『正体。』
◆
──女は語り続けた。
◆◆
あア、そうか。
随分と年月も経ったものだし、
一体、事の顛末の何から何までが、
何処でどうなって、此処まで辿り着いたものなのか、
知らないヤツが居るっていうのも、
それは当然の話ではあるし、
俺もその点については、
少しばかりはお前に教えてやったって、
悪くは無いと思っているんだぜ?
んン?
何だよ。その表情は?
まるで疑ってかかってるって様子だな?
心配するなよ。
俺だって慈悲の心を、
全く持ち合わせていないと云う訳じゃない。
だけれど、勘違いはするもんじゃないぜ?
俺は別にお前に、
懇切丁寧に、全てを理解出来る様に、
一から十まで教えてやろうとも思っていない。
こんな事を言えば、
それ見たことか、と思うかも知れないがな。
だけれども、
お前がそれをそう思ったところで、
俺は一向に構わないし、
寧ろ、
お前が自分の愚かさに、
いつ気づくのだろうかと考えてやるくらいしか、
俺にはしてやれないのだからな。
……怒るなよ。
さア、前置きはこのくらいで良いだろう?
今から話の続きを聞かせてやる。
◆◆
俺達が、管理者なんて、
大仰で、偉そうな名称を名乗っているのにはな、
きちんとした、くだらない理由が有る。
まずは、そこから説明してやらないといけない。
お前達が好きに生きてると思い込んでいる、
この偽りだらけの世界が、
如何に計略と虚構で造り上げられてきたかをだ。
先ず、前提として俺達は、
不老の魔法と云うものを知っている。
俺達が、お前が想像し得る、
どんなにも遡った過去よりも、
遥か旧くから存在しているのはその為だ。
俺達は寿命で朽ちる事の無い肉体を持っている。
……信じられないだろう?
だが、事実だ。
……エルフなのかって?
違う。
俺達は不老の魔法で、
生命の理を外れているだけで、
元々は只の人間だ。
それによく考えてもみろ?
そんなに永く生きている者は、
エルフの中にだって、
たったの一人だって、居やしないんだぞ?
……まア、問題はそこじゃ無い。
重要な事は、
俺達が全員、
永遠に近い寿命を、
持て余している腐った人間だと云う事だ。
腐った人間が、
暇を見つけるとどうなると思う?
俺達の退屈しのぎは、
世界にとって、さぞかし迷惑なものだっただろうな。
神も、
人間も魔族も亜人も、
俺達の箱庭に並べる為の遊び道具だ。
俺達は、この世界のあらゆる歴史に介入し、
悪戯に人心を煽動して惑わし、
思いつく限りの火種を産み落とし続けた。
お前の拙い想像をする力が一体、
どこの範疇まで届くのだろうな?
俺達の描いた思惑通りに、
神も国も人も狂った様に躍り続けて、
人が国を滅ぼし、
国が神を脅かし、
神が人を裁いた。
お前達が産まれてから死ぬまでの、
喜びも悲しみも、
その全てが俺達には愉快で仕方ない。
逆上せ上がった俺達が、
自分達の事を世界を統べるべき存在だと、
思い上がるのには、
そんなに時間は掛からなかったんだぜ?
考えてもみろ?
俺達の箱庭に置いてある駒は、
全て俺達の思うがままに操れる。
こんなにも快感を覚える事なんて、
随分と永い間生きてきたが、
他には何一つだって在りはしないんだぜ?
やがて俺達は管理者と名乗る様になった。
それからの俺達は、
気紛れに駒で遊ぶのを止めにして、
話し合いで決まった、
一番愉快な盤面を創り上げる事に、
心血を注ぐ事にした。
狂ってるだろう?
だけれど、
それが俺達の正体だ。
◆◆◆
だがな、
俺達の、この何よりも楽しい狂った遊びを続けるのに、
不都合な事が無い事も無いんだ。
俺達は寿命で朽ちる事は無いが、
万能じゃア無い。
本当にくだらない、
冗談の様な話だが、
不老であっても、不死では無いんだ。
俺達の臓器や血液や筋肉は、
一定のサイクルで、
自動的に新しく活きの良い状態に取り替えられる。
だが、
その再生のサイクルに間に合わずに、
致命傷を受けた場合、
俺達は、きちんと生物的な意味合いで死ぬ。
解るか?
だから俺達は、
その不安要素を取り除く事にも、
抜かりはないようにしている。
だからと云って、
誤解はしてくれるなよ?
お前ほどに長く生きた魔族の魔法でも、
俺を殺すのは容易な事では無い。
お前が生きた時間の何倍、或いは、何十倍も、
俺達は長く生き続け、研鑽を怠ってはいない。
例外は在るが、
俺達を殺す事の出来る奴なんて、
この世界の何処を捜したって、
そうそうは居ないんだ。
あア、例外の事が知りたいか?
ようやく話の本題に入れるな。
愚図のお前でも、
何となく察しはつくだろうが、
例外とは、無論、転移者の事だ。
異界の、それも小さな島国から時折、
呼び寄せられる様に現れる、あの忌々しい連中だ。
アメビックス。
お前、転移者の事も調べていただろう?
お前がニホンに居たのは、
リロクから逃げる為だけじゃア無い。
ククク。
安心しろよ?
そこだけは、お前の事を精一杯褒めてやるぞ?
転移者は、
転移前には、格別優れていると云う訳では無い。
転移前と転移後で、
奴らに一体、何が起きる?
俺達の天敵の事を、
俺達は知らなければならないのさ。
ズタズタに身体を引き裂いて、
頭も目玉もくり貫いて、
血も肉も、細胞の一つたりとも遺さずに、
調べたって構わないんだぜ。
──女はそう言うと、声を上げて、
本当に可笑しそうに高らかに嗤った。
その様子は、さながら、
狂人の様にしか客観的には見る事が出来なかった。
◆◆◆◆
♪ナユタン星人『エイリアンエイリアン』




