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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『その理由。』



「お待たせ、ナツメくん。

一人にさせてしまったけれど、

心細かったかな?」


ルカの分身を倒し、

彼女の隠していたマジックアイテム(魔力の中継機)を、

片っ端から破壊する為に派手に暴れ回った後、

山積みになった王宮の瓦礫の上に腰を掛けて、

コトハはリクに手を振っていた。


「いや……。

お前(コトハ)が幻術を掛けてくれたお陰で、

ルカさん固まったみたいにして動かなくなったし、

何にもされてないんだけど」


「それなら良かった」


「でも……、建物をこんなにブッ壊す必要あった……?」


「無いよ。これは単なる憂さ晴らしだ」


コトハは事も無げに言い放ち、

瓦礫の山から飛び降りると、

少し離れた、

王座が有ったらしき場所で呆然としている、

リンガレイ(国王)の元へと、

スタスタと歩いて行った。


「この国では秘密裏に、

僕以外の魔女を匿っていた訳だね?

尸童(よりまし)の魔女と云えば、

僕の記憶が確かなら、

多くの国を謀って、大勢の人間を殺した重罪人だ。

しかも、君は脅されていた訳でもなく、

彼女(ルカ)との何らかの取引で利益を得ている筈だ。

こんな事が他所の国に知れたら、

一体どうなるんだろうね?」


蒼白とした表情を浮かべて、

舌も回らない程に震え出したリンガレイは、

コトハに向かって必死の弁明を始めた。


「ち……、違うんじゃコトハ!?

儂の話も聞いてくれんか!?」


「まア、大方、転移者に関する事だろうね。

イファルの属国の様な地位から、

他の中央諸国を出し抜ける様な打算を聞かされて、

君は、安易にそれに飛び付いた」


「儂は国と民の為を思うてじゃな!!」


「他人のモノを奪った上に成り立つ幸福で、

君の云う国と民とやらは喜んだかい?」


「それはお前が子供じゃから分からんのじゃ!!

国と国の在り方と云うものは、

そんな容易く成り立つものでは無いんじゃ!!

わかれ!! わかってくれコトハ!!」


「ふうん。それで?

君は、その国の在り方とやらの邪魔になったから、

僕をお払い箱にしたって訳か」


「ち……、違う!!」


「誰の入れ知恵だ? 

彼女(ルカ)は何らかの組織に属していると言った。

一国の王が、その怪しげな連中の傀儡だなんてね」


「た……、たわけ!! コトハ!!

少しは口を慎まんか!?

お前が儂に恩義が無いとは言わせんぞ!?

異世界(日本)から迷い込んだ世間知らずの娘を、

国で保護してやったのを忘れたか!?」


()()()()()()()

それと、もう一つ訊きたい。

東暁と云う名の、

転移者の姉妹の事を知っているかな?」


「ヒガシアカツキ……?」


「本当に知らない?」


「……少なくとも、

ウクルクに転移してきた者ではないじゃろう」


「君程の転移者崇拝者でも知らないか」


「……!! 虚仮にするのも大概にせい!!」


「この際だから言っておくよ。

愚鈍で安直なハリボテの王のくせに、

いつまでも転移者をコントロールし続けるなんて事を、

出来るとは思わない事だね」


「貴様!! 誰かおらんか!! 

誰か、この魔女を引っ捕らえよ!!」


「まさかとは思うけどさ、

スイやユンタも、

僕と同じ様に国から追い出したんじゃ無いだろうね?」


「違うと言っておろうが!?」


コトハは無言でリンガレイに向かって指を突きつけた。

その途端、リンガレイは喉を押さえて苦しみだし、

助けを懇願する声を上げようとしたが、

その口からは、まるで何の音も聴こえる事は無かった。


コトハの瞳孔が、

変化をしようとしていたが、

思い直した様にして、途中でその変化を止めた。


「この件はラオを通じて、

他の国にも報告させてもらうよ。

僕の裁量では、私怨が混じるから」


コトハはそう言うと、

リンガレイに掛けた魔法を解いてやった。


「ゼーーッ……、ゼーーッ……」


「さよならリンガレイ。

僕はこの国(ウクルク)を出て行く。

もとより、

追い出されてしまっていたのかも知れないけれど」


「ま……、待てッ!! 待ってくれコトハ!!」


◆◆


「よ……、良かったのか?」


突然、都の王宮が破壊された事により、

ウィソの城下町は久しく訪れていない、

酷い混乱に曝される事態に陥っていた。


「何が?」


物見の為の高い塔は倒壊し、

跡形も無く崩れてしまって、

ゆるやかな煙が、そこから立ち昇っていく。


「いや、何が?じゃなくて。

あの王様が悪いヤツだったとしても、

こんな事しちまったら流石にまずくないか?」


「何だよ?びびってるのかい?」


「当たり前だろ、小市民なめんな」


「ナツメくん。僕達は異世界人なんだぜ?

この世界の法なんて知った事じゃないさ」


「めっちゃ機嫌悪いじゃん……。

でも、スイとユンタまで、

俺らの巻き添え喰らったらどうすんだよ?」


「スイとユンタにも、この国を出てもらうよ。

後、ヤンマにも」


「おたずね者とかになるんじゃねえだろうな……」


盛大に破壊された城内にも、

騒ぎの中を慌ただしく人々が行き交う城下町にも、

ただの誰一人として怪我人はいなかった。


しかし、人々はその事を知る由も無かった。

人々の脳裏に過るのは、

もしや聖域教会の襲撃ではないのかと云う、

絶望が忍び寄る様な恐怖感だけであった。


「何か、ごめんね」


「は?何が?」


「僕がウクルクに寄ろうと言ったから。

君も厄介事に巻き込んでしまった」


「気にしてないんだけど。ていうか馴れた」


「その言い方だと語弊がある」


「ま。俺も異世界(こっち)でやってくって決めたんだ。

多少の事くらい馴れてかないとな。

お前からしたら、未だおんぶに抱っこかもだけどな」


「柄にも無い」


「フォローしてやってんだけど……?」


「ふふん。そのくらい分かってるさ。

ありがとう。

僕達は、お互いに数奇な運命を辿っているけれど、

僕は君と同級生で、同じ転移者で良かった。

君に逢えて良かった」


「……くさ」


コトハの物言いが、

本当に率直で素直な感想だと云うことを知るリクは、

照れ臭さに、その場から動けなくなってしまった。


「さてと、本来の目的を果たそうか。

君のステータスカードの再発行と、

ヤンマの所へ行こう」


リクの様子に気づいてはいるが、

コトハはまるで気にせず、

彼を先導する様にして先を歩いた。


慣れ親しんだ、ウィソの都を。


◆◆◆◆


「そう云えばさ、

ルカさんの分身に技能賃貸(スキルレンタル)を、

使用してみた?」


「やってみたよ。

だけどレベル違い過ぎだな、失敗だった」


「いつもと何か違うところはあった?

たとえば、スキル妨害が発動しなかったとか」


「そういえば、そうだったわ。

分身だからじゃねぇの?」


「うん。そうかも知れない。

もしかしたら、スキル妨害で魔力が途切れて、

分身が消えたりするのかと思ってたんだけれど」


「なるほど」


彼女(ルカ)も一応、

それは懸念していたみたいだよ」


「スキル妨害が百発百中ってのが、

俺の唯一の良いところだったのにな」


「そんな事は無いよ」


「そっか」


「不満そうじゃないね?」


「まあな。つーか、あんなテンプレな攻撃、

いつまでも通用しないんじゃなかったっけ?」


「それはそうだね。

君の名が売れれば売れる程にね」


「俺の名がねぇ」


「でも君なら大丈夫さ」


「根拠無」


「やれやれ。君と云うヤツは、

常に他者の肯定的な意見が無いと、

自分の事も信じられないのかい?」


「そりゃそうだろ。それを欠いて、

自分の事を無条件に頭っから信じるのは、

自意識過剰っつーんだよ」


「言うようになったもんだね。

それなら、僕の事を信じたら良い。

僕が大丈夫だと言うんだから、

大丈夫なんだ。

根拠も証拠も後で付け加えたら良い」


「また無茶な事を……」


「無茶なもんか。

“炎は炎として、水は水として、

風は風として、土や木々や、

その他にも存在をする、

ありとあらゆるものを、

あるがままとして、

汝、受け捉え委ね給え”」


「なにそれ?」 


「古い魔法の謳い文句。

信頼するに(あたい)するものには、

敬意を払って身を任せなさいって意味だね」


「へえ」


「君は僕を信頼している筈だよ」


「自信」


「何故なら僕が君を信頼しているからだ。

だけれど、

相互を互助し合うと云う関係性は、

簡単そうに思えて、

実践するには中々難しい事だったりもする」


「う、うん……」


「……言っている意味が解りづらいかな?

とにかく、僕と君は先刻の戦いで、

互いの眼となって、

とんでもなく強くて恐ろしい、

(ふる)い時代の魔女を、

見事に退けたんだ。

僕達の関係性が、

お互いが信頼を置くに足り得る出来事だったと、

僕は思っているよ」


「お前の能力に便乗しただけ感が否めないけどな」


「君の魔法を若干ややこしいと感じる理由が判る。

きっと君の人柄を反映しているんだ」


「どういう意味!?」


「この話はおしまい。

ほら、もう鑑定所に着くよ」


消火と救援が入り乱れる、

城下の凄まじい騒動の中を、

まるで遠い国の出来事の様に素知らぬ振りで、

二人は人混みを潜り抜ける様にして歩き続けていた。


どこか他人事の様な気がして、

自分はひょっとして、

狂ってしまったのではないだろうかと、

内心は穏やかでは無かったが、

リクは、その事を口にはしなかった。


───怪我人なんて出していない。

   何も心配する事は無い。


不安げなリクの背中をソッと支える様な言葉を、

コトハは呟く様な声で囁いてみせた。


◆◆◆


「ステータスカードの再発行を、

お願いしたいんだけれど頼めるかな?」


コトハはスキル鑑定所の受付嬢に向かって、

微笑みながら言った。


受付嬢はコトハの優しげな声と、

その美しい顔に見惚れる様に、

しばらく唖然とした後に、

慌てて事務的な手続きを済ます為の書類を、

二人分手渡すと、

少し触れてしまったコトハの指先から、

電流でも走ったかの様にして、

蕩けた表情で、そこに立ち竦んでしまっていた。


「誘惑のスキルでも持ってんのか?」


少し見慣れた光景とは云え、

リクの言葉には、

薄く小さな刺が立っている様な響きがあった。


「まさか。ヤエファじゃあるまいし」


コトハは迷う事無く、

サラサラと筆を走らせて、

書類の項目を埋め終わると、

先程の受付嬢に手渡して、リクの傍へ戻って来た。


「未だ書いてるのかい?

そんなに悩む様な事も無いんじゃないかな?」


「うるせーなー。字なんか久しぶりに書くからだよ」


「そんなに悪くないよ。それにしても君、

異世界の文字なんて、どこかで習ったのかい?」


「いや、習ってない。

そういえば、何で書けるんだ俺?」


「以前に来た時は?」


「スイに書いてもらった」


「会話の聞き取りはどうだい?」


「聞き取れる。だから、

スイに言語変換の魔法掛けてもらったんだって」


「一度、日本に戻ってるんだよ?解けてるさ」


「え?じゃあ何でだ?」


「君の順応性が高いのだろうか。

勉強の要領が良いタイプじゃないだろう?」


「うっせ!」


そんなやり取りをしている間に、

たどたどしい文字で空欄を埋め終わり、

リクはコトハに促されて、

受付にそれを持って行き、手渡した。


「そんなケースもあるもんなのかな?」


戻ってきたリクが訊ねた。


「言葉が自然に身に付いたってケースがかい?

君くらいの短い滞在の日本人が、

こちらの言葉を言語変換無しで理解したって話は、

僕は訊いた事が無いね」


「俺、おかしくなっちゃったのかな」


「悲観的になる必要はないさ。

魔法無しで、意思の疎通が出来る様になったんだ。

スイの負担だって減るだろう」


アイツ(スイ)、四六時中、

魔法を発動してたって事なんだよな?」


「そうだろうね。

君の中に精霊を居着かせて、

言語の変換を自動で行わせていたんだろうけれど、

魔力の消費はしていた筈だよ」


「同時発動的な?」


「厳密に云えば違うかもだけれど、

複数の精霊に同時に力を借りる点で云えば、

同じ事なのかも知れない」


「知らんうちに迷惑かけてたんだな」


「君が気に病む事じゃない。

それにスイは嫌なら嫌と言う。

それでも気になるなら、

逢った時に御礼のひとつでも言えば良い」


「お前は?」


「ん?」


「お前は言葉どうしてたんだ?最初の頃」


「僕は人に習ったんだよ」


「て事は、言葉分からなかったんだな?

どうやってコミュニケーション取ったんだよ?

俺は最初ひどい目に遭ったぞ?」


「その人は日本語が喋れたからね」


「日本人だったって事?」


「いや、多分違うよ。彼女は例の女神だったから」


「へ?」


「僕が、この世界に来て、

一番最初に出逢ったのは女神なんだよ。

この世界が欲して止まない、

その偶像を著しく歪められた、

憐れな全能の女神」


「……は!?」


「言ってなかったんだっけ?

どうも彼女の事になると、

記憶が不明瞭になってしまってね。

驚かせてすまない」


コトハはそれだけ言うと、

リクの反応が剰りにも激しかった事に、

逆に面喰らった様な様子で、

所在無さげに、頭を掻いて気を紛らせていた。


誰にも気づかれない様にして息を潜めて、

止まっていた様な時間が、

ひっそりと息を吹き返し、

何事も無かった様な素振りで、

再び刻まれ、その音を立て始める。


◆◆◆◆◆

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