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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
191/237

『扉。』


※毎度ありがとうございます!

次話よりヌルっと新章に移ります!



(ナツメくん)さ、

ヤンマにお礼を言わなくちゃいけないんじゃないかな?

それこそ配慮に欠けるよ」


リクの前を歩いているコトハが、

突然振り返って、

思い出したようにして、そう言った。


「お……、俺? 何で?」


向こう(日本)に居た時には判らなかったけど、

君、その服(異世界で買った服)に、

呪符(スペルカード)を貼ってるだろう?」


「あ……」


そう言われるまで、

リクはその事をすっかり忘れていた。


「忘れてたって顔だね。

ヤンマに知られたら怒られるよ?」


「いや! 忘れてないが!?」


「物理や魔法の攻撃をかなり軽減してくれてる筈だよ」


「……まあ、言われてみれば……」


「尤も、先刻のイズナとの戦闘で、

流石に効力を失ってしまっているみたいだけどね」


リクは確かめる様に、

服の内側に貼られた呪符を確認しようとした。


すると、

消し炭の様に黒くなった呪符がパラパラと、

舞う様にしてこぼれ落ちていった。


「うわ」


「ほらね」


コトハは地面に散らばった呪符を指でつまむと、

しげしげと観察して指で磨り潰した。


「随分と念入りに仕上げたものだね」


焼け焦げた匂いと僅かな血生臭さがして、

その匂いを、スン、と軽く嗅いでポツリとそう呟くと、

リクに微笑んでみせた。


そして、指先を服の端で払いながら、

建物の中へ入って行った。


「何で嬉しそうなんだよ?念入りって?」


「いやア、ヤンマは良い男だなって思ったのさ。

(スイ)の事を大切にしてくれる。

僕が居なくなってからも、

きっとスイの事を守り続けてくれていたんだ」


「そんなの見てわかるのか?」


「僕には判る。

あの男嫌いのヤンマが君の呪符にさえ、

特注品並みの強力な呪力を込めていた。

彼の性格から察するに、

気に食わない異世界の男への施呪(カース)より、

愛娘に施すものが劣っている事なんて絶対に無い」


「……そこは平等にするのが格好いいんじゃなくて?」


「ヤンマはそういう人なんだ。

彼はちゃんと命に順番をつける。

意識的か無意識的にかは知らないけれど、

僕は彼のそういうところが嫌いじゃない」


「なんか凄い冷酷な人なんだって聞こえるんだけど……」


「誤解はされ易いね」


「あのさ、何でヤンマさんと結婚したの?

きっかけは?」


「結婚してくれってしつこく言われたから」


「それ聞いたら傷つくんじゃないか……?」


「嘘を吐いたってヤンマは喜ばない」


「それはそうかもだけどさ……」


「それに考えてもみなよ?

僕に惚れた腫れたが理解出来ると思うかい?」


「それは確かに……」


「何だよその眼は?」


コトハはムッとした様な顔をして、

リクを軽く蹴ろうとした。


「自分が言ったんじゃん!?」


リクはそれを躱しながら抗議した。


「僕も異性に対して好意的な感情くらい抱く」


コトハは淡々と言葉を述べた。


「だけど、

それは世間一般の恋愛観とは程遠いものなんだと思う。

自分でも自覚しているけれど、

君には異質に感じられるだろうね。

それは僕の感情が他の何かと比べた時に、

幼稚で稚拙なものだからに違いない」


自嘲的にも聞こえたが、

コトハにそのつもりが無い事はリクにも分かった。


「それでも僕は僕なりにヤンマを愛しているよ」


転移魔法の装置が有る、

地下に掘られた部屋まで向かう階段は長かった。

ヒンヤリとした空気と、

何故だか暖められた様な生温かい空気が、

埃と混ぜられた匂いがした。


「彼とスイとの、三人の生活は楽しかった。

僕達はそれぞれがちゃんと何処か欠けていた。

そして、

それを補い合う様な感覚はとても心地好かった」


「……温度差」


「ん?」


「温度差。スイの事は、

無条件に愛しまくるーって感じだったのに。

俺の主観だけどな?

なんかヤンマさんとスイとじゃ、

お前の愛情は種類が違うんだな」


「違うんだろうね」


「そんなめっちゃアッサリと」


「それ以外に説明のしようが無いからさ。

君の主観でどう見えていたとしても、

僕は僕なりにヤンマを愛しているっていうのが、

君の疑問への解答を含んだ全てだよ」


「わからん」


「だろうね。君も大人になれば、

そういう事を考えるようになるかも知れない」


同い年(タメ)じゃん」


「僕と君には、

埋められない年齢差が出来てしまっている」


「つってもさ、お前見た目若いし。

パッと見全然わからん」


「そういう事を言ってるんじゃないんだけどな」


コトハはそこで話を切った。


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リクにはコトハが何を言いたかったのかは、

理解出来なかったが、

これ以上訊くのも野暮なのだろうと思い、

何も訊かない事にした。


短い付き合いだが、

この点については、なんとなくだが、

コトハと通じて合っている様な気持ちになれた。


「ところでさ、

ヤエファの義妹達が案内してくれると言っていたけど、

気づけば僕と君しか居ないね」


「言われてみればそうだな」


レイフォンもメイも、

建物に入るまでは、

コトハを取り囲んで一緒に騒いでいたものの、

思い返せば建物の中には入って来なかったのだ。


「あいつらどうしたんだろ?」


「ヤエファの仲間だから、きっと自由なんだよ」


レイフォン達がついて来ていない事に、

確かに違和感はあったが、

それについてコトハは特に気にしていない様子だった。


「転移門を使うだけだし。

君は使った事があるのかな?」


「いや、ない」


「そっか」


「シファの森に、

簡易的な転移門があるってスイが言ってたな」


「そういえばそうだね」


「俺はなんとなく転移門って言葉を使ってるけど、

要するに記録されてる行き先に、

自由に行き来出来る装置って事だよな?」


「それで合ってる。

君がイメージしている、そのままの通りだろう。

簡素な造りのものから、

意匠が凝らされた巨大なものまで形は様々だけど」


「大きさは容量に関係してるとか?」


「なんだよ。やけに鋭いね。そうだよ。

大きければ大きい程、転移先を多く記録出来る」


「ここのは大きいのかな?」


「聖域教会が拠点にしてる街だからね。

それなりには大きいんじゃないかな」


「北のさ、ネイジンってとこにも繋がってんのかな?」


「どうだろうね。僕の知ってる限りの都市部には、

ネイジン行きのものは無かったな。

国交の在る国でさえ、

直通のルートを持たせないみたいだね。

尤も、司教(イズナ)が滞在している様な場所だから、

或いは専用の転移門が有るかも知れないね」


「機密事項」


「まア、教団とは名ばかりの、

世界一過激な軍事国家だからね」


「怖えな」


「多分だけど、

ネイジンへ行く為の記録が残されていたとしても、

おそらくセキリュテイの様なものが仕掛けられていて、

転移先に着いた途端、僕達はあっという間に、

教団の率いる軍隊に取り囲まれていると思うよ。

若しくは転送の最中に、

何処か別の場所へ弾き飛ばされてしまうかだね」


「厳重なんだな」


「僕が七年前にネイジンへ行った時にも、

殆ど陸路で向かったからね。

あちらから痕跡の調査要請を出しておいて、

随分とケチ臭い話だなと愚痴っぽくなっていたよ。

ところでさ、

ナツメくんはネイジンに行きたいのかい?」


「いんや。

スイがさ、お前がネイジンに行ったっきり、

帰って来ないって言ってたから」


「それが印象に残っていたんだね。

……スイには本当に悪い事をした。

まだ幼かった彼女からすれば、

僕は突然行方を眩ませた、ろくでもない母親だ。

たとえ恨まれていたとしたら、

僕はスイに何と言って、

赦しを乞えば良いのかわからない」


「いや、そんな事ないって。

確かに寂しがってはいたけどさ、

恨んでる風になんて、

俺にはこれっぽっちも思えなかったぞ」


「ありがとう。僕は口に出して言葉にする事で、

気持ちを落ち着かせようとしているんだ」


「もういい加減、帰ってやんないとな」


「うん。その通りだ。

手の届く距離に、スイが居ると云うのに、

未だ逢えない。凄くもどかしい」


「そうだな」


長い長い、

暗く冷たい階段を降り続けた二人の目の先に、

ようやく開けた広間の様な場所が現れると、

其処には仰々しく、重たそうな扉と、

それを照らす灯りがあった。


扉に彫って刻まれた、

獣頭人身の異形の姿をしたものは、

北方で信仰されている神だと、

コトハが言った。


「さて、ようやく此処から移動が出来るね」


「あのさ、ウクルクに寄らないで、

イファルに直行したら駄目なのか?」


「何だよ。そんなにヤンマに会うのが怖いのかい?

君、本当はスイに、

ちょっかいをかけていたんじゃないだろうね?」


「違うわ!」


「だって君はヤンマの話になると暗い顔をするからさ。

よほど後ろめたい事があるんじゃないかと」


「無い! そうじゃなくて!

スイが待ってんだから、

ちょっとでも早く行ってやった方が良いだろ?」


「冗談だよ。君の心遣いはわかってるよ。

ウクルクに着けばイファルへの連絡手段くらいある。

もう入れ違わないで済む様に、

スイに連絡をしてあげたら良い」


コトハはリクを安心させてやろうと、

そうやって声を掛けてみせた。

その、いつもに比べて幾分か柔らかげな声に、

張り詰めた様に硬直していたリクの心のどこかが、

撫でられて弛んでいく様な心持ちがしていた。


「君はさ」


「え?」


「僕の気持ちを汲んでくれて、

色々と思案をしてくれているけれど、

君自身はどうなんだろう?

君はスイに本当に逢いたい?」


「……逢いたいって言ったら、

またからかうんじゃねぇの?」


「からかわない」


「……そりゃ逢いたいよ。別にあいつの事、

好きだとかじゃなくて……、

いや、勿論、良いヤツだなって思うから、

そういう点では好きなんだけど、

あいつの、スイの接し方って、

俺には凄い心地好いっていうか……、

あんな風にずけずけとモノを言ってくるヤツとか、

初めてだったし……、

異世界(こっち)に来てから、

活躍なんかロクにしてないけど、

アイツと過ごしてから、

なんか、自信みたいなものもついてきたし……。

それに、楽しいんだよ。

わけわかんない事ばっかだけど、

理屈抜きで、

とにかく楽しいんだ」


「うん」


「……だから、俺はスイにもう一度逢いたい。

アイツのパーティーの仲間でいたい。

それに、お前とスイが再会するのを、

きちんと見届けたい」


「君は優しい人だ」


「そんな事も無いけどな」


「そして、思春期特有のアレだ」


「やっぱりからかうんじゃん!」


「でも僕は嫌いじゃない。

なんなら好意的にすら感じる。

ナツメくん。

今からするのは覚悟の話だ。

一応、君の意思を確認してから、

此方へ戻ったつもりではあるけれど、

君がこの世界でやっていく心積もりを、

僕はもう一度確かめたい」


「どうやって?」


「まア、君は見た目に反して、

なかなか骨の在る人物だと僕は思っているし、

この不可思議な世界で立ち回る為の、

才覚も充分に持ち合わせていると思う。

僕は君に一つだけ質問をするから、

それに答えてくれたら良い。

自分が思う通り、正直に」


「ああ」


「それじゃ君に問うけど、

僕に何かあった時には、

君はスイの傍に居てやってくれるかい?」


「え? お前死ぬの?」


「茶化すなよ。どうなんだい?」


「いや……、ちょっと想像出来ないんだけど」


「いいから。余計な事は考えずに」


「……そりゃ、お前がまた居なくなったら、

アイツ悲しむだろ。

俺が居て、何かの足しになるとは思えないけど、

傍に居て良いんなら、居るよ」


「ふふ。わかった。ありがとう」


「なんだよ? なにが正解なんだよ」


「もう充分だよ。スイをよろしく頼むよ。

一応言っておくけれど、僕は死ななし、

安っぽいフラグを立てた訳じゃない。

それでも、何があるかなんて誰にもわからない。

だから、娘の心配をするのは、当然の事だろう?」


「俺は親じゃないからな」


「そうだね。

だけど、僕もスイの本当の親じゃない。

それでも、スイの事を何よりも大切に思っている。

そして、

僕は大切な人間との時間を、

それは僕の人生に於いて、

おそらく最も重要で、護るべきものだったのだけれど、

七年間も奪われてしまった。

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時間は元には戻らないとしてもだ。

それに、

仮にも、この世界で一番強大な力を相手に、

僕達は戦いを挑んで、

勝たなければいけないかも知れない。

そうする事は僕達にとって、

この世界そのものに抗おうと考えるのと同じ事だ。

それならば、

そのくらいの心構えは必要だろう?」


「俺が役に立てるかは、わかんないけど」


リクがそう答えると、

コトハはリクの顔を、しばらくの間じっと見つめた後、

特に何の合図も無く、

二人の前で閉ざされたままの扉を開けた。


その奥に通じている部屋からは、

転移装置の動力となっている魔力が供給される、

機械音に似た音が聴こえ、

密閉されて閉ざされた空間に、

その魔力が空気の様に漂っているのが、

意識をしなくても眼に映る様子だった。


コトハの言葉の意味を、

リクは自分が理解出来たのかは把握出来なかったが、

この世界に戻ってこれた事は、

自分にとって幸福な事であるのだと、

彼は強く感じていた。


誰かが、

自分に言い聞かす様に、

心の中で繰り返す、それはとても強く。


「ナツメくん、行こう」


コトハの声に、

リクをゆっくりと頷いてみせた。


◆◆

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