「……嗤ってんじゃねえよ」


リロクの語気に怒りが孕む。


今度はわかっていた。

()()()()()()()()()()()


「おや。ようやく素の君を拝見出来たのかな?」


「おちょくっんてのか!?」


「喋り方。

ミナトの真似をしてたんだろうけど、

君の下手な芝居に、

正直、辟易してたんだよね」


「勝ったつもりか。

お前は寄生魔法の詳細を知っていると言うが、

本で読んだ知識に全てを委ねるつもりか?

明かして無い能力が未だ有ったとしたらどうする?」


「別にどうも。出来る事をやるだけさ」


勿論、彼の言う事は一理有る。


「怖いの?君もやれる事をやったらどう?」


殺意。


彼の使う氷の魔法の影響なのだろうか、

それは凄く冷たくて、鋭いものに思えた。


まア、殺意なんて、

大体がそういうものなんだろうけど。


この時、わたしは楽しくて仕方なかった。

その理由は、

コトハさんの事で、

昂っていただけじゃ無いかも知れない。


身体の裏側で、

わたしに語り掛ける様に脈が波打つ。


───(まなこ)を凝らし、自由であれ。

   

わたしが捲った頁に、

ケルンヴェルクの言葉は続く。


「『鼓、弦、鐘、凪、

友よ。血で結うた汝らの祝いを』」


わたしはゆっくりと詠唱を始める。

深く呼吸をする様に。


◆◆◆◆


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