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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第六章 『巡アラウンド・ザ・クロック』
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『ウクルクの侍女長。』



 「コトハ……。なんとも派手な帰還じゃったのう……」


ウクルクの国王リンガレイは、

精一杯、努めて明るく取り繕う事を、

端から諦めたような表情で、

重責に擦り潰されそうな、

絞り出した声を小さく発した。


「お前らしいしのう……。結界はまた張れば良い……。

良いんじゃが……、儂も年老いた身じゃからの……。

あんまり、身と心に負担を与えんようにしてくれると、

助かるんじゃが……」


──都を覆う様なサイズの結界を張るのには、

かなりの労力と手痛い経費が掛かる。


リンガレイはその本音を漏らさない様に、

グッと口を噤んで堪えた。


「まア……、それでも良い……。

よくぞ戻って来てくれた。儂は嬉しいぞ」


──言いたい事は有るが。


誰が見ても、

リンガレイがそう思っている事は明らかだった。


「あんなに脆い結界じゃ、

(コトハ)じゃなかったとしても、

いつか誰かに簡単に破られると思う」


張り詰めた空気に、

無遠慮に突き立てられたコトハの言葉は、

国王の周囲を取り巻いている家臣達の血の気を、

音が聞こえる程に退かせるのに充分だった。


「手厳しいのう……」


「今の他国との情勢から察するに、

侵入者を防ぐ為に結界を張るのなら、

生半可なものでは不充分だと云うことは、

どう考えても判りそうなものだと思うのだけれど」


「……うん。そうじゃのう……。

そこは……、まア、儂の落ち度じゃ」


「認めてしまうのかい?

僕は間違った事は言っていないけれど、

あれくらいの結界が、

ウクルクの出来得る限界のものだと?

そうだとすれば、

僕やスイの存在が、

些か、(リンガレイ)や、

この国を堕落させてしまっているのではないのかな」


「……確かに、お前達母娘には頼りきりじゃ」


「転移者が多い地域とは云え、

国力をそれで賄うと云う考えが、

僕は昔から好きじゃない」


「……尤もじゃ」


コトハの言葉の勢いは容赦なかった。

悪意無く、真実を突いている為、

殊更、鋭く感じられる。


「僕達が対峙しているのは、

おそらく、()()()()()()()()()()

……僕は最初、

結界を破った事を素直に謝ろうと思っていた。

だけれど、君達の様子を見て気が変わった。

あんな薄い結界を後生大事にしたところで、

誰も何ひとつだって見過ごしてくれやしない。

七年前から、

君達は何ひとつ変わろうとしていなかったようだね。

でも、

それじゃ助かるものも助からない。

いい加減に気づいた方が良いと僕は思う」


「……」


キツい口調ではあったが、

傍らで様子を観ているリクには、

コトハが怒っている様子だとは感じられなかった。


ただ、

項垂れて消沈している、

リンガレイや家臣達の表情は暗い。


「と、まア、これは嫌味だ。

七年も愛娘と離ればなれに暮らす事になったんだ。

嫌味のひとつも言いたくなる。

本題に入ろう」


コトハがそう言うと、

場の空気は一変した。

僅かな光明に群がる、

羽虫の様だとも思えた。


「総力戦を行うには明らかに戦力が足りない。

此処へ来る前に、

聖域教会の司教の一人と戦闘になったけれど、

実力はかなり高かった。

幾ら転移者に天恵者(チート)が多いとは云え、

向こうの幹部級の連中も、

軒並み同じ様なものなのだろうね。

そして、圧倒的に数で負けている」


「その通りじゃ。だから、各国で連携を取って、

戦力差を埋めようと躍起になっておる」


「本当にそうかな?と僕は思う」


「どういう事じゃ?

イファルでは魔族にまで協力を要請しとるんじゃぞ?」


「実力者の評価を正当に行っているかい?

名の有る者ばかりに、

人選が偏ってしまっているんじゃないかな?

もう少し懐を深くして、

他人を見た方が良いと僕は思う」


「それは……、当然そうなるじゃろう?」


「詰めが甘いね。

この世界の魔法と云うものについては、

君達の方が詳しい筈だろう?

()()()()()()()()()()()()()()()

誰にも判りやしないよ。

君と僕が、

お互いに頭の中身を覗けないのと同じように」


「どういう意味じゃ?」


「例えばだけれどね、

ここに居るナツメくん。

彼の能力は最初期には微弱なものだと思われていた。

彼の鑑定結果を聞いて、

この場に居る誰もが、

彼に高い評価なんて与えなかったんじゃないかな?」


「……うむ」


「だけど、

彼は自分の能力を派生させていき、

この世界でも稀な特異なものへと変質させていった。

ステータスでは遥かに劣る格上相手に、

彼は鬼火のロウウェンを倒す切り札となり、

聖域教会の司教ですら彼には手こずった。

誰が、こんな結果を予想出来ただろうね?」


コトハの言葉の後には、

家臣達を中心に驚嘆やざわめきが、

伝染する様にして渦を巻いていた。


「なんと……。リクよ、まさか、

そんなにも逞しい使い手になっておるとは!!」


「いや! 偶々! たまたまですから!」


「僕にはそれが彼だけに訪れた偶然には、

どうしても思えない。

そして、魔法使い同士の戦いの本質と云うものが、

そこには在ると考えている」


「煽んな!」


「うむ……。確かにそれはそうじゃと儂も思う」


「だろう?

そこで(リンガレイ)に提案があるんだよ。

これは旧友としての僕から君への、お願いでもある」


「何じゃ? 言うてみよ」


「ヤンマを前線に配置してみてはどうかな?

勿論、呪具師として。

彼の能力を、

あんな街外れで燻らせておくのは勿体ない」


「……うむ。まア、それはそうなんじゃが……」


「そうしない理由は? 彼との確執なんて、

この際、一旦忘れてしまう事は出来ないのかな?」


「ううむ……」


「何を拘っているのかは、

僕にはよく分からないけれど、

君は勝算の確率をわざわざ減らすのかい?

一国の君主として、それはどうなんだい?」


「……儂とて、

国中の戦力を掻き集める事くらい考えた。

……しかし、儂には人徳が無い。

……情けない話じゃが。

儂が頼んだとて、ヤンマが儂を赦すかどうか……」


「何を弱腰な事を。

君の人徳が無いのだとしたら、

そういうところじゃないのかな?」


二人のやり取りを眺めながら、

リクには段々とリンガレイが不憫に思えてきていた。


「ヤンマとの交渉には、

代理を立てて行ってもらえば良い。

なんなら、僕が行く。

それと、転移者の件だ。

もう、どこの国も勘づいているだろうけれど、

ウクルクには転移者が何故か多い。

どう考えても不自然だ。

その事で、(リンガレイ)が知っている事を、

全て話して欲しい」


「……な、なんの事かのう?」


「バレていないと思っているのは、

多分、世界で君だけだ。

混乱した情勢に乗じて、

他の国が秘密を暴こうとして、

攻め込んで来ないとも限らない。

イファルの後ろ楯も、

いつまでも有効では無いだろう。

国民を余計な争いに巻き込みたくなかったら、

洗いざらい喋ってしまいなよ」


「う……うう……」


◆◆


リンガレイは額に脂汗を浮かべながら、

言葉を発するか否かを思い悩むと、

その顔には苦悶の表情が、

消えない呪いの様に張り付いてしまっていた。


他の家臣達も同様に押し黙り、

時間が停まってしまった様な重い静寂が訪れた。


「陛下をあまり虐めないで差し上げて下さい」


静寂を打ち消そうとして、

コトハがリンガレイに決断を迫ろうと思った矢先、

その声の主はソッと音も無く現れた。


「やア、本当に久しぶりだね。ルカさん」


声の主は、

城内の侍女の纏め役の、

コトハやスイとも旧知の仲であるルカと云う女だった。


討伐依頼の遠征などで家を空ける事の多かった時期に、

未だ幼かったスイの世話を頼んだり、

育児や家事の事など、

まるで何も分からなかったコトハに付き添い、

生活と云うものを手取り足取り教えた人物である。


その姿は年月を経ても美しく、

落ち着いた声や所作に似つかわしく無い程に若かった。


それは、コトハが異世界に足を踏み入れた頃から、

時間が経過する事を忘れてしまった様な、

()()()()()()()

瑞々しい肉体のままだった。


「お久しぶりです。コトハ様。

私が全てをお話します。

……もう、隠していたって、

仕様がありませんものね」


ルカが微笑みながら、

そうやって言うと、

その姿は慈愛に満ちた母の様なものに思えた。


「驚いたな」


ルカを見てコトハが呟いた。


「歳をとらない人だな、とは思っていたけれど、

それは単なる老いの問題では無いみたいだね。

一体いつから、

その姿だったのだろう?

()()()()()()()使()()()()()()()()()()()


◆◆◆

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