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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
204/237

『血と黒山羊の骨。』



「随分と余裕なんだね」


コトハはルカを指差して言った。


「君の様な人からしたら、

使い捨ての駒程度なんだろうけれど、

僕にとっては相性の悪い魔法を使う相手だった。

君は僕への対策に(ゴアグラインド)を起用したんじゃないのかい?

その彼が倒されたって云うのに、

君は顔色ひとつ変えない」


それを聞いて、ルカは声を上げて可笑しそうに笑った。

嘲る様な、厭な笑い方だった。


「御冗談が過ぎますわ。

先程も申し上げました通り、

ゴアグラインド如きで、コトハ様を倒せるなどと、

これっぽっちも考えていませんでした」


「やれやれ。

確かに敗けるつもりは無いとは言ったけれど、

君は些か、

僕を過大に評価しているんじゃないかな?」


「そんな事は決してありません」


「それに自動回復が無ければ最初の一撃で死んでいた」


「強者とはそういうものです。

驕らずに、常に自分を研き続けます」


「君も気づいているんじゃないだろうか?

()()()()()()()()()()()()()()()

向こう(日本)で魔力を制限されていたから、

身体が鈍っているだけだろうと思っていたんだけれど」


「コトハ様。鳥は飛び方を決して忘れたりはしません。

ニホンでの魔力の制限下で過ごす中で、

抑制してしまう癖がついてしまっただけです」


「飛べない癖がついてしまう鳥もいるかも知れない」


「コントロールしきれていない、

と云うのなら、確かに七年前よりも、

今のコトハ様は劣っているかも知れません。

しかし、御心配なさらずとも、

魔力量や戦闘技術と云ったものは、

何一つ変わりはしておられません。

貴女は強い。この世界の誰よりも」


「君が敵なのか何なのかよく分からなくなってくる」


「フフ。そうかも知れませんね。

ここまでコトハ様に執着するのも、

恋慕に近い感情が有るのではと自覚しておりますから」


「執着」


「貴女の美しさに惹かれ、強さに平伏しているのです」


突然、魔力の気配が増え、

大勢のルカの分身が、

コトハを取り囲む様にして再び出現した。


そして、其々の分身が、

コトハを穿ち貫かんとして、

烈しい閃光を放つ攻撃魔法を発動させた。


───『穿つ閃光(アングリフ)


先程よりも狙いを絞られた、

レーザー状の細い光は、

網目の様な弾幕となると、

コトハに次々と襲い掛かり、

コトハは眼を発動させて、

再び、それを躱し続けた。


「悪いけれど視える分、

ゴアグラインドの魔法よりも見切り易い」


「それならコレは如何でしょうか?」


放たれて、コトハの身体を掠めていく閃光達が、

消失する事無く、其処に留まり、

無数に突き立てられた剣が、

まるで檻にでもなったかの様に、

コトハの周囲を次々と覆い囲っていった。


───『籠の鳥(フォーゲルケイジ)


「迂闊に触らない様にお気をつけ下さい。

動いていない様に見えますが威力はそのままですから」


細い光の束だったが、

先程のものと同じく、

凄まじい魔力を圧縮されている。

ルカの言う通り、

触れれば腕や脚など、軽く消し飛んでしまうのだろう。


「幾ら、視えていると云っても、

逃げ場所を狭められるとなると、

果たして躱し続ける事が出来るのでしょうか」


ルカは更に閃光を放ち、

四方八方を塞ぐ様に、

コトハの行動出来る範囲を封じていった。


「お気をつけ下さいとは傑作だね」


そうやってコトハは言うと、

両腕で頭を庇う体勢を取り、

躊躇う様子も無く光の檻の中へ突っ込んで行った。


肉を削ぎ、骨を断ち、

血飛沫が次々と舞い上がり、

コトハの身体のあちこちが欠損していく中、

彼女はまるで意に介さない様子で、

悲鳴ひとつすら上げずに、

一番近くに居たルカの首を目掛けて、

既に千切れかかっていたが、

かろうじて残った左の掌に込めた魔力を放出し、

ルカの首から上を吹き飛ばして見せた。


その次の瞬間には、

再生を始めた両脚で踏ん張りを効かすと、

もう血の流れ出ていない身体を軽やかに翻し、

別の五体のルカに触れると、

彼女らは次々に輪切りにされた様にして、

あっという間に、身体を破壊されていった。


「痛みは感じると仰ってましたのに。

自動で回復すると云っても、

捨て身の一手は感心出来ませんね」


半身を切り刻まれた様になっていたコトハの身体から、

既に傷痕は跡形も無く修復され尽くし、

無色透明かと錯覚してしまう様な、

透き通ったコトハの顔は、

乾いて黒くなった、

汚ならしい血の塊を張り付けいても尚、

その美しさを損なう事はまるで無い様に思わせた。


「先刻の言葉を少しだけ訂正いたしますわ。

コトハ様は七年前よりも、

冷静さは確かに欠かれておられます。

もし、御自身が弱くなったと感じておられるなら、

そこに要因が有るのかも知れませんね」


「まア、こんなトチ狂った戦い方は、

しなかったかな」


「そうです。

魔法使いとしては及第点を差し上げられませんね。

魔法使いは、あくまでも魔法使いであるべきです。

幾ら強大な力を得ようとも、

獣になるべきではありません」


「そこまで言われると流石に傷つくな。

僕だって、やりたくてやったんじゃない」


「過信は必ずや身を滅ぼします。

しかし、

そこまでコトハ様を追い詰める事が出来た事は、

個人的には誇りに感じています」


ルカの分身が更に増え、

品の良い足音と共に、

ゆっくりとコトハを包囲していった。


「リク様を連れて来るべきだったのです。

あの方の魔法があれば、

この膠着した場面の突破口になったかも知れません」


「ナツメくんの能力に気づいていたのかい?」


「ええ。存じ上げております。

能力の封殺。

無限に分身を産み出すこの魔法も、

それであれば封じられていた事でしょう」


「彼がこの場に居たら、真っ先に君に狙われて、

とっくの疾うに殺されていたかも知れない」


「そうしていたでしょうね」


「とは云っても、君の事だから、

把握しているナツメくんの魔法への対処法も、

既に編み出されているのかも知れない。

王宮に残してきた、君の分身のひとつに、

彼は既に魔法を使っている筈だ。

それなのに、君の魔力は途切れた様子は無い」


「わざと、リク様を御一人にされたのでしょうか?

既に、私の分身に殺されているかも知れませんよ?」


「殺す?君が彼を?それは無理だよ」


コトハは至極当然だと言わんばかりに、

あっさりと、そう言い切った。


「何故、そう思われるのでしょう?

幾ら、リク様が能力の封殺を行っても、

ほんの数秒程度と云った時間的な制限があります。

それに能力を封じられたとて、

リク様自体に、攻撃をする術がありませんし、

それがあったとしても、私を倒すには至りません」


「と云う事は、未だ彼は生きていると云う事だね」


「コトハ様、私に誘導の様なものは必要ありません。

もしかしたら、全て嘘かも知れませんよ?」


「いや、君が幾ら嘘つきだとしても、

彼を殺していないのは事実だよ。

あんな希少価値の高い魔法を操るんだ。

君がそれを利用もせずに棄てるとは到底思えない」


「そうだとしてもです。

コトハ様はリク様と分断され、

魔力が尽き果てるまで私と踊って頂くと云う事に、

変わりはありません。無用な揚げ足取りです」


コトハを決して逃がすまいとしてなのか、

会話の最中にもルカの分身は増え続ける。


もはや、周囲を埋め尽くさんばかりに、

何処を見渡しても彼女の居ない場所は無い様に思えた。


(ナツメくん)の強みはさ、

あの特異な能力に、ちっともそぐわない微量な魔力と、

生来の存在感の薄さに有ると僕は思っている」


「幾ら能力が優れていたとしても、

魔法使いの戦いに於いて、

魔力の量と云うものは重要です。

それに、リク様は戦闘の経験も浅いでしょう」


「そこなんだよ。彼は舐められやすい。

それに加えて、強い魔法使いと云うものは、

概ね、我が強くてワンマンな作戦を取りがちだ」


「それは当然なのではないでしょうか?」


「これは蛇足かも知れないけれど、

君みたいな魔女なんて呼ばれる存在は、

パーティーを組んだりはしないだろう。

個人が強すぎて、下手な連携は疎ましく思ってしまう。

居たとしても、扱い易い捨て駒の様な存在くらいだ」


「何が仰りたいのか、私にはよく解りません」


「僕とナツメくんはパーティーだ。

彼は時折エッチなところもあるけれど、

年相応と考えて僕は眼を瞑ろう。

それを差し引いても、

彼以上に優れた伏兵を僕は知らない」


コトハは斬撃の魔法を放った。


辺りには数多の分身が居たが、

狙いは大きく外れ、

あまりにも見当違いの方向へと、

それは真っ直ぐに飛んでいった。


「!?」


しかし、ルカには、

その攻撃が何を意味するのかが、

直ぐに理解出来た。


お前達(分身)!!」


怒号に近い声が上がると、

コトハの魔法を防ごうとして、

ルカ達は立ち塞がり、防御魔法を発動させたが、

それがコトハの斬撃に追い付く事は出来なかった。


紙切れの様に、

数十人のルカを切り裂いても尚、

コトハの魔法の威力は落ちる事無く、

定められた場所へ戻る様にして、

地表を抉り取り、

深い大地の奥底へと到達した。


「何故!? どうしてソレを知り得たのですか!?」


コトハからの返答を待たずに、

ルカの閃光魔法は無数に束ねられると、

コトハに向かって浴びせかけられる様にして撃たれた。


周囲の景色は、

発光に因り白く染められると、

巨大な地鳴りと共に地形を激しく破壊され、

静まっていく光の刺激に眼が慣れる頃には、

その少し前とは一変した、

荒廃した大地が眼前に姿を現している事が判った。


◆◆


(何処だ!? 死んでいる筈が無い……!!

それに、どうやって()()の存在に気づいた!?

コトハ様の魔力がまるで感知出来ない……。

遠くへ逃げた筈は無い!!

何処だ!? 何処へ行った!?)


分身の殆どは、

自らの魔法で塵と化したが、

一体だけ、半身だけを残した様な状態で、

かろうじて、その場へ留まる事が出来た。


分身の肉体の損傷は激しく、

遠隔で操る魔法との接続は、

今にも途切れてしまいそうだった。


その要因は、

ダメージだけではなく、

ルカが地中へと隠し、

コトハが狙った()()が破壊された事に因った。


「『死産した胎児の血に浸した黒山羊の骨を編んで、

魔力を込めた人形。随分と古い魔法だね』」


薙ぎ倒された木々が遮っていた筈の風が吹き荒び、

姿の見えないコトハの声が聴こえる。


「コトハ様……。

どうしてお気づきになられたのですか?」


「『僕の眼を通して、

ナツメくんと視界を共有した。

僕の能力()と、

彼の魔法は相性が良いみたいだ。

彼には得た情報を処理して解答を導き出す、

仮説の組立(ジェンガ)と云う能力がある。

共有した僕の視界から得た君の情報で、

彼は君が隠していたコレを僕に知らせてくれたのさ。

君が発信する魔力を中継する魔法具(マジックアイテム)

コレのお陰で、

君は遥か遠くから身の安全を確保出来ていた訳だ』」


「……ッ!!」


中継する魔法具を破壊された所為で、

魔力の供給は不完全なものとなり始めていた。


「『この魔法具自体に、

特定の、おそらく君の魔力の感知を、

妨害する魔法が掛けられている。

余程、大事なものらしい。

君の魔力を見つけづらいのは、

これの所為もあるんだろうね。

そして、君はおそらく、

ウィソの都を始めとして、

ウクルクの国中にコレを仕込んでいるんだろう』」


「……リク様を優秀な伏兵と仰る理由は、

これの事でしたか……。

でも残念です、コトハ様。

御指摘の通り、

私はコレと同じものを、

ウィソの王宮内にも隠し持っております。

この場は一旦、退かざるを得ませんが、

ウィソには、また私の分身を送り込めます。

能力は確かに素晴らしいですが、

一人では戦闘も儘ならないリク様だけでは、

どうにもなりませんね?」


『「彼を盾にでもしようと云う話かな?

それなら止めておいた方が良い」』


「それは一体どうしてでしょうか?」


そうやって言った瞬間に、

ルカの背筋には不吉な予感が、

凍える様な冷たさと共に勢いよく走りだした。


分岐しながらも独立している分身の視界を覗くと、

最後に確認をしてから、そう時間も経っていない、

ウィソの王室の中で、

ルカの触手に因って行く手を阻まれ、

立ち往生しているリクの姿が、

相変わらず同じ様にして、そこにはあった。


(ハッタリでしょうか……?

それにしても、リク様がスキルを発動した様な、

そんな素振りは見せなかったのに、

一体どうやって……?)


その次の瞬間、

コトハとリクの元に送り込んだ分身の視界と意識は、

両方ともルカとの接続を遮断し、

プツリと映像は途切れてしまった。


◆◆◆


時を同じくして、

ウィソの王宮、

其処にはルカの姿は無く、

頭部を破壊され、

塵と化して朽ちていく彼女の分身の亡骸があった。


「僕は真っ先に眼を狙われ易いから、

幻術や目眩ましの魔法には少し詳しいんだ。

だから当然、僕も幻術は扱える。

警戒して、僕の眼を注視し過ぎたみたいだね。

思いの外、あっさりと幻術に掛かってくれたから、

ウィソに戻る余裕は充分稼ぐ事が出来たよ」


「……」


ルカの本体には、既にその言葉は届いていなかったが、

コトハの眼を逃れる様に潜んでいる拠点から、

ウィソに分身を顕現させようとしても、

もう魔力が届かないと知ると、

彼女は全てを察する様にして、

目の前のテーブルに拳を叩きつけ、

たった一人で、大きな溜め息を吐いてみせた。


◆◆◆◆

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