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リンカーネイトリンカーネイトリンカーネイト  作者: にがつのふつか
第五章 『ワールドエンドプレイヤーズ』
189/237

『幕間、イセカイ、その人物と魔族の対話。』


※前回の投稿話から場面変わっております!


時系列としては、

6月5日投稿分 『幕間、イセカイ、様々な事情。』

の続きになっています!



スイ達の居る世界とは別の異世界(日本)

アメビックスの工房(ブティック)で、

(アメビックス)は自分に懐き、先生と呼ぶ、

異世界から連れて来た()と対峙している。


()()姿()()()()()()()()()()


「……ところで、(リンイェ)は無事なのか?」


アメビックスはそう訊ねた。


「……アハハッ!!

連れて来た人間達なんて、

実験動物くらいとしか見てないと思ったが、

意外と情が深いんだな?」


女は悠が絶対にしない様な高笑いをしながら答えた。


「安心しろ。お前のお得意の寄生魔法じゃ無いし、

別にこの女をどうこうした訳じゃ無い。

言っただろ? 俺なりの気遣いだ。

無粋な勘繰りは本当に余計だぜ?」


声も姿も、

アメビックスのよく知る悠そのものだった。


だが仕草や表情や女の立ち振舞い全てが、

不自然な迄に歪められている様で、

女が悠とは別の存在であると云う事実を、

アメビックスは禍々しいとすら感じていた。


それに、

女は自分の事をまるで監視でもしている様に、

事細かに把握している。


「それに」


女はアメビックスの思考を断ち切る様に声を発した。


「この女を人質に取るような事もしない。

まさか、お前にとってそんなに大事なものだとは、

知らなかったからな」


女は可笑しそうにそう言って嗤った。


「……リロクは私を殺すつもりだと思っていたんだが」


アメビックスは呻く様に呟いた。


「だろうな。実際そうだった。

今も大して変わりは無いだろうな。

だが()()が止めた。

殺すよりも利用してやれと言ってな」


()()?」


「お前は魔族だから、

あの世界の神の事を、

どのくらい知ってるかはわからんが少なくとも、

あの世界が把握しきれる一番古い起源の神よりも、

俺達は昔から存在している」


「……」


「意味はわからないが嘘は吐いてないな、

と云う顔だな。

クスクス。

何だ、どんな頭でっかちな奴かと思っていたが、

存外お前は顔に出る判りやすい奴だな?」


「……続けてくれ」


「ふん。そんなに身構えるなよ?

……まあ、いいけどな。

俺達は世界の歴史には決して載らない存在だ。

最古の神よりも古い起源を持つにも関わらずだ。

何故か解るか?

それは俺達の性根が腐っているからだ。

俺達は陽の射す表舞台の暗幕の裏に貼り付いて、

自分達の都合だけで世界に干渉し続けて、

悪戯に掻き乱しては調えて、

破壊と再生を思うがままにしていると認識しては、

繰り返し自己陶酔し続ける生き物の集まりだ。

国も神も世界も、

何千年もの間、

そうとは露知らずに懸命に永らえようと必死に踠く、

その様が俺達には可笑しくて堪らない」


───この女は狂ってる。


アメビックスはそう思った。

女の言う現実離れした話の内容も、

それを嬉々として語る女の様子も、

どう考えてもまともでは無いと云う客観的事実として、

アメビックスに強烈な印象を与えていた。


「イカれてる」


アメビックスは思わずそう言葉を発した。


「イカれてんのさ」


「……君の話が事実かどうかよりも、

それほどまでに永く生きる生物は、

居ないだろうと云う疑問が気になるんだが」


「まあ、常識ではそうだろうな」


「つまり常識の範疇外だと?」


「二度言わせるな。勘の鈍い奴だな」


「そうすると君は普遍的な生命のサイクルを、

持たない生物と云う事になるな」


「当然だろう? 驚いた。

まさか魔族のお前から、

そんなありきたりな結論を聞かされるとは」


「君は精霊か何かで、

精神的なもので意識や魂を存在させ続けている」


「半分正解で、半分ハズレだ。

それにつまらない解答だ」


「何者なんだ?」


「……つまらない奴だな。

リロクがお前を痴れ者だと言う理由が分かる。

おい。

仮にも俺はお前をリロクから庇ってやっているんだぞ?

あまり俺を幻滅させるな」


「……君の求める答えが何なのかが、

私には全く検討がつかない。

それに、君が私に何を期待していたのかもだ」


「もういい。お前がつまらない俗物だと云う事は、

よぉく理解出来た。

これ以上、お前と喋っていても単純に面白く無い。

結論から教えてやる。

お前が造り出して、

お前の身体から離れていったリロクと、

再び融合して元に戻れ。

それから、

時間を遡る魔法を完成させろ。

その魔法を使って俺の本当の名前を思い出させろ」


「本当の名前……。そういえばそんな事を言っていたな」


「リロクの魔法では未だ不完全だ。

術者であるお前とリロクが協力すれば、

あの魔法は完成するかも知れない」


「不完全だとしてもリロクは、

あの魔法を操る事が出来るのか?」


「出来た。

何だよ?知らんのか?」


「知らない」


女が嘘を言っていない事は判っていた。

ただ、

アメビックスはそれを事実として信じたくなかった。


「不満そうだな? だけど誇れ。

お前の魔法は優秀だ。

自我を持った後に独自で魔法の開発に励み、

皮肉にも術者を超える魔法使いになった。

育ったと云うべきか」


アメビックスの歯軋りの音が聴こえる。


「コレを読め」


アメビックスに向かって、

女が一冊の本を乱雑に放り投げた。


「何だコレは?」


アメビックスはそう言いながら頁を捲ろうとしたが、

指先に僅かな引っ掛かりを感じてすぐに悟った。


魔導書(グリモワール)か」


「そうだ。それも俺の知る限り、

飛びきり頭のおかしい奴が書いたものだ。

ご丁寧に魔法で施錠してある。開いてみろ」


アメビックスは言われるままに頁を開いた。

魔力を込めると本の施錠はすぐに解かれた。


「『空想の根源、その考察と顕現』。

随分、大げさで古臭い題名だ」


魔法に関して書かれた書物は、

人間魔族問わずに随分読んで来たものだったが、

その本の題名は初めて見た気がしていた。


題名に負けず劣らず、

内容には前時代的な項目が並んでおり、

何故わざわざこのタイミングで女が見せてきたのかが、

アメビックスには理解出来なかった。


しかし、

意味の無い事を女がしないと云う事を、

アメビックスは感じとる事が出来た。


「……“時間を遡る魔法”。

……“朝と夜を交代させる魔法”。

……“身体を透明に変える魔法”。

……子供が読む様な内容に見えるが?」


それに魔導書と云えど、

アメビックスが手にしている本には、

魔導書としての効力は何も無い様に思えた。


魔力さえあれば習得していない魔法でも、

取り出して扱う事の出来る簡易発動装置。


それにも関わらず、

この魔導書に記載された魔法を扱う事は出来ない。

実現させる事が不可能に思える様な内容ばかりだった。


「アハハッ!!

子供が読む様な内容か。確かにそうだ。 

特にお前の様な、

産まれつき高い魔力を備えて誕生する魔族には、

さぞかし稚拙な内容に思えるだろうな」


女はとても楽しそうに嗤った。

そこに嘲る様なニュアンスが含まれている事を、

アメビックスは見逃さなかった。


「声に出して()()()()()


逆らえなかった。

女の声はヌラヌラとした堅い鱗を持つ、

巨大な蛇の様な重厚さを持っていた。


そして、

女の言葉の意味がすぐに判った。


魔導書に記載されている魔法の解説文に有る、

術式や詠唱の文言に眼を通して、

それを声にしようとした瞬間だった。


眼に見えない、

不可視の鋭い牙で、

喉を潰されそうになる想像(イメージ)が直ぐに浮かんだ。


その牙はとても乱暴で、

今にもアメビックスの喉を喰い破りそうであった為、

詠む事を止めざるを得なかった。


その間中、呼吸は止まり、

牙が喉から離れた瞬間に彼は膝から崩れ落ちて、

激しく咳き込み続けた。


「……ッガハッッ……ガハッ!!

……なんだ……、今のは……?」


「驚いたか? この魔導書に載ってる魔法はな、

全てキチンとこの世に存在する代物だ。

術式も詠唱の文言も、

その魔法達を発動させる為に書かれた正式なものだ」


「……こんな絵空事の様な内容のものが?」


「そこだ」


女は跪くアメビックスを指差して応えた。


「魔族は高い魔力と知力を持つ。

この世界に存在する種族の中でも、

それは郡を抜いている。

だが、それが魔法の可能性を狭める。

“出来る訳が無い”。

賢いお前達はそう考えて、

情報の取捨選択を素早く行ってしまう。

俺が思うに、

魔法の技術に於ける洗練や上達を担うのは、

お前達魔族だった。

その反対で、

斬新で革新的な物を産み出す者の多くは人間達だった。

魔族が可能性を狭めると言った意味が判るよな?」


アメビックスは返事をしなかった。


「笑える。

それにも関わらず、

お前はこの魔導書に載った魔法に拒絶された。

魔法に拒絶されると云う事は、

()()()()()()()()()()()()()()と云う事だ。

その本を書いたのはシットリッカーズって奴だ。

名前くらいは聞いた事があるか?

人間の魔法使いだ。

高い魔力を誇りにして、

人間達を見下すお前が、

対価(魔力)が足らずに腹を立てた魔法に喰われかけたんだ。

人間の創った魔法にな」


「……貴様……!!」


アメビックスはその瞳を朱く輝かせ、

魔力を圧縮した攻撃魔法を女に向けて放った。


爆ぜる様な音を狂った様に上げながら、

紅蓮の火炎魔法が女を呑み込もうとした。


「それにな、こんな調子だからお前達は与し易い」


女の声が火炎に呑み込まれながら、

反響もせずに遠くから聴こえた。


女の身体を蹂躙して、

全て喰らい尽くす様に炎はしつこく唸りを上げ続けた。


アメビックスは女が炎から逃れて、

この部屋の何処かに潜んではいないかと、

女の気配を探り続けた。


女の魔力は荒れ狂う炎の中に居たままだった。


アメビックスは用心深く様子を伺いながら、

女が動く事の無い事を確認した後、

自分の工房を燃やし尽くしてしまわない様に、

慌てて魔法の発動を停止させようとした。


しかし、

魔法が消えていくよりも先に、

アメビックスは足音を聴いた。


炎の中、自分に向かって真っ直ぐに歩いて来る足音を。


「怒りに身を委せて撃った割りには、

自分の根城の安全は、ちゃっかり確保するんだな?」


女は髪の毛の一本も衣服も切れ端も、

アメビックスの炎に焼かれた痕跡ひとつなく、

先刻までと変わらない様子でそう言った。

とても退屈そうに。


女は言葉を言い終えた後、

アメビックスの顔面を激しく殴りつけた。

抵抗する間も無く、

繰り返し殴打され続け、

怯んだアメビックスは尻餅をつき、

そのアメビックスの顔や腹を、

女は容赦無く蹴り上げて、無惨に踏みつけた。


アメビックスは血反吐を吐き、

女の攻撃から身を守る様に、

腕で頭を庇う不様な姿を晒していた。


「おいどうした? 少しはやりかえしてみろ?」


女の声は冷淡だった。


その間にも女の暴力は止む事は無く、

アメビックスは自分の中で芽生えて、

捕えて離さない強烈な恐怖感に怯え、震えた。


「分かったか? お前の魔法なんざ、

俺にはまるで効かないんだ。

契約なんかで縛るまでも無い。

どちらが上なのかを解らせてやるだけで良い」


数十分に及ぶ激しい暴行の末、

襤褸切れの様に、

横たわるアメビックスを見下ろしながら、

女はそう言った。


(女の言う通りだ)


アメビックスは身体を起き上がらせる事もせずに、

ただそう考えていた。

肉体が受けたダメージは、

そこまで大きいものでは無かったが、

女が自分の魔法を、

相殺する訳でも、消滅させる訳でも無く、

ただ、

その身に与えても効果が無かったのだと云う事実が、

彼を存在の根の様なところからへし折り、

耐え難い屈辱が彼の魂を打ちのめしてしまっていた。


「さあ、異世界(あっち)に戻ろうぜ?

リロクをお前の中に戻してやる。

仲直り出来て良かったな?

お前達は俺に協力してくれれば良いんだ。

加えてやる。

管理者(ミニチュア)の末席にな」


炎は鎮まり、

照明の灯りも絶えた暗い部屋で、

血生臭いニオイの中、

女の声が暗闇に呑まれる事無く響いた。


◆◆

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