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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
198/237

『その名、中央の魔女。』



一切の躊躇無く、

ルカの分身体から放たれ続ける数多の攻撃魔法は、

全てを破壊し尽くさんばかりの、

天災の様に激しいものだったにも拘わらず、

コトハには、

そのどれもが只の一度も掠る事すら無かった。


理解はしていたつもりだったが、

それはルカが警戒し、脅威と捉えている、

コトハの能力(全攻撃の見切り)を発動させる、

その眼を使われた時に限っての事だと、

自分は勘違いしていたのかも知れないと、

そうやってルカは考えていた。


地上にはルカが魔力で生成した分身が二十体。


空中を翔ぶコトハに向けて、

間髪を入れずに攻撃魔法を撃ち続けている。


威力も速度も申し分無い、

確実に殺す為の、

こんなにも多重に仕掛けられる攻撃を、

視覚を封じられて、

魔力の感知だけで、

如何に、中央の魔女と呼ばれる、

転移者で強大な魔法使いと云えど、

無傷で躱し続ける事が本当に可能なのだろうか?


懐疑と事実に心を確かに弾ませながら、

ルカはそう考えた。


二十体の分身は、

ルカの魔力から産み出したものではあるが、

魔力の波長を微妙に歪ませて出力する事で、

各々を独立した個体とした操作する事が出来た。


つまり、

コトハは二十体分の攻撃魔法の、

魔力の波長を個別に感知し、

発動から被弾の警戒範囲、

攻撃の軌道や着弾までの速度、

それらの全ての動きを、

読み切っていると云う事になるのだろうか。


(有り得ない)


何かは解らない。

解らないが、

コトハが如何に常識から外れた魔法使いだとしても、

何か仕掛けが無いかを疑わなければならない。


そうでなければ、

()()()()()()()()()()()()()

確実に。


しかし、ルカの魔力は未だ蓄えが尽きる様子は無い。


コトハが今現在は少しのミスを冒す事が無いにしても、

長期戦がルカにとって有利な事は変わらなかった。


コトハの魔力量は、

人間離れした桁外れのものではあるが、

身体に植え付けた魔瘤巣(まりゅうそう)の中に、

魔法使い何百人分かの魔力を溜め込んでいる、

ルカの魔力量には、

流石に敵うものではなかった。


戦闘が長引けば、

先に魔力が尽きるのは、

間違い無くコトハの方だった。


だが、

攻撃を躱すのに精一杯なのか、

秘かに策を講じているのかは判らないが、

ルカが攻撃の手を緩めた瞬間、

コトハは反撃の一打で、

ルカを絶命させかねない。


中央の魔女たる由縁、

他の追随を赦さない攻撃力と機動力。


圧倒的物量で圧すだけで、

勝てる相手ではなかったと云う事だ。


(そんなにも単純な話だとは思っていませんでしたが)


分身体を増やして、

攻撃の弾幕を更に分厚くさせる事も出来るが、

コトハの仕掛けを見抜かない限り、

おそらく結果が変わる事は無いだろう。


ルカはそう考えた後、

コトハとの戦闘を繰り広げている場所から、

遥か遠くの拠点で、

両の手の指をリズミカルに開いて拡げた。


人形を操る傀儡師の様に。


決して光を通す事の無い、

全てを塗り潰す様な暗幕に向けて、

微かな隙間も埋め尽くす、

更なる量の攻撃魔法が撃ち込まれた。


新たな分身体が二十体造られ、

その全ての分身体が、

コトハに向けて攻撃魔法を放ったのだ。


魔法の発生の反動で、

生まれた衝撃波が渦を巻いて、

辺り一帯の地表や岩山を激しく抉り、

空に浮かぶ分厚い雲も散り散りに消し飛んでいった。


其処に在った小さな集落は、

狂った様な吹き荒ぶ風に呑まれ、

建物の殆どは、

爆撃に捲き込まれた様に、

あっという間に瓦礫へと形を変えた。


其処に暮らす村人達の安否などは、

まるで考慮されていない。


微かな悲鳴は、

無慈悲な風の中へと消えていった。


「これだけの攻撃魔法をもってしても、

貴女には掠り傷ひとつ、

つけられやしないのでしょう。

貴女の領域に達する者など、

これより以前も、

これから先にも、

どのような才覚に恵まれた者が産まれたとしても、

幾漠たりとも居ない事でしょう。

中央の魔女、人類最強の魔法使い、

その名を冠するのに、正しく相応しい」


ルカは恍惚とした表情だった。


コトハを覆う闇色の幕は、

地上から、それを見上げるルカの眼にも、

何一つとして映し出す事は無く、

其処だけを切り取られたかの様に、

ただ、塗り潰された様に拡がっていた。


うっとりとした貌を浮かべたルカの分身の何体かが、

細切れにされる程にバラバラに切り刻まれた時に、

ルカは初めて、吹き飛んだ集落の辺り一帯を、

防護結界が覆っていた事に気がついた。


「やれやれ。

まさか民間人への被害も、お構い無しだとはね」


血や肉片では無い、

仮初めの何か別の液体と欠片を辺りに散らしながら、

次々とルカの分身が倒れていく中で、

中央の魔女(コトハ)の声が、

淡々とした様子で、

そうやって聴こえた。


しかし、声が聴こえるだけで、

コトハの姿は其処には無かった。


コトハの魔力の位置は、

変わらずに闇の幕の中に在る筈だった。


「……素晴らしい」


そう呟いたルカが、

見えない斬撃の様なモノで木っ端微塵にされていく。


「リンガレイ達にも、僕は能力の概要を知られても、

詳細を話した事は無かった。

何処かで僕の事を監視でもしていたのかな?

或いは、

眼を塞げば封じられると云う、

単純な発想に因るものなのかな?

それにしては念の入った対策を講じられたものだよ。

僕の眼の事に詳しい君は、

当然の様に僕の眼を封じようとしてきた。

だけれど、

その用意の周到さが、

知っている事と知らない事が君にある事を、

ハッキリと浮かび上がらせてしまったね」


風よりも迅く、

コトハの攻撃魔法はルカ達を蹴散らしていく。


「僕は眼で映して意識的に記憶した光景に、

ある程度までなら、

遠隔で魔法を発現させる事が出来る。

ただ、

地形や物の配置なんかを、

正確に記憶していて、

遡る必要が有るから、

思い出す迄に少し時間が掛かってしまった。

対人効果にだけ、

特化した能力だと思われがちだけれど、

こういう使い方も出来るんだ。

それと、

僕はこの魔法を使った時には、

必ず相手を生きては帰さなかった」


返事をする代わりに、

ルカは只、不敵な笑みを浮かべるだけだった。


「返答の内容は気になるけれど、

分身を倒されても痛くも痒くも無い君が、

答えてくれる事は無いのだろうね。

だけれど、

先刻も言った通りだ。

僕は、この魔法を使った時には、

相手を生きては帰さない」


ルカの造り出した分身は全て倒れ、

亡骸の一つも遺す事無く、

脆く崩れ去っていき、

魔法によって変容した、

凄惨な光景だけが其処には在った。


コトハを覆う闇の幕は解除され、

それは静かに熔けていく様にも見えた。


◆◆


♪Chevon『光ってろ正義』

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