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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『狂言、或いは萌芽。』



───管理者に逆らっても無駄。


ミズチの言葉を聞いても、

リクには、まるで響いてはこなかったし、

だからどうした?

と、言い返してやろうかとも思えた。


戦ったとしても勝てる算段は無く、

どう考えても格上の相手に対して、

どうしても屈する気持ちにならなかったのは、

リクの慢心から来るものでは無かった。


今やウクルクに居ても安全では無い状況で、

コトハは別の空間に移動させられて、

スイ達とも離れたままで、

救援が来る事は、まず考えられなかったが、

彼はミズチに身動きの取れない状態にされても尚、

思考の一部が自分でも驚く程に、

冷静に動き回っている事を自覚していた。


「ま。つってね、

リクが簡単に理解してくれるとも思ってないけどね」


そうやってミズチは軽やかな口調で言う。


「だけど、必ずリクは後悔するよ?

この世界の事も厭になって嫌いになるかも知んない」


「決めつけんな」


「なるんだって」


「なるよ。特異な能力だけど、リク弱いもん」


───ゴキャッッッッッ


突然、ミズチは足に込めた魔力を高めると、

何の容赦も無く、リクの左の手の甲を踏み抜いた。


千切れて、砕ける様な気味の悪い音がしたが、

リクは、あまりに突然の事で一体何が起きたのかを、

把握するまでに少しの時間を要した。


しかし、その少しの時間は、ほんの一瞬の間で、

彼は焼ける様な激しい痛みに、

身体を捩らせながら悲鳴を上げる事になった。


「痛っっっっっってぇぇぇぇぇ!!」


「そりゃそうでしょ。痛くしたんだから」


「……ざけんな!!」


「頭の悪い餓鬼を躾するにはさ、

分かりやすく痛めつけてやるのが楽なんだよね」


そう言うと、

片足でリクの背中を踏んで押さえつけたまま、

もう片方の足を軽く上げて、今度はリクの右手を、

先程と同じ様にして勢い良く踏み抜いた。


「……ッッッッッ!!」


リクの両手は、

あっという間に晴れ上がり、

黒ずんだ紫色に変色していった。


「魔力も練れないでしょ?

対魔法使い用の近接戦闘術でね、

柔道で間接を捉えるみたいな感じかな、

魔力の流れを遮断して魔法を封じて、

おまけに身動き取れなくする技」


激しい痛みに、リクは歯をきつく食い縛ったが、

その拍子に舌や唇の端を噛んで皮膚が破れ、

出血した口の中には血と涎が溢れた。


「ゲホッ……!」


口の中から鼻に向かって抜ける血の臭い。

一定の間隔で打ち付けられる両手の鈍い痛みが、

燃える様にひりつく感触の癖に、

彼の頭から爪先までを凍てつかせる様に強張らせた。


呼吸を整えたかったが、

強く踏みつけるミズチの脚は、

床にリクの身体を縫い付けてしまい、

深く息を吐こうとしても、

無慈悲に肺を圧迫されるだけだった。


「ま。別にリクに恨みが有るんじゃないけどね。

中央の魔女と戻って来た時期が悪かったね。

尸童(よりまし)と、うちの上司が、

たまたまウィソ()に揃っちゃってたから。

()()()()()()()()()()ってのは、

随分と前から用意してたみたいだし」


「……コトハ(中央の魔女)に何するつもりなんだよ」


今にも噛みつきそうな鋭さはあったが、

リクの言葉は切れ切れで、

顔色は青醒め、額には脂っぽい汗が滲んでいる。


「心配しなくていいよ」


ミズチはリクに言った。


「魔女が2人居るって云っても、

尸童も、あたしの上司も、

他の魔女に比べたら穏健派だからね。

つっても、面と向かった時に、

中央の魔女がどうでるかはわかんないけどね」


「穏健派。あんたの行動見てると、

とても信じらんねえんだけど?ワロタわ」


()()()()()()()()()()

先刻も言ったでしょ?

全員ちゃんとイカれてんだからね」


「それ聞いて安心したわ。

こっちも容赦しなくて良いんだもんな?」


「この状態で、よくそんな減らず口が叩けるね?

技能賃貸(スキルレンタル)の副次作用の、

発動妨害で、どうにか出来ると思ってる?

あたしの魔力が途切れたところで、

両手砕かれたリクに何が出来んの?」


「へっ! だろうな?

俺の妨害は、

あくまで誰かとツーマンセルで組んでこそ、

真価を発揮出来るんだよ、俺は弱いから。

こんな一人ぼっちじゃ、

妨害して、あんたのスキルを一瞬封じたとこで、

すぐに反撃を喰らっちまう」


「でもリクのスキルを甘く見てるわけじゃないよ?」


「それも知ってる。

対魔法使い用の近接戦闘術って言ったよな?

わざわざ、弱っちい俺の動きを、

こうやって封じたのも、

あんたが俺のスキルにビビってる証拠」


「ビビっては無いんだけどね?

躾って言ったでしょ?

力の差をハッキリと分からせる必要があったから」


「ま、それもそうだろうな。

でもさ、あんた本当に鑑定士?

俺のスキルちゃんと見た?」


「何言ってんの?全部知ってるって」


「あっそ。なら、俺の勝ちかもだわ」


「嘘つく子嫌いだなぁ、あたし」


───ドゴッッッ!!


今度は手加減無しに、

リクの背中はミズチの脚に踏みつけられ、

彼は背中から首にかけての強烈な痛みによって、

声も上げられないままに、

意識を失いかけてしまった。


鉄の塊でも振り下ろされたのではないかと、

錯覚する程の激しい痛みが、

容赦なく、再びリクに向かって打ち付けられる。


───ドゴッッッ!!!!


リクの身体は衝撃で浮き上がり、

しばらくの間、小さく痙攣を繰り返すと、

彼は白眼を剥いて、そのまま床に顔をつけて、

突っ伏せてしまっていた。


「やり過ぎちゃったかな。

ま。死んでなけりゃオッケーか」


そうミズチは言って、

リクの服を掴んで起き上がらせようと、

彼の身体を引いたが、

確かな違和感を感じると、

その手をすぐに離し、

気絶しているリクから距離を取った。


(……掴んだとこに、()()()みたいな感触があった。

練れなくしていたつもりだったけど、

アレは魔力の流れだ。

それに、こっちの動きに反発してくるみたいだった。

何?気を失ったら発動するスキルとか?)


壁に背をつけて、

ミズチはリクの動向を見張った。

起き上がる様子も、

気絶したフリをしている様子も無い。


(確かに気は失ってるのに、

だとしたら絶対変だよね?)


狭い部屋の中、

もしリクが何かしらの罠を張っていたとしたら。


コトハと離れさせて逃がさない為、

そして周囲に自分の凶行が悟られない様に、

部屋に結界を張っていたが、

それが仇となって、

逃げ場を無くすのは自分の方かも知れない。


(もしかして、最初から何か気づいてた?

意思を持つスキルだもんね。

鑑定した時に、

あたしに嘘の結果を見せる事くらいしたのかも。

それなら先刻のリクの言葉も真実味が増す。

把握出来なかった能力を持っててもおかしくない)


ミズチはリクとの距離を推し測ると、

結界を張る為に部屋に仕込んでおいた、

簡易発動装置に視線を移した。


それは彼女の上司、魔女から与えられた代物だった。


上級の結界魔法を簡易的な装置で、

発動出来るのはありがたかったが、

魔法を込めた術者がミズチで無い為、

発動の出力を切り替える為には、

手で装置に触れる必要があった。


リクの背後、

部屋の入り口のドアの付近に潜ませていた為、

それに触れるには、

リクの近くを通らなければならない。


(中々、厄介な事になってしまったかもね)


ミズチは軽く舌打ちをし、

忌々しげに腕を組むと、

この局面をどう切り抜けるかの算段を、

急いでつけなければならないと考えていた。


◆◆



♪堰代ミコ『きゅうくらりん』

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