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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
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『事実は大体想像と違う。』


※コトハ、リクのパートになります!



イズナ(南方司教)達の監視下にあった城壁の中の街。


転移門の設置された建物に行くまでに、

リクとコトハは正気を保った住民を、

ただの一人として見かけなかった。


「皆、眠ってるか幻を見せられているみたいだね」


足元で鼾をかいて眠る女を跨いで通りながら、

コトハはそう言った。


「コレ、大丈夫なのかな? 何かの罪にならないの?」


リクも似たような状態の住民に、

なるべく触れない様にしてコトハに訊いた。


「立派な罪だろうね。

彼女(ヤエファ)、円くなったとは言っていたけど、

度胸や躊躇の無さは健在だ」


コトハは何気無い調子で返した。


建物に近づくにつれ、

その周辺には幾つかの気配が有る事が、

リクにも感じとる事が出来た。


ミンシュ(ヤエファの義妹)達かな」


武装した兵隊が昏倒している、

一際大きな建築物の前で、

待ち構える様に手を振っている女が居た。


「おーい。 あ? 何だよ、ホントにリクだヨ」


声を掛けてきたのはレイフォンだった。


「だからラクシェが先刻からそう言ってたし。

知らんけど」


レイフォンと一緒に居たのはメイだった。


「マジで戻って来てたんかヨ。スイが心配してたヨ」


「そーそー。知らんけど」


「どっちだよ」


「それでぇ、貴女がコトハぁ?」


相変わらずのんびりとした口調で、

ラクシェがコトハに訊いた。


「そうだよ。はじめまして。

君達がヤエファの義妹さん達かな?

僕の事を知ってくれてるなんて光栄だな」


コトハはラクシェに微笑みかけてそう言った。


「イケメン……。 おい! メイ! イケメンだヨ!」


「わかるし! 顔面良すぎだし! 知らんけど!」


(営業スマイル。身体に沁み着いてんのかね)


コトハの笑顔を見てリクはそう思った。


「ヤエファから聞いてるしぃ、

コトハ(中央の魔女)の名前を知らない人ってぇ、

なかなか居ないんじゃないぃ?」


「スイのかーちゃん……。若すぎるし! 知らんけど!」


「え? 女なんだヨね? ほんとにスイの母親かヨ?」


「スイは僕の娘だよ。

血は繋がってないけど僕の大切な家族だ」


「そんなん言われた過ぎるし! 知らんけど!」


「こりゃヤエファが惚れた惚れた言う筈だヨ!」


「あはは。ヤエファには可愛い義妹達が居たんだね」


華やかな雰囲気だな、

リクはなんとなく気後れしながらそう思っていた。


その様子を建物の中から、

ミンシュが顔だけを出して覗いて、

声を掛けずに伺っている。


「……何してるの?」


ハツが不思議そうにそう訊いた。


「……別に何でも無いですー……」


どう考えても何かに気後れした様な、

ミンシュの様子を見ても、

リクには何の事だか全く分かる余地は無かったのだが。


「ところでさ」


コトハがレイフォンとメイの反応を遮って訊ねた。


「この街の転移門は中央諸国の、

どの辺りまで移動出来るのかな?

僕達はイファルに行きたい。だけど、

イファルに直行するログは無いとヤエファが言ってた」


「そうだヨ! リオハイってところまでだヨ!」


「ふむ。それほどイファルとも離れていないね」


「どのくらいなんだ?」


良い質問だ(ナツメくん)。直線距離で云うと、

1400キロと少しくらいかな」


「結構離れてない?」


「リオハイからなら、

イファルに向かうまでにウクルクを通る事になる。

ウクルクに行けばイファルへの転移が簡単だよ。

それまでにも転移門は有るだろうけれど」


「急ぐんだろ?」


「急ぐ。でも、ウクルクに寄るのも悪くない。

ヤンマにも帰って来た事を言いたい」


「……ヤンマさんか……」


「君もヤンマには逢った事あるんだろう?」


「……あるよ」


「気まずそうだね? なんで?」


そう訊かれて、

リクには露になったスイの背中と、

その感触を自分の頭と手が、

ハッキリと憶えている事を思い出された。


それに随分、

自分はコトハと密に過ごしていた。


コトハの部屋で寝泊まりし、

不可抗力では有るが彼女を抱きかかえて、

手を繋いで夜道を歩いたりもしている。


「スイに手を出すな」と、

圧をかけて来た時のヤンマの表情も忘れられない。


「まあ……、色々あんだよ……」


「ヤンマに後ろめたい事でも有るのかい?

というか、その様子だと有るんだろうね。

どうしても会いたくなかったら、

君は何処かで待っててくれたら良い」


「……ていうかさ、

そんなにのんびりしてても良いのか?」


「最初の予定なんて、

その通りにいかないものさ。

それに関してあたふたとするのは僕は好きじゃない」


「でしょうね」


「それに東暁(ひがしあかつき)姉妹の件についても、

ウクルク王に訊いておきたい事がある」


「イズナ達の事を?」


「日本からの転移者は、

何故だかウクルクに多く現れる。

正確な数なんて判らないけれど、

僕が知ってる限りはそうだった。

この世界はとんでもなく広い。

それにも関わらずだ。

まあ、十中八九、

ウクルクの王様はその仕組みに気づいてるんだけど。

それに加えて、

イズナ達姉妹の転移には魔族が一枚噛んでいる。

うやむやにしておくには、

少々引っ掛る点が多い」


「へ……? あの王様が何か知ってんの?」


リクはウクルクの王(リンガレイ)の、

人の好さそうな顔を思い出した。

威厳は勿論あったが、

リクの想像出来得る限りの、

その範疇を越えない善人にしか見えなかった事も。


「君はわからなかった?

あの王様はかなりズル賢い。

利用出来るか出来ないかで、

簡単に人を切り捨てれる。

僕やスイに特別に良くしてくれていたけど、

それは僕が日本からの転移者で、

スイには魔法の才能が有ったからだよ」


「……お前らを利用してるって事? 

そんな人だったんだ……。

全然わかんなかったんだけど……」


「……僕とスイが暮らしてたヤンマの家には行った?」


「行った」


「あの置いてきぼりを喰らった様な郊外の外れに、

ヤンマは国からの命令で住まわされていた。

まるで何かの罰みたいに。

それなのに何かと理由をつけて、

僕とスイはずっと、

王宮の近くに住むように誘われていた。

()()()()()()()

わかりやすくない?」


「そんな露骨な……」


「ヤンマは素行が悪くて嫌われていたけど、

元々は王宮お抱えの呪具師だったんだ」


「納得だわ」


「物質に呪いをかけてバフを与えて、

術式を編み込んだ武器や道具を精製する、

ヤンマみたいな呪具師って云う存在は多くは居ない。

しかも呪いって云うのは、

解除出来る人材が限られるんだ。

在り様に因っては、

とても厄介なものだ。

それだけに重宝される」


「だけどヤンマさんは雑な扱いを受けてた。

でもさ、重宝されるんなら、

お前らと一緒に待遇良くしても良いんじゃ?」


「言っただろ? リンガレイの判断基準は、

利用出来るか出来ないかが大きい。

経緯は分からないけど、

(転移者)と、スイ(精霊使い)を独占してるとでも思ったのかも知れない。

反抗的な上に、

自分の欲しいものを独占しているとなったら、

利用価値を見出だす事が難しくなったのかも知れない」


「めっちゃ陰湿だな」


「思い返せば陰湿だったなぁ。

やけに国外に遠征に行かせるし、

僕とスイだけ王宮のパーティーに招待したり。

……他にもあるな。

今思えば、嫌がらせだったんだな。

僕があまりそういうのに気づけないから、

ヤンマには肩身の狭い思いをさせていたかも知れない」


「……お前さ、結婚してたんだろ?

もうちょっと気配りをさ……」


「……そうだね。

僕は確かに他人に配慮が欠けている」


コトハが少しだけ物憂げな表情を浮かべて、

リクは慌てて訂正をした。


「いや……! でも、お前は、

冷たそうだけど、意外と優しいところもあるぞ!」


「どんなところが?」


「え!?」


「そんなに露骨に動揺しないでくれるかな。

それに別に聞きたくないから無理しなくて良い」


コトハは興味無さそうに言った。


「他人に配慮が欠けてるからこそさ、

今は反省もしてるし後悔もしてる。

もう遅いかしれないけれど」


「……」


リクの前を歩くコトハの、

色落ちをし始めているエメラルドグリーンの髪を、

穏やかな風が緩やかに靡かせた。


「少し心配になってきたな。

スイもウクルクに居ないなら、

ヤンマは独りぼっちになってしまっているんだものね」


コトハはそう言って、

擦れて落ちた上着のジャージを、

肩に掛けようと調えた。


二、三歩進んだところで、

呆気なくジャージは再び擦れ落ちてしまっていたが。


◆◆



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