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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『罠の中に於いて。』



浮かび上がったルカの顔を中心にして、

霧の様に細かな物が形を象っていくと、

魔力を帯びた粒子が幾度も再生を繰り返し、

その後には何事も無かった様に、

ルカは再び、その姿を現していた。


「魔法で造り出した木偶。

手応えなんて無い筈だ。

僕の把握出来る範囲に君の本体は居ない。

それに、

魔力の痕跡を巧い具合に隠している。

魔力の制御が得意だと云うだけの事は有るね。

だけれど、

この茶番劇を未だ続けるつもりなら、

次は外さない。

魔力の消耗が些か勿体無いけれど、

君の本体を必ず捉える」


コトハの言葉は、

相変わらず淡々としているが、

予定外の闖入者とのやり取りでの、

時間の浪費が面白くは無かった。


(彼女は戦うつもりは無いのだろう。

僕の視界に入らない様に、

何処かも知れない様な遠くから魔法を使っている)


ルカが能力に警戒している以上、

この場に本体が姿を現す事も無いだろうし、

相手がそのつもりなら、

寄越して来る分身程度に苦戦する事は無いと思った。


「繰り返しになるけれど、

君の要件が特に無いのなら、

もう終わりにしないかい?

降伏してくれ。

返答が無ければ、

此方のタイミングで君に攻撃を仕掛ける。

本気になった僕から、

逃げられるとは考えない方が良い」


コトハの瞳孔が形を変えてゆく。


彼女の言葉が、

全く何の虚飾も見栄も無い、

唯々、事実としか言い様の無い、

敵対する者にとっては、

突きつけられた死の恐怖に、怯え、戦慄し、

深い絶望を抱かせる事は、

相変わらずでしか無かった。


「こういった形で、

コトハ様と相見(あいまみ)える事が出来て、

私、光栄ですわ」


ルカは特に変わった様子も無く、

笑みを浮かべてそう言った。


「相見える?

冗談だろう?

君はコソコソと隠れているばかりじゃないか」


「私とて、命は惜しいですから」


「それなら降伏を勧める」


「ご冗談を」


ルカの言葉を待たずに、

再びコトハは彼女の首を斬り落としていた。


それと同時に、

リクに襲い掛かろうと床から出現した、

魔力で出来た数十本の触手を、

一つ残らず叩き斬ると、

髪の毛よりも、まだ細いルカの魔力の痕跡を、

その眼で追った。


既に変化しかけていた、

その両の眼の瞳孔は、まるで蜥蜴や蛇の様な、

縦型のものへと変貌を遂げた。


「ナツメくん。

あの木偶人形にスキルレンタルを使用してみてくれ」


リクに手早く指示を出すと、

返事を待たずに、

微かに魔力を感知した方角へ、

空を蹴って駆けると、

その瞬間には詠唱を終え、

リクの周囲に小型の結界を張っていた。


コトハが壁を軽く打ち抜いた後には、

瓦礫が崩れる音がして、

その姿は、もう其処には既に無かった。


◆◆


(まア、これは罠だろうね。

彼女(ルカ)は並大抵の魔法使いじゃ無い。

()()()()使()()()()()()()()()()()

わざと微量の魔力を漂わせている。

狙いは僕を誘い込む事か、

或いはナツメくんを独りにさせる事か)


その、どちらであったとしても、

コトハにとっては大差の有る話では無かった。


(僕の眼の事に随分と詳しい様だ)


コトハが翔ぶ、地上から遥か高くの空中に、

蜘蛛の巣の様に張り巡らされた捕縛魔法を、

コトハは顔色一つ変えずに、

全て避け切ると、

魔法を発生させているモノを素早く視界に捉えた。


其処に在ったのは、

小さな教会だった。


(術者は居ない。魔法の発動装置……、

つい先刻まで、此処に居たのだろうか?

そうだとしたら、移動速度が半端じゃア無いね。

僕よりも迅いかも知れない)


周囲に魔法使いが居る気配は無かった。


だが、ルカは魔力を消すのが常軌を逸して巧みだ。


既に、何かしら彼女の術中に、

誘い込まれている可能性は充分に有った。


(罠に誘い込んだからと云って、

彼女に僕の能力を牽制出来る力が有るのだろうか?

僕の能力を把握しているとしたなら、

彼女が、先ず最初に狙うのは)


ウクルクの首都、ウィソから随分離れた、

田舎の小さな集落の教会から、

その教会の内部に構築された自動発動の術式から、

闇色の幕の様なものが、

集落全てを巻き込み、呑み込んでしまう様な勢いで、

コトハに向かって放たれた。

それは黒だけではなく、

赤や緑や青、暗闇の中でチカチカと発光する様に、

光る、ありとあらゆる様々な色を、

瞼の裏に無理矢理押し込められた様な、

感覚を奪う類いの魔法だった。


(僕の視界を奪う事だ)


周囲一帯を遮断していく様に、

闇色の幕は、あっという間に面積を拡大し、

コトハには自分の姿でさえも、

目視出来ない様な暗がりの中に、

既に閉じ込められてしまっていた。


(魔法を封じる類いのモノでは無くて、

視覚を封じるだけの様だね。

まるで、僕の為に造られた魔法だ)


魔力の感知も、

手足の自由も利いた。


ただ、どんなに眼を凝らしても、

言葉通り、一寸先でさえ、何一つとして、

見えるものは無かった。


その最中に突如現れた、

敵意を持った魔力を感知すると、

コトハは身を翻して、

地上から放たれたであろう、

攻撃魔法を躱した。


そうやってコトハが、

攻撃を受けない事を察知していたのか、

攻撃は次々とコトハに向かって撃ち込まれ、

弾幕の様な攻撃魔法を、

視覚を奪われたコトハは、

魔力の感知のみで潜り抜けていった。


それは殺傷能力の高い魔法で、

皮膚に軽く触れただけでも肉を抉られるような痛みと、

致死率の高い貫通性を持つものだった。


コトハは魔力の質から、

魔法の危険性を察知していたが、

顔色一つ変える様子も無く、

何一つとして、戸惑う事も無く、

流麗に攻撃を躱し続けた。


その表情は感情に乏しく、

危機的な状況にも拘わらず、

退屈そうにすら見えた。


(もうナツメくんは、

スキルレンタルを発動している筈だけれど、

魔力の途切れた様子が無いところを見るに、

あの木偶人形と術者が、

魔力的な回路で繋がっていないか、

或いは遮断しているか。

この攻撃を仕掛けて来ているのが、

ルカじゃないと云うことなのか、

それとも、彼女本人か)


コトハは身体動きとは別物の様に、

ただボンヤリと思考を漂わせていた。


指先で虚空に、意味の無いものの様に見える、

図形の様なものを描きながら。


◆◆◆


「視界を塞がれて尚、よくもまア、

こんな量の攻撃魔法を躱し続けれるものです」


何処からともなく、

ルカの声が聴こえた。


「それでも、

貴女の一番の脅威である眼は使えません。

ほんの少しの乱れで、

全ては打ち崩れてしまう事でしょう。

私は、只、それを待てば良いだけなのです」


そうやって声はするのだが、

ルカの魔力を感知する事は出来なかった。


「私は此処には居ません。

貴女に見つからないように、もっと、

ずうっと遠くに隠れていますから」


クスクスと楽しそうな笑い声がする。


「私が魔力切れを起こすなんて考えないで下さいね」


その言葉通り、

ルカの放つ魔法は降りしきる雨の様に、

その勢いを少しも劣らせる事は無かった。


魔瘤巣(まりゅうそう)と云うものを御存知でしょうか?

一部の魔族……、尤も、

神話に出てくる様な、

魔王と呼ばれる存在の者達が、

肉体に宿すと云われる特殊な器官の事です。

通常、生物の体内で精製された魔力には、

蓄えておける限度と云うものが、

必ず存在するのですが、

魔瘤巣を持つ魔族に限っては、

その摂理には当てはまる事が無いのです。

無尽蔵に近い容量一杯に、

自分の魔力を蓄えておけるのですから」


魔法の勢いは更に苛烈さを増していく。


「私は特殊な技法を用いて、

それを身体に備えつけています。

魔力切れを起こす事の無い人生なんて、

魔法使いにとって、

なんて素晴らしいものだと思いませんか?」


◆◆◆


♪ なとり 『エウレカ』

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