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第二十一話『交渉。』


きっとツァンイーは嘘をついている。


ロロはそう思いたかった。


さっきは村の人たちがどうなっているか知らないと言っていた。


ツァンイーの要求を無視してユンタを助けたい。


だけど、もし、この女の言う通りだとしたら。


きっと自分は激しく後悔をするだろう。

頭の悪い自分にはどうしていいかわからなかった。


「あ………あの………。じ、自分………。え………え…えーと…えーと」


ロロはいつもよりも更にうまく話す事が出来なかった。

激しく狼狽するロロにツァンイーが迫った。


「ロロ!どうした!?早く決めろ!

お前は一度人間どもを裏切ったんだからな!

また裏切るのか!?

お前が助けてくれると思って待っているかも知れないぞ?

村人たちに謝りたいと言っていただろう?

だからツァンイーを疑わないで早く助けろ!とツァンイーは思う」


ユンタは頭をガリガリと掻きながら、溜め息をついた。


「ロロ子。悩ませてゴメンな?」


ユンタは申し訳なさそうにロロに謝った。


「ユ、ユンタちゃん………あ、あ、あ、あの……じ、自分…じ、自分………ご…ご…ご…ごめん………」


「わかってるから大丈夫。落ち着きな?謝んなくていいから」


ユンタはそう言ってロロに優しく微笑みかけたあと、ツァンイーを汚いものを見るような目で冷たく見下ろした。

腕と鎖骨を折ってやった今、この女にさっきまでの素早さは無い。

だが戦闘力をまだ完全に削いだわけでもない。

簡易発動魔法(コモンルーン)を多用してたのも魔力を温存する為で、まだこの女に確実に魔力は残っている。

ユンタは警戒を続けながらも、勝利を確信している。

だが油断は禁物だった。

この狡猾な女にうかつに近づけばまだ何かしかけてくる可能性も決してゼロではないことはわかっている。

だが、慎重に、このままコイツに猿轡を嵌めて、魔法を使わせないように拘束してからスイたちのところへ向かってもう一人の男を倒して村人を解放させる、それが1番良い手だ。


もう魔法封じの効力も切れる筈だ。

イタチの最後っ屁でこの女が何か仕掛けてきても返り討ちに出来る筈だ。

ユンタは自分にそう言い聞かせて、猿轡にしようと自分のTシャツの片袖を破いた。


「お、おい亜人!お前は動くな!!お前が動くならさっきの交渉は無しだぞ!?とツァンイーは思う」


「ウザ。お前喋んなって。どーーせ、お前にゃ村の人たちを解放する権限はねーーーんだろ?」


「ロ、ロロ!!この女を止めろ!!!お前がツァンイーを裏切ったとゴアグラインドに言うぞ!!!とツァンイーは思う」

ツァンイーは狂ったようにロロに怒鳴った。


「え……え、え……ユ、ユンタちゃん……じ、自分どうしたら……」

ロロはポロポロと涙を流していた。泣きながら縋るような目でユンタを見ながら。


ユンタはそれを見て不覚にもウルッときてしまった。

昔の事などユンタは本当に気にも留めてないつもりだったが、何故だか、ロロの事を自分の過去に重ねてしまっていた。


この子は救いを求めているんだ。

だけど、誰に救いを求めれば良いのかわからないんだ。


出会ったばかりだが、この娘が苦しむのを見るのは自分には耐えられないかも知れない。


常に自分を苛み、責め続けた結果、この娘はもう限界なんだ。

そしてこの女が何かを吹き込む度、ロロは苦しむ。悔しいが自分ではそれを取り除いてやることが出来ないのだろう。

自分が間違っていた。

戦略としては、さっきの考えで間違ってない。

だけど、間違ってるとか間違ってないとかの話ではないのだ。

ゴアグラインドもおそらく似たような性格だろう。

人間たちに迫害され続けた、ロロの猜疑心と良心と責任感を煽って、優しいロロの心につけ込んで、目の前に存在する間、この娘を苦しめ続けるのだろう。


そう思うと、本当に生かしておいてはいけないと感じてしまい、今にも武器を振り下ろして殺してしまいそうになったが、ユンタは思いとどまった。


そして優しい口調でロロに言った。

「ロロ子。悪いんだけどさ、コイツを回復させてやってよ」


ロロは自分の耳を疑い、ユンタに聞き返した。

「ユ、ユンタちゃん……?で、で、で、でも……そ……そうしたら、また、ツ、ツァンイーさんはユ、ユンタちゃんを傷つけるッスよ……?」


ユンタはニヤリと笑って言った。

「ウチに任せろ。

さっき出会ったばっかで無理な話だけど笑 

だけど、約束する。

ウチはロロ子に絶対嘘つかねーーー。

任せろってのを、信じるか信じないかはロロ子に任せる!!」


そしてツァンイーを見て言った。

「おい、使い魔。ウチからも条件がある」


ツァンイーは脂汗をかきながらユンタに聞き返した。

「なんだ?ツァンイーが不利になる条件なら呑まない。それにツァンイーをこれ以上攻撃するなら村人は帰ってこないぞ?とツァンイーは思う」


ユンタは笑った。

「あのさーーー……。お前なんか勘違いしてねーか?

ウチがもし村人のことなんか関係ねーーって言ったらどうすんだよ?

ウチは亜人だぞ?

知らねー人間のことなんか知ったことかよ。

その可能性考えてないのかよ?魔族のくせに頭悪いな?笑 

そもそも交渉にすらなってねーんだよ。

それに村人の安全の保証してるっつー証拠見せてみろよ?

それがねーんなら、ウチはお前の話を信じねー。

どうなろうと殺す。

それからこっちの条件呑めねーってんなら、今言った証拠出せ。出せねーんなら一緒だ。

殺す。

ただし条件呑むんなら、殺さないでおいてやる。決めろ。十数えるうちに決めないと、折れてないお前の腕と足を順番にへし折る。

1……2………」


「ま…待って!!ツァンイーには村人たちを閉じ込めてるところはわからない!!ゴアグラインドがやったから!!とツァンイーは思う!!」


「3……4……」


「わ、わかった!!ゴアグラインドにツァンイーからうまく言うから!!絶対うまくやる!だからやめろ!!とツァンイーは思う!!」


「………で?……5……6……」


「の、呑む!!お前の条件を呑むからやめろ!!とツァンイーは思う!!」


「………よーーーし。

そんなら腕と足へし折るのは、やめてやる。

その代わりこっちの出した条件はちゃんと守れよ?

お前がそれを反古にしたと見なした瞬間に、ウチはどんな手を使っても必ずお前を殺す」


「わ……わかった……。約束する……。だから殺さないでくれ……。とツァンイーは思う」


ツァンイーは凄まじい恐怖におののいていた。

この亜人は言っている通りの事をするし、

いざとなれば本当に村人のことを関係なしに自分を躊躇なく殺すと気づいた瞬間、身体の震えが止まらなくなっていた。


顔は笑っているのに、ユンタの深い瑠璃色の瞳は凍りつくような殺意を持ってツァンイーを決して逃さないように捉えている。


「よし。約束したからなーーー?」


ユンタが視線を逸らさずに、口元だけは笑ったままツァンイーにそう言った。


ツァンイーはもう何も言わずに頷くだけだった。


「お前はもうロロに嘘つくな。この娘を傷つけんな。

調子のいい言葉でこの娘を惑わすな。

それから、怪我治ったらウチらの前からとっとと消えろ。

二度とこの娘に近づくな」


「え?」「へ?」


ロロとツァンイーが揃えて声をあげた。


「そ、それだけでいいのか?ほ、本当にそれだけでいいのか?とツァンイーは思う」


「いーよ。守れよ?」


「わ……わかった?そ、その代わり!ツァンイーがそれをするんだから、ロロ!早くツァンイーに歌え!とツァンイーは思う!」


「え……?え……?ユ、ユンタちゃん……?い、いいんスか?」


ユンタは親指を立ててロロに突き出した。


「いーーーよーーー」


ロロは迷った。ユンタがなにを考えているのか本当にわからなかったが、勝算があってのことなのだろうか?ツァンイーは確実に約束など守らないと思う。自分は本当にユンタの言う通りにしていいのだろうか?


ロロはそっと答えを求めるようにユンタを見た。


それを見てユンタは何も言わずに、ロロを見て笑った。


ロロは唇を固く一文字に結び、リュートの弦を爪弾き始めた。

そして震える声だったが、芯のある強い声で歌い出した。


「♪霧も晴れた 大地の上で 人も獣もみな揃って 或いは全ての命たちが 空の上で鳴る鐘の音に 常闇さえ なにひとつの災いさえ 誰一人も 畏れなくなった」


───『天空の鐘とワルツ(ケアルフォーワルツ)


ロロが歌い終わるとツァンイーの身体が淡い光に包まれていた。ツァンイーはニヤリと笑って、折れた腕が動くのを確認し、底知れない悪意に満ちた表情を浮かべていた。


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