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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『ゆらゆら。』



「一体僕は君と、

その仲間達に何をしたのだろう?

僕は確かに褒められるところの少ない人間だけれど、

自分の知らないところで、知らない人間に、

知らないうちに呪われる程に恨まれているなんて、

些か不条理だとも思えるし、少し悲しくもある」


コトハは少女に不満を伝え、問い掛ける。


「お前は何もしとらん」


少女はコトハの言葉を、

バッサリと切り捨てる様に言った。


「矮小な儂等の僻みや妬みの結晶じゃな。

お前は、その被害に遭ったに過ぎん」


「尚更、不条理だ」


「小娘でもあるまいし、お前が理屈を問うか?」


「無礼だな君は」


「お前の方が強いが、年齢は儂が遥かに上じゃ。

礼を欠いたところで問題はなかろう」


「……まあいいや。君の言う呪いが、

魔法だか何なのだか、

僕にはよく分からないのだけれど、

それよりも一体、

僕を呪いたい君達は、

どうやって僕が此処(ウクルク)に帰って来る事を知り得たのだろうね。」


「呪いは呪いじゃ。お前が此処に戻る事も、

それに起因しておる」


「僕の行動を君達が制御(コントロール)出来るのかな?」


「違う。お前を支配するのは呪いだ。

儂等は呪いに接続(アクセス)する事が出来る。

お前に掛けられた呪いは、

此の土地にお前を呼び寄せた。

儂が尸童(ルカ)に会いに来たのは偶然じゃが、

お前が此処へ戻って来た事は必然じゃ」


「それで君達は、

僕を倒そうと様々な策を凝らしたと云う訳かい?」


「尸童がどうかは知らんが、

儂はお前を捕えるつもりじゃ」


「その為に、此処に閉じ込めたんだ」


「捕えてどうするつもりかは訊かんのか?」


「訊いてどうするのさ?怖くなるだけだ」


「お前でも怖いと思う事があるのか?」


「あのさ、僕を何だと思おうが君の自由だけど、

僕は一応人間だからね?」


「人間。ふふふ。

人になりたいと願う怪物の話を知っておるか?」


「挑発のつもりなら効かないよ。

好き好んで魔女と呼ばれたつもりは無いけれど、

随分と酷い事を言われてきたから」


「そうだろうな。

お前の名を聞いて畏れを抱かん者は居らん。

お前が葬った人間、魔物、魔族、亜人、

積み重ねられた其奴らの(むくろ)の上に、

お前の通り名は刻み打ち込まれておる。

血に飢えた獣と見紛われん方が無理じゃ」


「やりたくてやったんじゃない」


「本当にそうか?儂なら、

お前程に強い力を持って産まれれば、

それを行使したくなるのは当然と考えるがな」


「僕は君じゃない」


「それなら何故殺した?」


「悪い人達だと聞いたから」


「はははッ!!

まるで子供の言い分に聞こえるのう。

全ての命を奪える凶器を持った幼子を、

此の世界の大人達は野に解き放ったと云うのか。

考えてもみろ?恐ろしい話じゃないか?」


コトハは何も返さずに黙った。

無論、今までに考えていなかった事では無い。

少女の放つ言葉は、

コトハに暗い陰を落とす後ろめたさを覆う幕を、

徐々に開ける合図となって、

彼女の心臓のあたりを鋭く痛め続けた。


「思えば憐れな奴よ。

お前は自分の事を人間だと云うが、

周りの者達は本当にお前を人間と思うておったか?

異世界から来た、

無邪気で愚かな迷い子だ。

都合の良い兵器の様に思われておったのだろう」 


「……」


「初めにお前の噂を聞いた時には本当に驚いた。

儂等以外で、

世界に干渉し得る力を持った者が他に居るものかとな。

お前が葬った連中の中には、

儂等が手塩にかけて育て上げた様な者も居った。

その連中は、そんな事は露程にも知らずに、

己が手中に世界を治めたと思い込んでいた、

頭の足りん傀儡の様な可愛い奴らだったがな」


「それは悪い事をしたね。

もしかして、それで僕は恨まれているのかな」


「驚きはしたが恨みには繋がらん。

儂等がそこでお前に抱いたのは興味だ」


「へえ」


「女神の出現以降、

転移者と云う者達が多く、

此の世界に迷い込むようになったが、

そのメカニズムは女神しか知り得んし、

何故転移者に強い力が付与されるのかも判らん。

既に身体も滅び、

精神の類いが存在しているのかもハッキリとせん、

女神の残滓が、

何故そこまで世界に、

干渉し得る力が遺っているのかもな」


「女神が滅んだ?」


「疾うにな。此の世界の人間達は、

それを知らずに、

あの女の影を追い続けておるがな。

痕跡だのなんだのは、

あの女の撒き散らした馬鹿デカい魔力の残留物だ。

其処に意思などはあるまいよ」


「……」


自分が異世界に転移してきた時に女神と対面し、

暫くの間、共に過ごしていた事を、

コトハはこの少女には黙っておこうと思った。


何故だか、

それを知られる事が良くない様に思えたのだ。


「お前以前にも、

強く興味をそそられる転移者は居った。

だが、お前は剰りにも例外だ。

儂等は女神と通ずる力を、

お前に見出だしている」


「僕が?女神と?それはまたどうしてだろう」


「此の世界の多くの神は実体を持っておる。

人間の眼に触れる様な場所には姿を現さんがな。

そして、その姿は儂等と大差無い、

人間の形を取っている。

通りですれ違ったとしても、

多くの者は、すれ違った神の事を、

強い魔力を持つ魔法使いだとしか思わないだろう。

それならば、何故、彼奴等が神と呼ばれるに至るのか。

その魔法が、神性を帯び、

体内を巡る魔力が神格を携えてこそ、

人と神に明確な境界線が産まれる。

彼奴等の操る魔法には、

魔法使いの理論の範疇外に在る。

神と云う存在以外には再現不可能の、

絶対無比なるものだ」


少女の口調には、やや高い熱が込められ始めている。


「皮肉な話だが、

神々よりも旧くから存在しているにも拘わらず、

儂等には神性や神格と云ったものは備わらんかった。

ともすれば、

なまじ強い力を持っておったばかりに、

神々の魔法を模倣した醜悪のものにさえ映った。

だが、

儂等はそれさえも愉快な出来事として捉えていた。

何故ならば、神々でさえ、

儂等の存在に気付きもせずに

操った通りに踊り、在り方に苦悩し、

時には捕えられ、神性を失い、

神としての尊厳も奪われ、辱しめられ、

密やかに葬られてきたのだからな」


その口許は、

熱を帯びた果実に切り込みを入れた様にして、

溶ける様に歪み、残忍で恍惚とした唇は、

ひどく赤く濡れて見えた。


「つまり、君達が女神を殺したと云う事かい?」


「違う。そもそも、

アレは四肢が千切れようが、

心臓をくり貫かれようが、

たとえ頭を吹き飛ばされたとて、簡単に死ぬ事は無い。

()()()()()()

お前に備わっている『自動で回復するスキル』、

その能力の根源は女神に依る由来のものだ。

幾ら魔法だとは云え、

お前の能力は剰りにも異能だと考えた事はないか?

()()()()()()宿()()()()()()()

一部を切り抜いて、性質を変換させ、

仮初めの形で付与させる事は出来たとしても、

お前の様に神の魔法を、

そのまま行使する事は出来ん。

お前の肉体は人間だが、

その中に宿るのは女神の力そのものだ」


「一体、何を言って……」


「未だ気付かんか?女神は滅んだが、

その魂と魔力の断片は、お前の中に在る」


「そんな事、彼女は何も」


「やはりな」


心底、愉しくて堪らない、

と云った笑みを少女は浮かべる。


「お前、女神に逢ったな?」


「……」


「隠さんでも良い。それを儂が知ったとて、

どうする事も叶わんし、お前に対する興味は変わらん」


「ちょっと待って欲しいな。

君の云う通り、

僕は確かに彼女(女神)に逢った事がある。

だけれど、彼女が僕の中に宿っただって?

そんな事があったなんて、

僕は一切知らないのだけれど」


「ふむ。やはり記憶が曖昧になっておるのだな。

ようく思い出してみろ」


「思い出せと云われても。

僕は彼女と居た時の事があまり……」


「その時の事だけではない。

此の世界へ来る前の事もだ」


「この世界に来る前……」


「どうだ?()()()()()()()()()()()()()


「いや、そんな事は……」


「ふふふ。取り乱す事は無い。

お前が思い出せない事は当然の事だ、

お前は女神が記憶を操作したのでは無いかと、

そう思っているようだが、

本当のところは違う。

そして、その本当の理由は至極簡単だ」


「……」


自分が激しく混乱しているのだと、

コトハは考えた。

少女の言葉の全てに、

耳を傾ける必要は無いと思っていたにも拘わらず、

何故か受け入れてしまいそうになる自分が、

正気を保てない程に混乱しているのだろうと。


そして、精神の均衡、と云う言葉が、

抽象的な像を結び、ボンヤリと頭に浮かんできていた。


金属で出来た秤に、

錆びた分銅を均等に載せてゆく。


「中央の魔女、お前の本当の正体を教えてやる。

お前は異世界(ニホン)から来た転移者などでは無い。

お前は異世界で命を落とし、

魂に一部の記憶を記録したまま辿り着いたのだ。

そして、お前は女神の器に撰ばれた。

コトハ。お前は此の世界で産まれたのだ。

他の転移者とは根本的に違う。

お前は転生者(リンカーネイト)だ」


均しく載せた筈の分銅が、

僅かな誤差に因って、狂った様に秤を揺らす。


◆◆

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