表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
201/237

『壮妖丹、魔物、奇術師。』



「私には、一体コトハ様が何を仰っているのか、

その真意は半分も理解出来ておりません」


ルカは笑みを絶やさずに言った。


言葉や表情とは裏腹に、

魔力は禍々しさを放ちながら高まり、

それは明確な殺意を持って、

攻撃魔法としてコトハに向けて撃たれた。


───『穿つ閃光(アングリフ)


それは、眼で追えば、

直ぐ様に眼の光を失う(失明)事になるであろう、

眩く、激しい光を放っていた。


屈強な戦士の重厚な鎧も、

熟練した魔法使いの防御魔法や結界も、

容易く貫いてきた自慢の攻撃魔法だったが、

コトハには通じない。


しかし、

その事をルカは口惜しいと思ってはいない様子だった。

それでも、おそらくルカの会得している魔法で、

最も威力の高い攻撃魔法である為か、

その魔法を使わざるを得ないかの様に思えた。


が、コレは間違い無く何かの布石なのだろうと、

コトハは考えていた。


見た目はどうであれ、

ルカは長い時間を生きた老獪な魔法使いなのだ。


魔法使い同士の戦いの経験値は、

実力で勝っていたとしても、

どうしてもルカの方が上だった。


(攻撃を躱し続ける事は可能だ。

このまま、

わざと攻撃を避けさせて、

自分の優位な立ち位置に誘導するつもりかも知れない。

だけど、

彼女(ルカ)が、

そんなに分かりやすい手を打ってくるとも思いづらい。

参ったな。

多分、もう既に僕は踊らされているんだろうな)


コトハはルカの放つ砲撃の様な魔法を躱し続けた。


「随分と派手な魔法だね。

だけど、上位古代語魔法(ハイエンシェント)と云っても、

些か時代遅れな気もする。

威力も速度も凄まじいけれど、

その分、魔力の流れと射出時の動きが大きくて、

軌道を読み易い」


「フフフ。そのような感想を抱くのは、

この世界が幾ら広いと云えど、

コトハ様くらいのものだと私は思います」


「僕は先刻、君を目一杯脅かしたつもりだったけれど、

君には余程の秘策があるみたいだね。

君は魔法使い同士の戦いを、

心底楽しんでいる様にしか見えない」


「コトハ様の脅しは、単なる口八丁ではありません。

事実、私は、しっかりと畏れておりますし、

自分の命が風前の灯火の様に、

死と生の間際に晒されているのも自覚しております」


「そんな極限の状態で、

楽しんでいる様に見えるなんて、君は変態だ」


「或いは、そうかも知れません。

幾千年の時を生きる中で、

私の嗜好や性癖の様なものは、

常人とは全く違った、歪にゆがんだ、

とても直視の出来ない様な、

薄汚れた醜いものへと変形してしまったのでしょう」


「それは、人それぞれの自由だから。

君の好きにしたら良いとは思う。

だけれど、それに付き合っている暇は無い」


「コトハ様、私は卑しく、悪趣味な女で御座います」


そうやってルカは言い放つと、

自らの首を、自分の魔法で撃ち抜いて見せた。


流石に、コトハも一瞬は呆気に取られたが、

直ぐに異変に気づいた。


首を撃ち抜いた拍子に、

頭ごと吹き飛ばされたルカの身体は、

ゆっくりと、そのまま仰向けに倒れていったが、

風に吹かれて飛ばされる塵屑の様になった、

今までの分身とは違い、

その身体は妙な匂いを放つ液体を、

傷口から勢い良く噴き出し始めていた。


壮妖丹(ヤオダン)の匂いだ」


それは人間には酷い毒性を発揮する魔法薬で、

丸薬を溶かして液体にし、

酸素に触れさせると徐々に気体へと変わり、

広範囲へ毒を散布して影響を及ぼすものだった。


しかし、

魔法使い達は、そういった使い方を通常はしなかった。

放つ匂いが特徴過ぎる為、

直ぐに察知され、結界などで遮断されてしまうし、

気体へ変わった壮妖丹の効果は、

時間ごとに薄れていってしまう為だった。


それに調合に手間が掛かり、

材料費も非常に高くつくので、

魔法を使った方が圧倒的に安上がりでもあった。


壮妖丹の本来の用途は、

魔性の属性(魔物や魔獣、魔族)を持つ存在の、

ステータスの底上げと、能力の覚醒、

それに加えて用量を増やす事によって、

自我を奪い失わさせる事だった。


その香りに引き寄せられる様に、

先程まではコトハとルカの戦いを避けて、

遠くへ姿を消していた周囲の魔物達が、

狂った様な雄叫びを上げながら群がり始めていた。


「この辺りには、強い魔物は元々居ない筈だけれど、

それでも、能力を上げられた狂暴な魔物の群れを、

これだけ集めれば流石に脅威的ではある」


コトハの言う通り、

魔物の群れの多くは小型から中型にかけての、

比較的大人しい魔物達だったが、

我を失い、凶悪な衝動に駆られた集団は、

普段の姿とは比べ物にならない、

まるで違ったモノへと変貌を遂げていた。


コトハは魔物の群れを誘導する様に魔力を放出し、

魔物達の標的が自分へ向く様に仕掛けた。


結界で守っているとは云え、

未だ住民の居る村に、

この大群が押し寄せてしまわない様に。


(自分の魔力を感知させない為の策かな?

これだけ気配が多いと、

確かに彼女(ルカ)の魔力の位置は特定しづらい)


コトハは足元の大地を蹴り上げ、

空高くへと舞い上がり、

海嘯の様に押し寄せる魔物の群れを上空から観察した。


(それに)


地上を埋め尽くす様な魔物の群れは、

コトハの放つ圧倒的な魔力に怯える様子もなく、

軋んだ様な不快な音を立てて、

宙へ浮かぶコトハに向けて、

我先に喰らいつこうと牙を鳴らしていた。


「地上だけじゃない。地中にも居る。

地竜(ワーム)なんて、

ウクルクに生息地は無かったのに」


凄まじい地割れを起こしながら、

数体の地竜が地面の中を移動し、

その振動によって裂けた大地から、

首が長く眼球の無い、硬く荒々しい鱗に覆われた、

巨大なモグラに似た姿を現した。


コトハは、

その巨大な地竜達が自分に向かって来るのを、

飛翔魔法に依って躱しながら、

注意深く感知魔法の範囲を拡げ、

ルカの魔力を見失わない様にした。


(壮妖丹を使ったにしても、

生息していない魔物が現れるなんて変だ。

仲間が居る?

召喚士(サモナー)か、拿捕者(テイマー)

彼女(ルカ)と同等か、それ以上に、

魔力の制御が巧くて、

僕に気づかれない様に潜んでいた?

それは些か出来すぎているんじゃないかな)


襲いかかってくるワームの牙を躱しながら、

そんな事を考えていたコトハに射す、

陽の光を遮る何かが突然現れた。


それは岩山と見紛う様な巨大な手で、

上空高くを舞うコトハに達する身の丈をした、

巨人族(ギガンテック)のものだった。


飛び交う虫でも叩き落とす様にして、

コトハに向けて、

その巨大な手を今にも振り下ろさんとしていたのだ。


しかし、

既にコトハは巨人に向かって急加速し、

魔力を纏わせた拳を振り抜いて、

自分よりも大きな掌ごと、

そのまま巨人の上半身を撃ち抜いていた。


断末魔の悲鳴をあげる暇も無く、

巨人は絶命し、仰向けに倒れていった。


穿たれ、大きな空洞を空けた巨人の身体から、

粉々になった骨や赤い肉片が弾け飛び、

滝の様な血飛沫と共に周囲に降り注いでいった。


血飛沫に紛れて、硬質な響きの羽音が聴こえる。


石を削って、その身を象り、

魔力を与えられて生命を得る樋嘴(ガーゴイル)の一団が、

コトハを取り囲んでいた。


ギャアギャアと不吉を告げる様な喧しい鳴き声と、

重たげな羽音と共に、

魔物の言語による詠唱が始まった。


彼らが大きく開けた、

鋭い牙が並ぶ口から火球や火柱が放たれ、

それらは炸裂音を立てて、

コトハはあっという間に、

その中に呑み込まれていった。


自我の無い魔物達の攻撃は統率が取れておらず、

通常なら連携した攻撃を得意とするガーゴイル達も、

お構い無しに魔法を撃ち続ける為、

それは同士討ちが多発する破滅的な行動に映った。


舞い上がる黒煙と、

地上にまで届きそうな炎の熱気の中、

薄い光を放つ防御魔法で炎を防いだコトハが、

自分を取り囲むガーゴイル達に向かって、

虚空で指に円を描いた。


「詩は交わる 点を紡ぐ 線を以て謡と為す」


コトハが澄んだ声で詠唱を終えた。


一瞬空間が歪み、

ガーゴイル達は、その歪みに引き寄せられる様にして、

あっという間に四肢を千切り飛ばされ、

石で出来た身体は粉々に砕け散っていった。


バラバラになったガーゴイル達の身体を、

更に打ち砕く様にして、

ルカの閃光魔法が地上から撃たれ、

いつの間にか、

再び十体以上の分身を造り出し、

隙を突いた様に、

コトハへの猛攻を仕掛け始めた。


しかし、

ルカの放った閃光は、

互いに交差し合うだけで、

コトハを貫く事は出来ず、

彼女の姿は、

既に其処にはなかった。


飛翔魔法の出せる最高の速度で、

忽然と姿を消して、

再び姿を現したコトハの眼前には、

ローブのフードを被り顔を隠した、

魔法使いらしき、一人の男が居た。


「サモナーでもテイマーでも無さそうだけれど、

巨人やガーゴイルを出現させたのは君の魔法か」


「……ケヒヒッ」


男は下卑た笑い声を上げて、

高らかに詠唱を始めた。


それを阻止する様に、

コトハが男に向かって手を薙ぎ払う動作をしたが、

ルカでさえ瞬時に切り裂いてしまう、

不可視の刃を放つ、その魔法が、

男の身体を断つ事は無かった。


「……ククク。……ギャハッ。

ギャーハッハッハッハッハッ!!!

マジか!? コレだよコレ!?

俺の思う、俺の魔法の最適解だよ!?

解るか!? 中央の魔女!!」


男はフードを取り、

その顔をコトハに見せた、

浅黒い肌に、尖った耳。


片腕の無いダークエルフの男は、

激情に駆られる様な爛々とした瞳の中で、

狂喜と劣情の混ざった光を放ちながら、

コトハの前に立ちはだかった。


「誰?」


コトハは、その男に見覚えは無かった。

しかし、男の言動や所作に、

既に不快感を感じていた。


「てめえは知らねえだろうけどよ、

娘にゃ随分世話んなったんだぜ?

俺の名前はゴアグラインド、

借りは親のてめえに返させてもらうからよ」


◆◆

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ