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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『御簾千景の考察。』



あたし(ミズチ)は中央の魔女が消えてから、

此方の世界に来たからさ、

中央の魔女がどんだけ強かったってのは、

全部、他人から聞いた話ばっかなんけどね。

『攻撃の見切り』と『自動で傷を回復』。

殆ど最強じゃんね?

それと視覚に関係する魔法を幾つも持ってるし、

他にも、どんなスキルを持ってるのか、

本当のとこは誰にも判ってない。

中央の魔女にしか、

本当の事は何ひとつ判りやしない」


そうやってミズチは語り続けた。


「でも、先刻の戦いは見物させてもらったけど、

ありゃ正に天性、魔法の天才だね。

天恵者だなんだって言ったって、

強い能力を持ってるだけ、と、

それを扱いこなしてる、じゃ全然意味合いが違う。

中央の魔女が、この世界に居たのは、

たかだか七年だよ?

それなのに何千年も生きて生きて、

この世界の魔法に触れ続けた尸童の魔女相手に、

一切引けを取らなかった。

寧ろ、圧倒してた。

これが、どんなに異常な事か分かるよねぇ?」


「……お、おう」


リクは再び気圧されていた。


──顔のない、この女は(ミズチ)異常だ。


狂った様な熱を帯びていた。


わずかな表情の変化すら、

これっぽっちも分かりはしないのに、

彼女が今、興奮の最中で、

溶けていく様に、薄暗い関心を滾らせ、

リクを相手に、その熱弁を奮っている。


「でも、コトハは管理者には勝てないんだろ?」


遮るのも億劫だったが、

狂気的な圧に気圧され続けるのも、

息が詰まりそうで耐えられなかった。


「勝てないね。敗ける」


「散々、褒めて持ち上げてんのに?」


「それとこれとじゃ、話が別なんだよねぇ」


ミズチは、どこか悦びに満ちた様な響きを、

その言葉に含ませている。


「あたしはさ、この世界が嫌いじゃないんだよね。

其処に住む人の事も含めて。

でも、このまま放っておいたら、

とんでもない悲劇を、

見過ごす事になっちゃうと思わない?

取り返しのつかなくなる前に、

転移者は、転移者のやるべき事をやらないとって」


「転移者のやるべき事って?

訳のわかんない連中の手先になる事かよ?」


「言葉が強いね」


「……あんたの前にも転移者に逢ったけど、

そいつは聖域教会の司教をやってた」


「多かれ少なかれ、

転移者ってのは利用されちゃうからね。

巨大なプログラムだのシステムだのに、

取り込まれ易い存在なんだよ」


「だからって、俺がそれに、

『はい、わかりました』って言うとは限らないだろ」


「そりゃそうだね。

でも、それは賢い選択とは言えないかなぁ」


「脅してるのかよ?」


「うーん、脅しって云うか、

それが事実だから?

あたしはリクより長く、この世界に居るしね。

分かっちゃうんだよ」


「分かったって、納得出来るかは別だろ」


「抗うだけ無駄って事もあるよ?」


「何が言いたいのか、わかんねえ」


「分別のつかない餓鬼は黙ってろって事」


ミズチが手をかざし、

魔力の込められた手指で、

リクの胸ぐらを掴むと、

テーブル越しに軽々と彼の身体を持ち上げ、

まるで変わらない調子で話を続けた。


「カッッ……!? ハッ……!?」


獣じみた怪力に、

リクの頸動脈は絞め付けられ、

刹那の間のミズチの行動が全く視えていなかった為、

彼の意識は激しく混乱していた。


「苦しい? そりゃ苦しいよね」


さも可笑しそうにミズチが笑いながら言った。


そして、掴んだリクの身体を急に手離し、

べしゃりと潰れた蛙の様に、

無様に臥せ込んだ彼の背中を踏みつけ、

立ち上がれないように脚に魔力を込めた。


「悪いけど、救けが来るとは考えないでね」


リクは隣室に居る筈のコトハの事を考えた。


ミズチの言う通り、

コトハが窮地を救ってくれることは無いだろう。

彼女が、この騒ぎに気づかない筈がないのだ。


「……コトハが入った部屋だけ、

別の空間に繋げてたりして……」


「あら、御明察。そうだよ。

それがあたしの魔法。

中央の魔女に気づかれないなんて、

あたしの魔法も捨てたもんじゃないよね」


「……アイツ、意外と抜けてっからな」


「だろうねぇ。強すぎるってのも難儀なもんだよ」


「この国どうなってんだよ……?

スパイ(ソーサリースフィア)に、

管理者(いかれた連中)に、

魔女に……、本当に誰も気づいてなかったのか?

ヤベー奴らばっかりじゃねえかよ」


「勿論、偶然じゃないよ。

この国のセキュリティがどうとかじゃ無くて、

呼び寄せちゃう土地なんだよ。

魔物が湧きやすいシファの森が良い例でしょ?

女神の痕跡云々の前に、

魔力の残滓みたいなものが漂ってる。

そういうものが多いところには、

魔性を持つ奴らは、

どうしたって惹かれやすいんだよね。

魔物だけじゃなくて、魔法使いや、

魔族なんかもね」


「残滓って、女神の?」


「多分ね。

記録みたいなものは残ってないから、

断定は出来ないけど、

女神はウクルクに、

何かしらの由来があるんじゃないかなと思ってる」


「あんたの推測?」


「この世には因果ってもんがあるからねぇ。

それに、今までの経緯をよく観察してみれば、

あながち的外れって訳でも無いと思うなぁ」


「だったら何だよ?って話だけどな」


「あたしの上司は多分、全部知ってる。

管理者の魔女達は、

すんごい昔から生きてるらしいから。

因みに、あたしが管理者の手下をやってんのは、

その事について、何か知れるんじゃないかと思ってさ。

リクは興味無い?

知りたくない?」


「……気にはなるけど」


「でしょ?だからさ、

リクも一度、管理者に会ってみない?

結構、世界観変わるよ?」


「そういう訳にもいかねんだわ」


「何で?」


「仲間裏切る事になったら、

後悔しそうだから」


「スイの事?

だったらスイも此方側に入れば良くない?」


「アイツがオッケーって言うと思うか?

そもそも、絶対興味ねーよ」


「そうかなぁ?

リクはさぁ、たとえば明日、

とんでもない事が起きて世界が滅ぶってなって、

それから助かる方法があるんだとしたら、

それに縋らない?

そりゃ日本に居た時に、こんな事訊かれても、

あたしも意味わかんなかっただろうけど、

その助かる方法が、

どう考えたって、

本当の本当に大マジだったとしたら、

疑う余地なんて無いと思うんだけどなぁ。

管理者って連中はさ、

そういう力があるんだよ。

すっごい明確に。

平和ボケしたあたし達(日本人)にも、

わかりやすい形でね」


「わかりやすく長いものに巻かれてんじゃねえか。

あのさ、

俺の友達は魔法は想像力が大事って言ってたぜ?

あんた魔法使いだろ?

そんなんで大丈夫なのかよ?」


「此処がファンタジーな世界だからだよ。

だから信じるべきものを、信じれたんだよね。

それに言っとくけど、

あたしん中じゃ、

スイは魔女候補ドラフト一位だからね?

あの娘は、どう考えたって管理者寄りだよ」


「は?」


「魔力の制御が()()巧くないってだけで、

スイのステータスの値は概ね人間離れしてるんだよ?

契約してる精霊もヤバい。

とんでもなく強い力を持ってる。

それと、

あたしには、精霊を呼び寄せる、あの娘の特性が、

ヤバいもんを解き放たない為の、

(かせ)みたいなもんにしか見えないんだよね。

あたしが此方の世界に来たのが、

四年前だから、スイは十五歳くらいだったのかな?

その当時で既にスイの強さは折り紙付きだったね。

中央の魔女と一緒だよ。

スイは与えられた能力を把握して扱う事に長けてる。

それから、

これが一番恐いんだけど、

あの娘は自分に課せられた枷の事も計算し尽くしてる。

意識的なのか無意識的なのかは判らないけどね」


「魔力の消費が激しいってんだろ?

だから大食い」


「ハハ。違う違う。

出来る事と出来ない事を知ってるって話だよ?

それに、

スイは自分のリミッターを外す術は理解してる。

だけどやらない。

解る?あの娘は、

どんなに窮地に陥っても、

何かしら温存して戦ってるんだよ?

死ぬかも知んないって状況で、

自分の命を躊躇無く境界線に置いておく。

そんなのは普通の人間の考える事じゃないよ。

立派な怪物。

そんな事が出来るのも、

スイが自分の中に未だ余力が充分に有るのを、

ちゃんと理解してるからなんだよね。

見た目の可愛さに惑わされちゃダメだよ」


「本当にそうか?俺が見てた限りじゃ、

そんな感じしなかったぞ?」


「傍目に見ても解んないだろうね」


「結構ピンチにもなってたし」


「死なないんだって」


「そんな訳あるか」


「あるんだなぁ、それが」


少しばかり、

ミズチの脚に込められた魔力が強くなった気がした。


「ヤバい精霊と契約してるって言ったでしょ?

リクがどんだけスイの魔法を見たかは知らないけど、

あたしが分かってる限りじゃ、

言葉(マオライ)』『(いかずち)』『風と弓』。

あの娘がポンポン使う魔法の契約相手だけど、

そいつらは精霊って云っても、

神様なんかとの線引きが、

殆ど判らないくらいに強いんだよ。

普通の人間の魔法使いが払えない様な、

とんでもない対価も要求してくるしね」


「どんな?」


「まー簡単に言えば、

精霊に身を捧げて、命を喰わす様なもんだよ。

そうゆう古い精霊魔法が廃れた理由だね。

スイみたいに、

魔力が切れかけて、

ご飯を沢山食べるくらいで解消して、

円く収まってる方が不自然なんだよ」


「よくわかんねえ」


自分が知るスイと、

かけ離れた様な像を描かれている様な気持ちがして、

リクはあからさまに不愉快な口調だった。


「リクがわかんなくても、

別に誰も構いやしないんだよ?

わかってる?

遅かれ早かれ、スイみたいな娘は、

管理者に眼を付けられる。

消されちゃうのか、

仲間に誘われるのかは、

本当のところ、あたしにはわかんないけど」


「……ざけんな」


「管理者ってのは、そういう連中なんだよ。

世界を嬲りものにして何千年も遊んでんだから。

遊びを長続きさせる為の、

新しい玩具はすぐに奴等に見つかっちゃう」


気味の悪い形のものが、

胃の底から込み上げてくるような気分だった。


「管理者相手に、

選択肢が有るかなんて事、

考えるだけ無駄なんだよ」


◆◆

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