『転移者と管理者の話。』
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女は時折、足を停めてクルッと振り返り、
話の続きをアメビックスにしてやろうとでも云うのか、
どことなく、話したくて仕方が無いと云った様子で、
とても嬉しそうに話し続けるのであった。
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──まア、
転移者と一口に云ってもピンからキリだ。
大概の転移者は、
俺達にとっては問題にはならないんだけどな。
時折、頭のネジが外れた様な連中が、
何も知らずに迷い込んで来る事もある。
そういう連中に限って、何故だか、
怪物じみた能力を手にする事が多い。
お前も、それは知ってるだろう?
中央の魔女や聖域教会の始教皇、
それと、
あの女神に気に入られていた奴。
大陸で知らない奴は居ないだろうな。
俺は全員に会った事が有るが、
管理者以外の存在から、
あんなにも恐怖を感じた事なんて無かったぜ?
転移者と云うのは厄介だ。
何処の国も、挙って転移者を取り合うし、
保有したがる。まるで兵器だと俺は思う。
この世界の事情を何も知らない転移者達は、
各々が都合の良い事を吹き込まれて、
妙な使命感を持って世界と対峙し始める。
それはとても迷惑な事で、不愉快でしか無い。
お前も身に覚えがあるんじゃないのか?
南の田舎を、お前が我が物顔で荒らし回っている時に、
お前を討伐に来たのは転移者だっただろう?
──あア、そうだ。妹の方だったか。
妹を捜す姉を、此方の世界に送ったんだったかな?
その姉が、今や聖域教会の司教だ。
不公平だとは思わないか?
ニホンに居た時には、普通の子供だっただろうに、
転移しただけで、常人離れした能力が手に入ったんだ。
長い時間を掛けて研鑽を続けた者への、
冒涜だとすら感じられる。
それに、お前が此方に送った娘には、
あの女の加護が施されている。
……んン? 何だよ……、その顔は?
まさか知らなかったとでも言うんじゃないだろうな?
あの娘の様子も、
中央の魔女と、あの餓鬼の様子も見ていただろうに。
……あア、まさか俺が来たから、
観察を中断せざるを得なかったのか?
悪い悪い。
祝音者とか云ったか、
あの女の加護は厄介だぞ?
さア、ここで俺には疑問が一つ浮かぶ。
勿論、それは転移者に付与される能力についてだ。
あの娘を転送したのは、お前だ。
何か仕掛けはしていたようだが、
能力の付与について、
お前は干渉していないだろう。
と云うか、
お前にそれを選択する事は、
思い浮かびもしなかったんじゃないか?
それに、
彼方から、此方に転移して来た、俺とお前には、
何故、能力の付与は無いんだろうな?
……不公平だよなア?
幾ら、不老の魔法で朽ちない身体だとは云え、
無敵にはなれないからこそ、
俺は多分、こんな事を思ってしまうのだろうな。
だから、俺は考えたよ。
無いなら、奪えば良い。
そう思い付いた頃には、
目障りだった転移者達の存在が、
少しだけ待ち遠しくなる様な感覚になっていたよ。
何せ、俺の能力は模写だ。
当然、只の模写では無いけどな。
おかげで、
俺は自分の本当の名前が思い出せない羽目になった。
俺の今の名前はシージ。
聖域教会の大司教だ。
──女はそう言うと、
その身体は溶けていく様に、
アメビックスの知る悠の姿から変貌していった。
「さア。魔法の世界へ戻ろうぜ。
中央の魔女、その娘の精霊使い。
転移者の姉妹、それに、あの妙な能力の男の餓鬼。
間違い無く、あの世界は動こうとしている。
こんなにも楽しい局面を、
見逃す手は無いからな」
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