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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『魔法少女。』



コトハは何となく、

吸っている煙草を手離し難く感じて、

フィルターの根元ギリギリまで吸い尽くしたが、

それでも未だ、少し名残惜しそうにして、

とても短くなった煙草を地面に押し付けて消す姿は、

火種すら愛おしく思っているかの様な、

丁寧な仕草だった。


「さてと、

お互いに遠隔で魔法が操作出来るみたいだけれど、

先刻も言った通り、

僕は景色を正確にイメージしないと、

転写魔法が使えない。

その点は、幾分か君の方が有利だ」


コトハは適当に、

何も居ない場所に向かって語りかけた。


どうせ聞こえているのだ。

どこに向かって声を掛けても同じだろうと、

コトハは思っていた。


「それでも、

コトハ様に攻撃を当てる事が(ルカ)には叶いません。

それに私はコトハ様の魔法を受けてしまえば、

一撃で簡単に絶命してしまう事でしょう」


何事も無かったように、

ルカは再び、その姿を現した。


「当たればね。

遠隔で操る君の魔法の仕組みが判らない限り、

僕は永遠に君の分身と戦う羽目になる。

分身では勝てないと判っているのに、

律儀に姿を現すからには、

君は未だ僕を倒す事を諦めていないという事かな」


コトハはルカの分身から、

微かに魔力の流れが在る事を察知していたが、

やはり、その跡は巧妙に隠されていて、

とても、その先を辿れる様なものでは無かった。


「ええ。勿論ですわ」


ルカは晴れやかな笑顔で言った。

清々しい程に明るい表情とは裏腹に、

ルカの背面から、

おぞましい程に醜く鋭い触手が、

気色の悪い音を立てながら、

コトハに襲い掛かろうと、

凄まじい速度で弾け飛ぶ様にして躍り出た。


───ゥデュルルルルルッ!!!


しかしコトハは驚いた様子は欠片も無く、

瞬きさえもせずに、

その場から一歩も動く事は無かった。


次の瞬間、

何か邪悪な物の化身の様なルカの触手は、

緑の覆い繁った大地の地表を荒々しく砕き、

潜り込む様にして地中深くまで、

コトハの周囲を取り囲む様にして抉り取っていった。


岩盤を砕く凄まじい音がして、

コトハの足元は激しい揺れを起こしている。

土や砂は粉々になって散りながら、

一帯に粉雪の様に降り注いだ。


しかし、

コトハは足元を軽やかに蹴ると、

そのまま宙に浮いてルカを見下ろしながら言った。


「幾ら魔力が無限に湧いてくるとは云っても、

当たらない攻撃を繰り返すのは、

得策では無いと僕は思うよ」


巻き起こる粉塵でさえも、

コトハの周りを避ける様にして舞い上がっていた。


「攻撃の見切りとは云うけれど、

僕のコレは殆ど『断絶』だと思う。

外部からの干渉は一切受けない。

視覚で捉えたものを対象とするけど、

前方の現象から推測して、

後方で起こる作用も、

ある程度は自動で予測するから、

視覚外とは云っても、

後ろからの不意打ちも無駄かも知れないね」


魔力を消して、

根を急成長させる様にルカの触手は地中を這い、

コトハの後方から再び彼女に襲い掛かったが、

コトハの言う通り、

触手は軌道を曲げられたかの様に、

その狙いを外し、

再び地表を虚しく削る事となった。


「それは嘘ですわ」


ルカはキッパリと言い切った


「嘘? どうしてそう思うのかな?」


「コトハ様は、

一度リロクに敗れています。

実力差は歴然としていたのでしょうが、

実体の無いリロクが宿主を定めて、

人知れず、

魂への寄生を行うと云う、

彼のトリッキーな能力の組み合わせに、

貴女は確かに敗北したのです。

視覚外からの攻撃が無意味と云うのは、

()()と云う訳では無いのではありませんか?」


リロク、と云う名前を聞いても、

コトハに特別変わった様子は無い様に思えた。


「対象であった筈のリロクの身体が、

魂の抜け落ちた脱け殻だと気づくまでに、

ほんの僅かな時間差が生じた事でしょう。

そこを貴女は狙われた。

魔力で引き出して増強、

その上、幾ら天恵者(チート)と云えど、

眼の能力と云う事は、

結局のところ人間の五感です。

誤差が無い方が不自然なのです。

コトハ様が完全無欠な存在で無い事の証明は、

七年前に既にされていたのです」


「御明察。

その通りだと思うよ。

先刻の圧倒的物量の攻撃の雨あられは、

その検証のひとつだったと云うことだね。

僕が把握している欠陥と、

そうでない欠陥。

君は、或いは君達は、

僕の事を随分と熱心に研究してくれたらしい。

光栄だな」


「リロクの名前を聞いても、

驚きませんでしたか?」


「君がリロクと仲間だった事についてかい?

それは勿論、想像の範疇を超えていたけれど、

元々、僕の居た世界(日本)じゃ、

そんなに珍しいケースでも無いかも知れない。

黒幕なんて、概ねそう云う存在だろう?

よく有る話だ。

それに、

巨大な悪意って云うものは、

その存在を感じさせないで、

密かに世界中に張り巡らされていくのかも知れないね」


「フフフ。私は行った事はありませんが、

ニホンと云う国も、随分と物騒な国なのですね」


「この世界も一緒だ。

悪意なんて人の数程、

発生するものだし、

誰にもそれを止められやしない」


「コトハ様は私やリロクを悪意だと捉えますか?」


「少なくとも、僕やスイ達にとってはね」


「御安心下さい。

スイ様を人質に取る様な真似は致しません」


「それは何故だい?」


「そうですね……、リロクでは役不足でしょう。

スイ様には勝てません。

正確には人質に取りたくても、

取れないのです」


「スイはそんなに強くなったんだ」


「ええ。我がウクルクの誇りですわ」


「そうか。

まア、小さい頃から才能が有るとは思っていたけれど、

流石は僕の娘だ。逢うのが楽しみだな」


コトハは安心した様な表情で、

スイの姿を頭に思い浮かべようとしたが、

その姿はどうしても幼い頃のスイで、

それが、やはり、とても口惜しく思えた。


「……スイは美人になったかい?」


コトハが、そうやってポツリと呟いた。


求める答えに縋りつきたいのを堪える様な、

珍しく弱々しい声色だった。


「ええ。美しく、お強い、

立派な魔法使いになられました」


ルカは笑みを絶やさずに言った。


コトハはルカの返答には応えずに、

気を引き締める様にして、

凛とした表情を取り戻した。


一度も警戒を解いてないが、

それでも、スイの事を考えれば、

どうしたって気が緩んでしまう、

コトハは目の前の、

或いは、辺り一帯に、

未だ蠢く様にして潜む、

ルカの気配と魔力に、

再び注視するように努めた。


しかし、心はどこか落ち着かなかった。


「煙草が吸いたい。

もっと持って来るべきだったかな」


「煙草を嗜まれるんですね?

少し残念です。健康を損ないますし、

匂いも気になりませんか?」


「ふん。正論だけれど、

ナンセンス過ぎる。

そんな事を気にしながら煙草を吸う人は存在しない」


「フフ。それは極論だと思います」


それから、

唐突に一陣の風が吹いた。

しかし、鋭くも、柔らかくも無い、

そんなものが有るのかは誰にも解りはしないが、

平坦で、無機質に感じられる風だった。


「コトハ様は迷ってらっしゃいます。

そんなに圧倒的な力を持っていらしても、

こんなにも、もどかしい状況の中で、

私を直ぐには消し去ろうとはされていません。

どうしても、

決定打が無いのでしょう?

私の攻撃は確かに当たりませんが、

コトハ様も、

私の本体を攻撃する術がありませんものね?

それに、

迂闊に此処から離れる事も出来なくなりました。

リロクが、私の仲間だと知ったからです。

()()()()()()()()()()()

コトハ様が此処から動いたのを合図に、

私の仲間がスイ様達を攻撃するのでは、

そう考えてしまいますものね?」


先程までの、

にこやかな表情とは、また違う、

ニヤニヤとした下卑た笑みを浮かべて、

ルカは心底楽しそうに言った。


コトハはルカの言葉を遮らずに最後まで聞いた後、

上着のジャージのポケットに両手を突っ込むと、

自分の足下に視線を落とし、

綺麗に切り揃えられた爪を見ながら、

そのまま俯いてしまった。


ルカは自分の言葉が、

コトハの図星を突いたのだと思った。


しかし、

相変わらず、よく解らない女だとも思った。


この状況で、挑発を繰り返され、

苛立ちでもして、

もう少し取り乱すのが自然なのではないかと。


不貞腐れた様にも見える、

コトハの態度は、

この場にそぐわない、

不適切なものに感じられた。


「くだらないね」


コトハの声には、

虚勢でもなく、怒りに任せた感情でもない、

静かだか、高圧的にも取れる、

不思議な威圧感があった。


「くだらない?」


「うん。何だか眼が醒めるくらいに、

くだらなく感じたよ。

君は確かに強くて優秀な魔法使いだけれど、

話す内容はとんでもなくつまらなくて、

面白く無い。

陳腐で、ありきたりな、

絵に描いた様な俗物の、

何処にも辿り着かない妄想を聞かされてるみたいだ」


「……仮にそうだとしても、

私が言っている事は、

事実として揺るぎ無いのではと思いますけど?」


「此処は異世界で、

魔法に依る、不思議な事象に満ち溢れた世界だと、

僕は思っている。

それなのに、その不思議な事象を起こす原因の、

魔法使いである君達は、

揃いも揃って退屈な連中ばかりだ」


「その退屈な俗物を相手に、

コトハ様は今、解決策を見出だせずにいるのでは?

それに、リク様の事も、

お忘れにならない方がよろしいのでは?

スイ様でなくとも、

あの御方を楯にする事も出来るかもしれません」


「ハハハハハッ!!」


ルカの脅しに覆い被さる様に、

コトハが腹の底から上げた大きな笑い声を上げた。


「だから、くだらないと言っているんだ。

分からないかな?

分からないか。

だって君は頭が悪い。

その上、想像力も無い。

想像力が無いと云う事は、

魔法にとって致命的だ。

魔力が高かろうが低かろうが、

その致命的な欠点を抱えていては、

()()()()使()()()()()()()()

()()()()()()()()()()使()()()()()()()()


平坦で無機質な風が、

熱と冷気を帯び、

光を放ち、闇を孕んだ。


「君は僕に勝てない。

このままの拮抗を続けると云う意味じゃない。

僕が君を倒すと云う意味だ」


「……それを一体どうすると云う話なのでは?」


「おい、魔法使い。

良い事を教えてあげよう。

僕が未だ、うんと幼い頃の話だ。

僕には将来の夢があった。

成長するにつれて、その熱意は段々と薄れて、

すっかり忘れてしまっていたんだけれどね、

僕は計らずとも、

その夢を叶えてしまっていたんだ」


その言葉が終わると同時に、

風は止んだ。


「僕の将来の夢は魔法少女だったんだぜ?

願った事を全て叶えられる様な、

とんでもなく強い魔法少女だ。

子供の頃から、

僕の頭の中は想像の世界で一杯だったんだ、

僕が思っていた世界とは少し違うかも知れないけど、

想像力がものを云う世界の、

想像力を行使する戦いで、

僕が君なんかに負ける訳がないのさ」


風は再び、静かに、

その音を鳴り響かせる。


◆◆

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