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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『獣と対峙するということ。』





(簡易的な発動装置って云っても、

何せ魔女に借りてるやつだからなぁ……。

出力を切るまで半永久的に止まらないだろうし、

鑑定所の他の職員が気づいて来たとしても、

外側からは装置を破壊しないと止まんないよね。

魔女の魔力が込めてあるものを、

壊せるヤツなんて此処には居ないしなァ。

コトハも魔女が別の場所に移しちゃってるし、

参ったな、救援が無いのはコッチも一緒かも。

魔女が気づいてくれるかな?

……気づいても来ないかも知れないね)


そうやってミズチは自問自答の言葉を反芻し、

仮に危機的な状況に陥ったとしても、

魔女が自分を助けに来る事などは、

絶対に有り得ないだろうと思い始めた。

自分は捨て駒、若しくは、

それにすら満たない存在なのだろうと。


(魔女(あいつら)にとっちゃ、

()()()()()()()()()()()()()()()()

今はこの子(リク)と、コトハがそうだろうね。

あたしが別に敗けて死んだって、

リクを玩具に出来るなら、

いや、コトハだけでも手に入れば、

後は、どうだって良いのかもね)


しかし、そうだとしても、

このまま、ただ此処でジッとしている訳にもいかない。

反撃を覚悟で、リクの動きを再び封じて、

この部屋から出なくてはならない。


先刻は勘違いだとも言い切れなかったリクの魔力を、

今は確かに感知する事が出来る。


失神して微動だにしないリクが、

魔力を練っているのだ。


(……しかも、デカい。

リクのステータスの値じゃ、

とてもこんな強い魔力は無い筈なのに……。

やっぱり鑑定の時に、何か仕掛けられたんだ)


「驚いた。まさかリクに、

こんな風にしてやられるなんてね?

仕掛け(タネ)は何?

寝たフリは良いからさ、さっさと起きなよ。

どうせ、あんたも、

あたしを倒さなきゃ此処から出られないんだからさ」


一瞬の沈黙の後、

リクの身体はよろめきながら立ち上がり、

喉の調子を確認する様にゆっくりと咳き込んでいた。


「『オメー間抜けだな』」


その声を聞いた瞬間、

ミズチは、迂闊に声をかけてしまった事を、

後悔する様な、溢れてくる不安に、

瞬時に思考を絡め捕られてしまった気持ちになった。


ソレは呼び掛けてはいけないものだったのかも知れない。


「……あんた誰?露骨に声が違う。

リクのスキルが喋ってんの?」


立ち上がり、背筋を伸ばしながら、

姿勢を正すリクの顔を見て、

ミズチは途中まで言いかけた言葉が、

喉の途中で形を為さずに潰れてしまった様に感じた。


「『見りゃ判んだろうがよ?

意外と頭は回らねえのか?』」


挑発する様な、ふてぶてしい口調のリクの、

その瞳は白眼が塗り潰された様に真っ黒で、

顔中に小さな掻き傷の様にも見える、

無数の文字で構成された、

蒼黒い紋様が浮かび上がっている。


まさしく異様だった。


口元は吊り上がり、嗤っている様に見えたが、

動いてはおらず、

その声は何処からともなく、

おどろおどろしく部屋の中に響き渡り、

かすかに空気を揺らし、

不気味に漂っていた。


「『転移者で、魔女の手先で、

色々と事情に詳しいみてえだし、おまけに顔も無え。

属性多すぎんか?

しかも弱っちいわけでも無えのに、

女神の痕跡を捜索するパーティーに加わっても無え。

そんな存在が我が物顔で彷徨いてる。

この国はどこまで管理者とズブズブなんだろうな?』」


「答える義理は無いと思うけど?」


「『罠を張ってたとは云え、

単体でコトハに仕掛けてくるくらいだ。

よっぽど信頼が篤い、実力が有るって事だ。

魔女に(いみな)でも与えて貰ったか?』」


「……あんたこそ、随分詳しいんだね?」


リクでは無い、その声は続ける。


「『諱を与えられると、

自分で好きにいじくり回せる、

仮想のステータスを手に入れられるんだったか?

その代償に、諱を知られてはならない。

……女神の、授ける魔法に肖った模造品だな。

ステータスの改竄は、あくまで改竄でしか無え。

無いものを無いところから産み出せない』」


「ご丁寧な説明をどうも。だけど、

あたしをあんまり舐めない方が良いと思うけどね?

あんたが魔女の事をどれだけ知ってるのかは、

判んないけど、この部屋は、

仮にも魔女の魔法で閉ざされてる。

特定の閉ざされた空間の中で、

殆ど最強になっちゃう魔法があるの知ってる?」


「『ハッ』」


掠れた息遣いの、嘲る声色だった。


「あたしの顔を認識出来ないでしょ?

本当は見えてんだよ?

でも、この狭い部屋の中じゃ、

誰もあたしの顔を憶えられない。

見てもすぐに忘れちゃう。

これがどういう事か解る?」


「『オメーの顔を憶えられないだけじゃ無えだろ?

部屋の内部の景色も、色も匂いも憶えられ無え』」


「そ。脳の海馬に干渉してる。

単発的な記憶障害を繰り返し起こさせてる。

そうするとさ、

魔法ってのは結局、記憶するものだからね。

詠唱を忘れちゃう、

術式の構築が出来なくなる、

と云う事は魔法が使えなくなっちゃう」


「『術者のイメージを強制的に行使する、

絶対不可避の彊郭(きょうかく)魔法。

呆れたもんだな?デカい口叩く割には、

地味な精神干渉に振り切った使い方しやがる』」


「つっても、魔法使いにゃ致命的でしょ?

それに、魔法だけじゃ無いよ?

あんたは身体の使い方も忘れちゃうかもよ?

あたしに物理攻撃をしようとしたって、

その拳は届かないかも知れない」


ミズチは精一杯取り繕って、

不敵に言い放った。

時間を稼ぐ事に意味が有るのかはわからなかったが、

森で獣に出会した時に、

獣に背を向けて逃げる愚行は避けるべきだと考えた。


リクの姿をした何かは、

間違いなく、

禍々しい本性を身の内に宿した獣に違いない。


此方の思惑も行動も、その他の何もかも、

獣にとっては、

その理屈など牙や爪で引き裂くだけの、

肉と骨と変わりは無いのかも知れなかったが。


◆◆




♪理芽『ラヴソング』

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