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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『領分。』



「転移者と転生者の違いなど説明しなくとも良いな?」


そう言って少女はコトハに問い掛ける。


「なんとなくは。それよりも、

君の言う事が本当かどうかの方が知りたいかな」


「儂が嘘を吐いてると思うとるのか?」


「そこまでは言わないけどさ。

すぐにそれを信じろと言われても困るかな。

僕は自分が確かに、

日本で産まれ育ったと記憶しているから」


「だから言っておるだろう。

お前は此方に転生する時に、

記憶の一部を魂に記録したままだったと」


「じゃあ僕は転生した先でも、

以前の記憶と混同して、

自分の事を二月二日(にがつふつか)ことはだと名乗っているのかい?」


「そういう事だ。

だが、お前の肉体は二月二日ことはのモノでは無い。

今のお前の肉体は、お前の魂の容れ物に過ぎん」


「ナツメくんは……。僕の事を、

ハッキリと憶えている様子じゃ無かったからなぁ……」


「生前のお前とナツメリクの間に交友関係は無かった」


「生前って。同級生だったよ。

僕の出席番号の、ひとつ前が彼だった」


「だがナツメリクはお前の事を、

ハッキリとは認識していない。

異世界に来て年月を経たと云うお前の姿を見て、

元々、無かったお前の印象に、

新たな事実として、お前の姿が刷り込まれただけだ。

それに、お前も同じでは無いか?」


「僕が?」


「お前もナツメリクに対する認識は殆ど無いに等しい」  


「ナツメくんは殆ど学校に来てなかった。

憶えていろと云う方が無茶だよ」


「まア、お前の記憶は正しく、お前の記憶そのものだ。

肉体は違えどな」


「正直に云うと、君の話を聞いても、

だから何だとしか思えない。

僕の記憶が、

君の言う通りに混在しているものだとしても、

僕は僕だ。

今現在の事に、

それ以上も以下も無い」


「話は変わるがな」


「変えちゃうんだ。何だい?」


「儂等は、女神に対抗する力は持ち得なかったが、

女神を滅ぼす方法と、その理屈は知っておるのだ」


「へえ。言っている意味が全く分からない」


「先刻も言ったが女神は外傷に関しては不死に近い。

大袈裟な表現では無く、

此の世界中の魔法使い全員が、

持てる力の全てを使い切ったとて、

女神が死に至る事は無いだろう」


「それで?君達なら、その不死の女神を殺せると?」


コトハは少女が話を続けていくにつれ、

何か大いなる禁忌に触れている様な気がしていた。


気付けば自分の身体が少し汗ばんでいる事も、

良くない前触れとしか思えなかった。


「女神を滅ぼしたのは儂等では無いがな。

だが、女神が此の世界から居なくなった事が、

儂等の理屈が正しかったと云う証明そのものだ」


「暗喩的に、

君は僕を殺す方法を知っていると言いたいのかな?」


「さア、どうだろうな?試す価値は有るだろうが、

それよりも先に、儂はお前に殺されるだろうな」


「妙な動きをすればね。

僕はこんなところで死ぬわけにはいかない」


今までに、

どんな傷を負ったとしても死ぬ事は無かった。

痛みは感じていたが、

気絶する事も無く、傷が回復する方が迅かった。


コトハは考えた。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


リクのスキル妨害が先ず候補に浮かんだが、

彼のものは自分の能力に比べれば、

本当に刹那的なものだったし、

回復を阻害されたとしても、

妨害が途切れさえすれば、

どんなに致死の攻撃を受けたとしても、

自分の身体は再生を始めるだろうとコトハは思った。


一度、

身体が粉々になる程の魔法を受けた事があったが、

次の瞬間には何事も無かった様に傷は癒え、

相手は絶望した表情を浮かべ、

コトハの圧倒的な能力を恨み、

無力感や不甲斐なさに苛まれ、

自分の命運の先が既に途絶えている事を悟っていた。


そして、次の瞬間にコトハはその相手を屠った。


それはコトハの異能に因る、

常軌を逸脱した異様な光景だったが、

彼女にとっては既に見慣れてしまっていたものだった。


───怪物(僕の事)を殺せる方法があるとすれば、

   この少女の言う呪いとやらか。


「儂の言った呪いの事が気になるだろう?」


それはコトハの考えを見透かす様な声だった。


「まさか」


───虚勢だ。


その声には何の感情も無かったが、

もう少し巧く誤魔化せないものかと、

コトハは我ながら情け無い気持ちになった。


「女神を滅ぼす方法と、

お前に掛かる呪いは無関係ではないが、

同一のものでは無い。

同一のものでは無いが、

神の器に撰ばれたお前と、

()()()()()()()()()の、

身体と魂の両方を、

侵す病の様なものだと云う事は共通している」


「まるで()()()()だね」


「具体的に知りたいか?」


「いや、いいよ。知ったところで、

僕に掛かった呪いが解ける訳じゃ無いんだろう?

それなら、さっさと君を倒して、

此処から出る方が良い」


そう言ってコトハは魔力を身体に巡らせ始める。


「君は僕を強いと、やたらと持ち上げるけれど、

余程、僕の能力を封じ込める自信は有るらしい」


少女から決して眼を逸らさずに、

コトハは最大限に警戒をする。


「君の言う、神の力だと思った事は一度も無いけれど、

僕だって自分の能力の恩恵には感謝しているんだよ。

それが、彼女(女神)のものだとするならば尚更にね」


コトハに呼応する様に、

少女も何かを仕掛けようと動いたが、

コトハにとってそれはまるで、

止まっている様なものにしか見えていなかった。


コトハの指が、

少女の細く柔らかい喉元に触れようとしていた。


それは、決して誰の眼にも映る事の無い、

刹那と刹那の狭間の様な、

丁寧に調えられて歪められた時間の中の出来事だった。


◆◆



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