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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『ステレオ。』



───ガッ!!


リクが荒々しく脚を蹴り上げると、

質素だが頑丈そうな机が、

見るも無惨に木っ端微塵となり、

破片を宙に撒き散らすと、

その一連の流れの合間を掻い潜る様に、

リクの身体はミズチに接近していた。


一歩か二歩を大きく踏み出せば、

身体同士が触れ合いそうな程に狭い部屋である。


リクの指は、壁に背を向けたミズチの肩を掴み、

彼女の身体中に膜状に張られた防御魔法を、

彼女ごと振り回す様にして、

そのまま乱暴に引き剥がした。


ミズチはリクの動作の逆向きに魔力を巡らせて、

体勢を崩した自分の身体が受け身を取れる様にしたが、

それを見透かす様に倒れかけたミズチの身体を、

リクは靴の底で蹴り飛ばして、

地面に叩きつけられたミズチの身体を踏みつけた。


激しく打ちつけられる音がして、

その反動がリクの脚に伝わったが、

リクは追い討ちをかけて、

その反動を押さえつける様に、

ミズチの身体を踏み砕こうと脚に魔力を込めた。


しかし、その瞬間には、

リクは自分の脚に込めた魔力が、

霧散する様に消失してしまった事に気がついた。


魔力の込められていない攻撃でも、

男の脚で踏みつけられる事に違いはなかったが、

剥がされた魔法を再び、

その身に纏わせたミズチには、

ダメージを負わされる様な代物では無くなっていた。


「『気色悪ィ』」


そうやってリクは呟いた。


「でしょ?ちなみに蹴りも効いてないからね」


「『当たってなかったか?』」


「全然力入ってなかったよ?言ったでしょ?

アンタは力の使い方を忘れちゃうんだって」


リクはその言葉には反応せずに、

ミズチの顔面を拳で殴りつけようとした。


しかし、その拳はミズチには届かなかった。


寸前のところで、

リクの手首をミズチが掴んでいたのだ。


そして、リクの顎に掌底が叩き込まれた。


鉄の塊を振り回す様な音がした後に、

リクは身動きも取れないうちに、

顎に凄まじく重たい一撃を喰らい、

その身体は吹き飛ばされていた。


彼は仰向けに倒れ、

すぐに立ち上がろうとしたものの手や脚が震え、

立ち上がる為についた腕に力が入らずに、

滑る様にして再び崩れ落ちてしまった。


身体(リク)が脆いんじゃない?

あたし女だよ?少しオーバーだって」


「『()かせ』」


そう言ってリクは血の混じった唾を吐き捨てた。


「『お前が今、俺を殴るのに使ったのは魔法だ。

魔法使いに男も女もあるかよ』」


「あはは。怖。だとしたら、

手加減はしてくれないって感じ?」


「『オメーならすんのか?』」


そう言った次の瞬間には、

リクは立ち上がり、

再び凄まじい疾さでミズチに掴みかかろうとしたが、

その腕が到達する事は無く、

ミズチの放った前蹴りが、

リクの鳩尾(みぞおち)に浴びせられ、

怯んだリクは再度、顔面を殴りつけられた。


信じられない重量感と、

獣の様な荒々しさがありながらも、

相手な致命傷を狙って急所を的確に打つ、

訓練された精確な一撃だった。


それに加えて、

強化魔法で装甲を纏った様な強度と化した拳である。

魔力を帯びた攻撃を魔力無しで防ぐ事は難しい。


身を護る防御魔法を張ろうにも、

リクには魔力を操る事が出来なかった。


正確にはミズチの言う通り、

文言を詠唱し術式を構築させ、

魔法が発動する迄の最中に、

魔力の操作を忘れてしまっていたのだ。


そして、

試しに再度、詠唱を行おうとしたが、

今度は詠唱の文言を口にする事が、

どうしても出来なかった。


思い浮かべていた筈の言葉は、

意味の無い記号の羅列に変わり、

やがて、言葉を思い浮かべていた事すらも、

気が抜けば忘れてしまいそうになっていた。


「……およよ?意外と勝てっかも知んないね?」


「『クソうざってえな、オメーの魔法。解け』」


「解くわけ無いでしょ。てか、アンタ、

魔力は高いけど、戦い方は雑じゃない?」


「『彊郭(きょうかく)魔法だけじゃ無ェ。

(いみな)の付与を使って、

魔法に因る精神干渉の効力を、

限度ギリギリまで上げてやがる。

その所為か頭も痛ェ。解け』」


「解かないって。てか、解いたとしても、

何か勝てそうな気もしてきたな。

アンタ何者なの?

リクの新しいお友達(スキル)って言ってたけど、

まさかホントに産まれたてホヤホヤって事?

それにしちゃ、色々と詳し過ぎるか」


「『説明しても解んねェだろうから教えねえ』」


「あっそ。ま、いいよ。

そんなにゆっくりするつもりも無いから」


ミズチは詠唱し、散乱したテーブルの破片を掴むと、

更に細かく握り潰し、

魔力が込められ弾丸の様になったそれを、

リクに向けて放った。


───ヒュッ!!


ただの木片が風を切る凄まじい音を立てて、

魔力を帯びた光を放つ攻撃魔法へと変わった。


リクはミズチの放った攻撃を、

その場から一歩も動けないままに、

全てその身に受ける事となってしまっていた。


「『痛ェッ!! クソが!!』」


威勢の良い声を上げたが、

ミズチの放った破片は、

リクの顔や身体のあちこちに痛々しく突き刺さり、

噴き出る様にして彼の全身は出血をし始めた。


「虐めるつもりは無いんだけど、

アンタのお陰かな?リクのステータスじゃ、

そんな傷を受けてちゃ死んでる筈だよね」


「『オメーの魔法がショボいんだよ。

尤も、諱やら彊郭魔法の所為で、

()()()()()()()()()()()()

話は別だけどな?』」


「知ってたんだ?じゃア悪いけど、

ショボい魔法を何発か撃たれて、

苦しんで死ぬ事になるけど良い?」


「『良いわけ無ェだろクソッタレ。

この部屋に掛かってる魔法を解きゃ、

誓約も無くなってデカい魔法撃てんだろうが。

解けよ。こんなんじゃ、コイツ(リク)の身体が死んでも、

俺は殺せねえ』」


「どういう仕組みなんよ?

術者が死んじゃったら、

スキルもクソも無くなるだろうに。

自我を持つ魔法が有るのは知ってるよ?

だけど、自我を持った魔法は、

術者の手から離れて独立する事が出来る。

アンタみたいに術者に寄生してる形じゃ、

宿主が死んじゃうのはマズくない?」


「『そりゃオメーの把握出来るだけの世界の話だろうがよ?

ンなちっぽけな匙加減の理屈を、

俺に押し付けんじゃねぇよ』」


「はいはい。あたしが解んないのは判ったわ。

今でも充分、リクは死んでてもおかしくないけど、

遠慮無く撃たせてもらうね」


「『やってみろよ』」


───今のうちに仕留めなくてはいけない。


ミズチの手のひらは、

じんわりと滲み出る汗で、

固く握りしめた指と指の間が、

滑りそうな程に濡れていた。


優位に立っている筈なのに、

身体を小刻みに震わせ、

悪い想像を無理矢理に浮かばせる、

拭い去る事の出来ない感情は恐怖だった。


リクの言う言葉の意味も、

まるで理解出来なかったが

それを一笑に付す事は、

そのまま死に直結させる事になるのは明らかだった。


(術者が死んでも平気なんて意味わかんない。

魔法って何?って話になるじゃん。

……考えるな。別に本当の事なんて知らなくて良い)


ミズチは再び木片に魔力を込めてリクに放ち、

防御を忘れたリクがそれをまともに喰らうと同時、

続け様にリクの下腹部、

丹田と呼ばれる辺りに直接、拳を叩きつけた。


「『カハッッッ……!!』」


リクが呻き声を上げ、

その場に膝から崩れ落ちるより先に、

ミズチは既に次の魔法の詠唱を終えていた。


「頭ブチ抜かれちゃったら関係ないでしょ」


───ズドンッッ!!!


砲撃の様な音と共に、

硝煙と、その匂いが部屋に充満していく。


魔法に撃ち抜かれたリクの後頭部は撃ち抜かれ、

ミズチはリクの位置から眼を離さずに、

後退りしながら一旦距離を置いた。


手応えは有ったし、

何よりリクに攻撃魔法を防ぐ術が無い。


それでも念の為に、

本当に戦闘不能になっているのかを、

目視で確認するつもりだった。


(出来るだけの出力ギリギリで撃ったもんね、

魔法防御無しなら頭粉々になってるっしょ)


魔力の感知をしても、

微々たる量すらも感じ取る事は出来ず、

それが魔力の操作が出来ない事が要因では無く、

リクの生命が、

既に死の淵を越えようとしている事を意味した。


しかし、何かが変だと、

ミズチは自分の直感が騒ぐのを堪えきれなかった。


(早く……。早く煙消えろ。

死体、死体を見れば少しは落ち着くから。

そしたら魔法解いて……、

装置解除して、部屋出て……)


思考の整理を捗らせる為に、

深く息を吸い、

煙の匂いに少し()せ、

咳払いしながら眼を凝らした。


中々、煙は晴れない。


───()()()()()()()()()()


ミズチは素早く詠唱を終えて、

煙の中心に向かって、

弾幕を張る様に攻撃魔法を撃ち続けた。


しかし、その最中に、

ある事に気づいた。


───()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


ミズチの意識に張られた、

薄膜の様なモノが剥がされていく感覚がした。


「『気色悪いだろ?オメーの魔法(精神干渉)』」


声がした。


それは先程の声と呼吸を合わせる様に、

重なって聴こえた。


「『ブッ壊れちまって、もう聞こえてねぇか。

調節わかんねえから、思い切り喰らっちまったな』」


煙は既に消え失せていた。


リクはミズチの腕を掴んで扉まで引き摺ると、

その指を部屋に掛けられた魔法の装置を解除する為に、

装置の核となる部分に乱雑に押し付けた。


「『俺の事を知りたがってたが、

気にしねえようにしてただろ?

お前は知ろうとした方が良かったんだ』」


ミズチの返事は無い。


「『俺の名前は第三の声(アンサイクロペディア)』」

「『俺の名前は第四の声(スキャナー)』」


リクのものでは無い、二つの声が、

重なり合いながら、そう聴こえた。


◆◆


♪紡木こかげ『夢をかなえてドラえもん』


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