『信頼を寄せる。』
◆
(グニグニしてて柔らかかったな)
リクは惚けた様な顔で、
そんな事を考えていた。
「『ヤダヤダ言ってた割には、
なんだかんだ乗り気だったじゃねぇか』」
リクの背後から声が聴こえる。
「うるせえな。つーかお前、人前で喋んなよ?」
そう言ってリクが振り返ると、
そこにはカワウソと何かを足して2で割った様な、
羽の生えた生物が宙に浮いていた。
「『喋る使い魔なんて珍しくも無えぞ?』」
「見た目と声が合ってねえ」
「『オメーが意識を貸したくねえって言うからだろ?』」
「たりめーだ!!」
ミズチの服を脱がして、
彼女の下着姿を見た後に、
リクは躊躇して手が止まってしまい、
痺れを切らしたリクの中の声が意識を乗っ取ろうとしたのだが、
それを拒否され更に、
アレコレと頭の中で指示されるのをリクが嫌がった為、
リクですら、その存在を忘れていた、
ウーたんに、
その意識を移していたのだ。
その後結局、
ウーたんの身体を乗っ取った彼らから、
事細かく手ほどきを受ける事になったのだが。
「『まア、魔力を貰うのは成功だな。
アメビックスの術式に入り込んだものの、
どこかのタイミングで弾かれるかと思ったけどよ、
もうアメビックスの支配が及ばなくなっちまった。
使い魔に供給してる魔力より、
お前の魔力の方が量が多かったんだな。
あの女、思ったより魔力を持ってやがった』」
「確認だけどさ、死んでないよな?」
「『死んでねえ。つっても、
殆ど根こそぎ奪ってやったからな。
しばらく足腰立たねえ』」
リクはミズチに閉じ込められた部屋から、
既に脱出していた。
しかし、
扉を出ても、そこには無数の扉が立ち並ぶ、
長い廊下が無限に続く様な、
見知らぬ空間が広がっていた。
「『想定内だけどな』」
「ほんとかよ?もう随分歩いてんぞ?」
「『アメビックスの工房も一緒だったろ?
空間拡張魔法だ。
似たような景色ばっかで気が滅入るかもだけどよ、
この手の魔法は術者が近くに居ねえと、
底は直ぐに見えてくるもんだ。
俺達が部屋を出ると自動で発動する様に、
ミズチがトラップを張ってたんだろうな。
だけど、こりゃ装置で張られた魔法だ。
装置を壊せば消える』」
「その装置までが遠くね?」
「『うるせえ野郎だな。黙って言う通り進め。
そこの右手のドア開けろ』」
「ほんとに合ってんのかよ……。
おんなじ景色ばっかで飽きたんだが?」
「『オメーこそ、ほんとに感知出来てねーのか?
基礎魔法も覚えろ。死ぬぞ』」
「出来てねえよ。どうやんの?」
「『呆れたな。今まで散々見てきただろうが』」
「教えろよ」
「『出来るからやってみろ』」
「だから、わかんねえって……」
そう言いながらもリクは、
なんとなく眼を閉じて、
眉間に皺を寄せながら、
某レーダーを頭に思い浮かべ、
眼に見えない気配を探るイメージをしてみた。
声の言う、
右手のドアの奥の部屋、
映像的なものは全く浮かばなかったが、
熱源が其処に在る様な、
身体の奥を少し波立たせる気配を感じる事は出来た。
「コレ?この何か熱そうなやつ?」
「『それだな。
でも今後は熱いか冷たいかは考えんな』」
「何でよ?」
「『逆感知って魔法も在るからな。
こっちがイメージした感覚を掴まれて、
魔力の質が読まれる。
そうなると厄介なんだ』」
「どうなるん?」
「『まア、魔法使いとしちゃ終わりだな。
思考のパターンから、魔法の系統、
能力の手の内まで全部バレちまうかも知れねえ』」
「そんなん説明も無しにやらせんなよ」
「『オメーのヘボい感知じゃ、
未だ魔法の体を成してねえから平気だ』」
「皆、そんなの考えながら感知してたのか」
「『魔法使いってのは最初に神経をやられるからな』」
「怖えーよ」
「『だけど覚えろ。
見た能力を再現しようとするのがオメーの強味だ。
本来なら短い詠唱が要るが、
スキルレンタル持ちのオメーなら端折れる』」
「俺、スキルレンタル使ってねえぞ」
「『馬鹿だな。
ステータスが上がってんのが判んねえか?
それに、さっきあんなことしただろうが?
魔力で支払える対価なら、
第三の声が知ってる魔法は使える』」
「マジか」
「『でもミズチも言ってたけどな、
オメーの能力はそれで百点って訳じゃねえ。
一人でシコシコやって満足すんなら差し支え無えが、
対人でスキルレンタルを成功させなきゃ、
俺達が居る意味も無え』」
「つってもなぁ」
「『対価』」
「は?」
「『ミズチの話聞いてたか?
要は対価だ。スキルレンタルの肝は、
てめえの魔力の消費だけじゃねんだよ。
相手に支払う対価を考えろ』」
「それがよく解んねえだけど」
「『あのなぁ、対価ってのはな、
要求に釣り合う報酬の事だろ?
相手の要求を見極めろ』」
「……はいはい」
「『何だお前?俺の事疑ってんのか?』」
「いんや。でも相手の要求て?
そんなん敵が教えてくれるんか?」
「『そりゃ当然の疑問だな。
そこでだよ。もう一つの声を呼ぶ必要があるな』」
「第五の声?」
「『そうだ。オメーなら出来るだろ?
ナビゲーター、インストラクター、
アンサイクロペディア、スキャナー。
自分に都合の良い自分を造り続けてきたんだ、
オメーなら出来る。
造れ。相手の要求を知る声を』」
「また無茶な」
「『無茶なもんか。
お前なら出来る。信じろよ。
俺はお前なんだぞ?
自分で自分を信じなくて、
俺達の事なんて、
他の誰が信じてくれんだよ?』」
「……」
◆◆
♪英リサ『APT.』
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